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化粧品による皮膚常在菌への影響ー健康な肌は健康な微生物叢を反映するー~腸活ラボマガジンVol.29~


はじめに

みなさん、こんにちは。やまだです。今回は、僕たちが普段使う化粧品(コスメティクス)が皮膚にすむ微生物たちにどのような影響を与えるかについて考察してみたいと思います。
おそらく、各化粧品の成分がどのような細菌を増やしたり減らしたりするかわかりやすく考察された日本語の文章はおそらくほとんどないのではないかと思います。読んでよかったら、もしくは後で読み返したいと思ったらぜひいいね(スキ)してくださいね!

肌に住む微生物を知ること

健康な肌は健全な微生物叢を反映し、その逆もまたしかりです。現代社会では、肌の刺激反応が増加しており、研究者、皮膚科医、化粧品業界が肌の微生物叢とスキンケア製品の使用との関連性を調査するよう迫られています。化粧品によって肌の正常な微生物叢が変化し、これらの変化が肌の微生物叢を回復する助けとなることもあれば、逆に悪影響を及ぼすこともあります。
肌は、大人の場合、平均的な表面積が30平方メートルにも及びます。そして、肌質は人によって異なりその差は大きいです。その差を広げる要因になっている肌に住む微生物叢の構成です。これは、細菌、真菌、微小真核生物(ダニ類)、古細菌、ウイルス、ファージなどが含まれます。
そして、多くの人が誤解していることですが、全ての肌の微生物が本質的に危険なわけではありません。病原性は、生態系の均衡が崩れ、多様性が減少したときにのみ発生します。この混乱の問題は、健康意識の高い人々には広がっています。
過去5〜10年間で、肌の損傷率が著しく増加しています。これには複数の環境要因が寄与している可能性がありますが、研究者たちは現代の化粧品に含まれる合成化学成分の使用の増加が主な犯人であり、大きな脅威をもたらしていると特定しています[ref1]。
パーソナルケア業界において、肌の微生物相は有望ながらもしばしば見過ごされる領域であり、肌の微生物相のバランスに影響を与える可能性のある製剤の使用が増えていることがその証拠です。多くの皮膚疾患の例が、この肌の微生物相の異常または乱れに関連付けられています[ref2]。
この乱れはしばしば過度な製品使用にまで遡ることができます。肌の科学、住んでいる微生物たち、そして化粧品の使用によるその変化との間の複雑な関係を理解することは重要です。微生物とスキンケアルーティンとの相関関係をよりよく理解することで、肌の微生物叢、皮膚疾患、全体的な皮膚の健康との関係についての知識を大幅に拡大することができると思います。

肌の微生物叢

実は、肌の微生物は、腸内に次いで二番目に大きな微生物群です。そして、意外かもしれませんが、肌は、汗や角質層を通じて、この微生物群の発育に必要な栄養素を提供します。角質層は、主にケラチンと膜タンパク質からなる75-80%のタンパク質、主にセラミドやコレステロールからなる5-15%の脂質、未知の化合物5-10%、および水(全組織乾燥重量の15-20%)で構成されています。
そして、その肌には1200以上のバクテリア種が生息しており、そのうち90%以上が次の4つの門に属しています。

1.放線菌門(52%):主にミクロコッカス属、プロピオニバクテリウム属、コリネバクテリウム属を含む。
2.ファーミキューテス門(24%):スタフィロコッカス属、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属を含む。
3.プロテオバクテリア門(16%):パラコッカス属、ヘマトバクター属、スフィンゴモナス属を含む。
4.バクテロイデス門(6%):主にポルフィロモナス属、プレボテラ属、フラボバクテリウム属を代表とする。

さらに、原核生物の肌の微生物相のうち、最大4.2%は古細菌で、その中で主要な群をなすのはタウマアーキオータ門です。多くの人にとっては、細菌と古細菌の違いなど、焼き肉好きな人によっての、キャベツとレタスの差と同じくらいどうでもいいことですが、実際は全然違う生き物です。
真菌も色々います。マラセチア属、アスペルギルス属、クラドスポリウム属、エピコクム属、ポマ属、クリプトコッカス属、ロドトルラ属、ミクロスポルム属、トリコフィトン属、サッカロミセス属、カンジダ属、エピデルモフィトン属などです。真菌はカビですが、一般的にカビでイメージする形態とは異なっていることは述べておいてもいいかと思います。
そして、さらに小さなウイルスやファージも住んでいます。
これらの常在微生物叢は、免疫系の調節、生息地の占有、有害で感染性のある微生物の肌への侵入の防止など、有利な役割を果たしています。具体的には、アクネ菌などが弱酸性に肌を保つことで病原菌が増えにくい環境を作っているなどがわかりやすい例ですね。

化粧品と肌の常在微生物叢との相互作用

スキンケア商品には、ボディウォッシュ、ジェル、ローション、クレンザー、保湿剤、化粧水、日焼け止めなどがあり、主な目的は肌を内側から養うことにあります。しかし、化粧品成分が肌の微生物叢にポジティブな影響とネガティブな影響の両方を及ぼす可能性があることを知っておかなくてはなりません。
ある研究では、スキンウォッシュ製品を使っても、微生物叢に対して、ネガティブな影響はないと主張する研究もあります。これらの研究では、商品を使うと、微生物の濃度が5~10倍減少します。ただし、これらの商品の持続性は、適用部位によって異なり、その効果は、数週間続くこともあり、個人による差が大きいです。そして、これらの反応には、ステロイドやフェロモンのレベルの変化、細菌や古細菌の生態系の変化が含まれ、変化も様々です。
そして、最近では、微生物の豊かさが健康的な肌と関連することが証明されてきたため、ドイツの認証機関(https://microbiome-friendly.jp/team/)により、2019年に「マイクロバイオームフレンドリー」認証が化粧品に対して初めて導入され、「MyMicrobiome」によって確立されました。ここでは、製品の純度、目標とするエリアの特定のバクテリアの安全性、微生物相の多様性の保存、肌の自然なバランスの保存(有害な微生物の誘導も、共生菌の抑制もなく)がすべて確認されます。

化粧品中の防腐剤が肌の微生物叢に与える影響

化粧品中の水、油、ペプチド、炭水化物などの成分は、微生物の繁殖を促進します。そのため、その汚染を防ぐために防腐剤が含まれます。しかし、防腐剤を抗菌のためだけに使うとその本来の目的を果たさない可能性があります。
これまでに防腐剤による特定の細菌の影響も調べられていましたが、細菌ごとに有益だったり有害だったりするなどしています。
そして、異常な微生物叢を修復するために最も効果的な混合物は、以下のような成分を含むものです。これらは、アクネ菌(C.acnes)を適度に抑制し、常在菌でありながら様々な皮膚疾患や食中毒を引き起こしうる黄色ブドウ球菌を強く抑制します。
成分:ドロキシアセトフェノン、フェニルプロパノール、プロパンジオール、カプリリルグリコール、トコフェロール、およびグルタミン酸二酢酸四ナトリウム
それぞれの役割については、下記サイトなどが参考になります。

化粧水、乳液、クリーム、ベビークリームには、パラベン、1,2-ヘキサンジオール、フェノキシエタノールなどの防腐剤が含まれています。これらは、黄色ブドウ球菌、大腸菌、緑膿菌だけでなく、皮膚常在菌(S. epidermidis、Shigella flexneri、Enterobacter aerogenesなど)に対しても強力な抗菌効果を発揮してしまいます(ref3)。 一般的なクリームに使用されているパラベンは、皮膚の糸状菌やカンジダ属やマラセチア属などの酵母に対して強力な効果があることが示されています(ref4)。
また、フェノキシエタノールの使用は皮膚微生物叢を乱し、門レベル(プロテオバクテリアの増加)と種レベル(プロピオニバクテリウム・ヒューメルシイ、S.エピデルミディスの減少)の両方で変化をもたらしたという報告があります(ref3)。ヒト微生物叢の理解により、防腐剤は、化粧品において大切な役割を果たしますが、皮膚微生物叢に潜在的に悪影響を及ぼす可能性があることがわかってきたということは頭の片隅に入れておいてもいいかもしれません。

手の洗いすぎに注意

手をどのくらい頻繁に洗うかなどが、手の微生物叢の変動に影響を与える可能性があります。手を清潔に保つことは大切ですが、慢性的な洗浄は微生物叢の異常を引き起こす可能性があります。逆説的ですが、定期的に手を洗っているヘルスケアスタッフの手には、そうでない人々よりも病原菌が多く存在しています(ref5)。これは、微生物の多様性が少ないと、黄色ブドウ球菌、腸球菌、真菌(Candida albicans)などの病原性の種が増加する可能性があることを示しています(ref6)。

クレンジングと肌のpH

多くのクレンザーは、表皮の保護バリアの主要な防御成分を取り除き、外部の攻撃者にさらすだけでなく、肌のpHを乱す化合物を使用しています(ref7)。肌のpHは、健康な微生物のコミュニティを維持するために大切で、弱酸性が基本です(人間を管として考えると、その外側(腸も外側ですよね?)は弱酸性が基本と覚えておきましょう)!
クレンザー、石鹸、メイクアップ、クリーム、ローションに含まれる水酸化ナトリウムの濃度が高いほど、pHレベルが高くなり、共生微生物であるCandida albicansが真菌感染を引き起こす可能性があります(ref8)。

天然(オーガニック)製品に注意

スキンケア製品の有効成分は、明るさを上げる、乾燥を対処する、老化と闘う、日焼けを治療する、ニキビを管理するなど、様々な目的のために作られています。これらすべてのグループは、肌の微生物相に対してポジティブな影響とネガティブな影響の両方を及ぼすことがあります。化粧品に使用される植物エキス、果物エキス、海藻エキスは、C. acnesの個体数を変化させることで、ニキビのような皮膚疾患を効果的に抑える驚くべき可能性を示しています(ref9,10)。
また、人類が20万年の歴史の中で最後の60年間にしか遭遇していない合成物質とは対照的に、自然界に存在する量の天然成分は、肌の自然な状態にとって「異物」とは認識されていません(ref11)。これが、製品を「天然またはオーガニック」とブランド化すると簡単に注目を集める理由です。僕たち消費者は、肌への懸念から「天然」(やオーガニックなど)とラベル付けされた製品を好みがちです。ただし、天然製品は実際には見た目ほど純粋ではない可能性があることを認識することが重要です。たとえば、一部の「天然」ラベル製品に使用されている合成化合物であるメチルイソチアゾリノン(MI)は、神経毒性(ref12)、アレルギー反応 (ref13)、微生物の変化(ref14)などの反応を示す可能性があります。驚くべきことに、このメチルイソチアゾリノンは、メイクアップ、メイク落とし、チーク、フェイスパウダー、ヘアケア製品、ネイルおよびワックス製品、保湿クリーム、日焼け止めなどの大人向け製品だけでなく、ベビーワイプなどにも使用されていますので注意が必要です。

天然成分と合成成分の比率を変えた時に、微生物叢や肌の水分量などにどのような影響を与えるかについて調べた研究があります(ref15)。用いたのは、100% 天然の製品 (JooMo の洗顔料)、天然と表示されているが 70% の合成成分を含む製品、75% の合成成分を含む合成製品です。
JooMoは天然成分を使っているイギリスの化粧品ブランドです。

皮膚の微生物叢のサンプリングは、製品使用前 (T1)、製品使用 2 週間後 (T2)、製品使用 4 週間後 (T3) に実施されました。T1 から T2 へ、および T1 から T3 への移行中に、JooMo は微生物叢の多様性と種の豊富さが最も急速に増加しました。また、水分損失が最も少なかったのはJooMoを使用したグループでした。保湿の観点からも微生物叢の多様性は大切ですね。

見落とされがちな皮膚疾患に早期老化があります。人間の真皮では、老化は水分量の減少によって特徴付けられます。pHが上昇すると老化プロセスが加速し(ref16)、多様性が低下します(ref17)。一般的なスキンケア製品はpHが5.5以上であることが多く、これにより皮膚が乾燥し、感染症や早期老化が起こりやすくなります(ref18)。この研究で使用された合成製品と「天然」製品はどちらもpHが6と高かったです。一方、JooMoのpHはpH 4.5と測定されました。pHが弱酸性であるものは、肌の老化を防ぐことができるということは覚えておいて損はないでしょう。

皮脂のケアと微生物

皮脂腺が生成する皮脂は、健康な肌を維持するために重要な天然の保湿剤です。過剰な皮脂分泌は、ニキビ、脂性肌、毛穴の詰まりなどの問題を引き起こす可能性があります。これを防ぐため、多くの人々がローションなどの異なるスキンケア製品を使用しています。しかし、皮脂の減少は皮膚微生物の食物源の減少を引き起こし、皮膚の微生物バランスの不均衡を引き起こす可能性があります。化粧を使用する人と使用しない人の比較では、化粧を使用する人の額の皮膚において顕著に高い微生物多様性が見られ、Selenomonas、Aggregatibacter、Aquicella などの属の増加が観察されました。

おわりに

大人の微生物群は多くの場合、安定していますが、内因性および外因性の要因によって変化することがあり、その逆の現象が起こることもあります。さまざまなスキンケア製品の使用が微生物の変化を引き起こすことが確認されています。これらの変化が肯定的なものか否かは、変化する微生物の種に依存します。製品の種類によっては、その結果も異なる可能性があります。例えば、アクネ菌(C. acnes)などの微生物のバランスが崩れることで、肌のトラブルが引き起こされることがあります。また、S. epidermidisなどの共生菌が病原菌に変わり、アトピー性皮膚炎を増悪させる可能性もあります。
ですので一番大切なのは、各化粧品を通じて炎症だったり肌トラブルがあった場合は、その使用をやめることです。
食べるもの、皮膚に使うものどちらも、共生している微生物にも影響を与えて、結果的に僕たちの体に返ってくることを忘れないようにしましょう!
ここまで読んでいただきありがとうございました!
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