家具を捨てたら思いがけない言葉に泣いた
物心ついたころから、モノを捨てられない性分だ。
生ごみだとか使用済みだということが明白に分かる「ゴミ」は捨てられるのだが、いわゆる「いつか使うだろう」といった属性のモノが捨てられない。
段ボールにしまって1年開封しなかったものは捨てても差し支えないというのは断捨離術でよく聞く話だが、私の場合 段ボールに入れたまま1年どころか引っ越すときでさえドアトゥドアならぬ「クローゼット トゥ クローゼット」で荷物を持ち歩いてきた。今住んでいる家に持ってきた私の荷物には、8年前に東京から地元にUターンして帰ってきたときの引っ越し業者の社名が入った段ボールが混じっているから笑えない。
モノを捨てられない苦悩について完全匿名でブログを書いたところ1日に10万PVをたたきだし、ブログの運営元から「オフィシャルブロガーにならないか」と相談をいただいたこともある。
捨てられない部屋のビフォーアフターの写真を包み隠さず出したこと、本音をありのまま書いたことがウケていたのだと思うが、捨てられない苦悩をずっと綴り続けることに私なりの抵抗があってお断りした。
すこし脱線してしまったが、そんな私の「捨てられない」をメルカリが助けてくれた時期があった。かれこれ3年ほど前になるだろうか(現ラクマが「フリル」という名前だったころの話だ)。
洋服やアイドル雑誌の切り抜きを中心に、買うだけ買って使わなかったコスメや家具家電に至るまで半年で200件を超える取引をした。仕事帰りはいつも発送のためにコンビニに寄っていたことが懐かしい。
今でこそ、バラエティー番組で「メルカリで売ったらいくらになるか?」と断捨離の総額を競う企画が出てきたが、3年前にして部屋のものを売りまくっていた私のもとには同僚や友達から「細かいことは任せるから代わりに出品して!」と個人的な依頼をたくさんいただいたほどだった。
そんなメルカリ熱がパチンと冷める【事件】が起こる。かつて気に入ってはいていたミニスカートを私なりの最安値でお譲りしたところ、受け手から「思っていたよりダサかった」という言いがかりでマイナスの評価が付いた。いわゆるクレーマーだったようで事務局が評価そのものは対応してくれたものの、私の中には「宝物を侮辱された」という心の傷が、たったワンコインの利益と共に残った。
あんな風に言われるくらいなら私の手元で使用機会を待っていたほうがいい。そんな風に再びこじらせてしまっていたのだが、これがまた結婚によってくつがえる。
今までと違い2人で暮らす家では、どんなに間取りが広くなろうとも持てる荷物の量は独身の頃とは全く異なる。さらに子どもが生まれた今、日々増え続けるおもちゃと絵本が部屋を侵食し続け、いつ使うかもわからない私の持ち物とはサヨナラするときがきた。
20代前半の頃の洋服(大量)、それから容量が中途半端なスーツケース、撮影のために買って一度も吹いていないし吹くこともできないサックス。
ここまでは良かった。
10年前に上京する際に選んで買ったテレビとテレビ台。
「持っていればゲームするときに使うから」とずっと持ち歩いてきたが、皮肉なことに夫も1台テレビを持ってきており、さらには新居に合わせて大型のテレビを新調したため、どう見ても一家に3台のテレビは多すぎる。クローゼット収納の中で、電源を入れられることも無くただ沈黙している私のテレビ。
メルカリの新サービスで「たのメル便」といって、売る手続きさえ済ませれば専門の業者が引き取り・発送をしてくれるサービスがあることを知った。テレビ台とセットで売ってしまおう、ダメならジモティーを使って誰かにあげようと思った。ところがただでさえ子育てしながらの毎日。スマホひとつで、といってもなかなか重い腰があがらない。
そんなときに、あまりにも突然に捨てるきっかけが訪れた。
娘がベッドから落ちて怪我をしたことを機に、夫と話し合いを重ね、ベッドを破棄して家族3人布団で眠ることに決まった。
ベッドを破棄といったって、結婚して二人で買いに行ったベッドで、たった1年しか使っていない。ベッドの色やフレームをあんなに時間をかけて選んだのにも関わらず…とつい二の足を踏むが、娘の安全にはかえられない。
家具の引き取り業者に電話をかけ、引き取りに来てもらったところ、「捨てるなら今かもしれない」と思い立って、つい先ほどテレビも、テレビ台と一緒に持って行ってもらった。
私も往生際が悪すぎて、「上京するときに新品のテレビを見てこれからはチャンネルの決定権は私にある!」とはしゃいだなぁとか、東日本大震災で部屋が大きく揺れた時に、テレビだけは!とテレビをおさえて揺れが収まるのを待ったなぁとか、業者が引き取ったあとになって走馬灯のようにテレビにまつわる思い出がよぎる。
思わず、10年前のガラケーにあった学生時代の部屋の写真を掘り起こしてしまったほどだ。
心の中でめそめそしながら、母に「ベッド捨てた。勢いで、私のテレビも捨てちゃった」とLINEを送った。
てっきり「もったいない」だとか「未練があるなら夫くんが持っていたテレビのほうを捨てたら良かったのに」などと返信が来るかと思っていたら
「捨てる決断するのって大変だよね、がんばったね。」と一言。
未練とはまた違う涙が出そうになった。
モノが手に入らずに物欲を満たせない時の苦しさと、まだ使えるけれど不要なものを手放さないといけないときの苦しさ。どちらが苦しいだろうか。
ちなみに、夫は「トランクルームを借りる?」と提案してくれるのだが、トランクルームに入れようものならついに取り出すことのないまま月日が経つのが目に見えているので、トランクルームに入れたいと思ったものから少しずつ処分していくことにする。
がんばった、私。さようなら、テレビ。
それでも、そのぶんクローゼット収納にゆとりができて、部屋の物を少し整理したことでリビングが広くなってすでにちょっと嬉しいお調子者の私がいる。少しずつ、私の価値観をシフトしていけますように。
結論、何が言いたいかと言うと引き取り業者はぼったくりだったが長年捨てられなかった不用品とケリをつけるにはいい機会になった、かもしれない。おやすみなさい。
2020/10/11 こさい たろ
**引っ越しのときに思い切って捨ててきた未練note
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