お盆商戦奮闘記
何もない平日の営業日がこんなに平和だったとは…
繁忙期の感覚が抜け切らないままのハイペースで仕事をこなした結果として時間が余ってしまい、別にやらなくてもいいお掃除お片付けをしながら1日を振り返る
水曜日にお盆も終わり、木曜日に畑多楽縁の畑の管理をして、今日はちょっと拍子抜けな金曜日
お盆商戦の6連勤が【消える魔休】によって9連勤となり
9回あれば野球だってできらぁ!
と、開き直ってこの夏を充実させようとした今年のお盆期間
もはや記憶もあやふやになってはいるが、いい機会だしちょっと振り返ってみよう
1日目は火曜日だった
午後3時
特需期恒例のプレハブが従業員用駐車場に届いている
休憩スペースにするためだ
本来の休憩室は寿司場と繋げて作業スペースとなってしまうために、休憩のためのプレハブが届く
とはいえ、「休憩場所をちゃんと確保してあります」という建前だけのプレハブで、エアコンが付いていない
というか、電気すら引かないため扇風機も使えない
そんな灼熱地獄と化すプレハブに待機するのは休憩とは言わない
求刑だ
とはいえ、そんな建前のためにテーブルやイスや、その他もろもろを運び込み体裁を整えなければならない
この日はその作業のためいつもより早く来て、プレハブの鍵を開け、窓を全開にした後、脚を折り畳むタイプの会議室によくある長机を運び込み、その後、作業場化の進む休憩室から不要なイスとその他諸々を運び込む
今日は休みのはずのみどりさんがたまに巡回や手伝いに来るチェックアウト部門の上司と一緒に休憩室にいた
実いうとこの時点ですでに深刻な人員不足に陥っていて、新型コロナウイルスによる欠員1名(最短で木曜日復帰)、持病による欠員1名(8月いっぱいお休み)、店長によるチェッカー短期バイトを取らないという決断により補充人員は無し
みどりさんは半日の休日出勤か、又は、少ない人員でお盆商戦を乗り切るための細やかな人員配置を練るために来ているのだろう
2人に挨拶をしつつ、手短かに必要なものを運び出しその場を去る
エアコンの入った休憩室の涼やかな空気、みどりさんの存在する空間
そうか、ここが天国か
などと思いながら、灼熱地獄に舞い戻る
2日目は決定的だった
午後4時
水曜日毎週恒例ポイント7倍デー
出勤時の打刻をするために事務室へ入ると店長が深刻そうな顔をしていた
大抵無茶振りが飛んでくるパターンなので、すげぇ面倒くさいのだが、木曜日の公休を挟んでお盆商戦に突入する前の確認事項や打ち合わせのために話しかけなければならない
我ながら難儀なことだ
店長の話を聞いてあげると、なかなかに大変だった
グローサリー部門のチーフが新型コロナウイルス濃厚接触者となって社内規定の期間出勤停止となるとのこと
店長の判断により特需期の短期バイトは全て製造部門に振り分けられているので、こちらも補充は無し、さらにグローサリー部門のパートさんにも急な欠員が出ているとのこと
この店はグローサリー部門と日配部門とが午前中に一緒になってその日の売り場を作っていくので、つまり、両部門人手が無くなったということ
ボクはこの店の後方部門夜間担当、器用貧乏を地で行く何でも屋
そのボクに、諸々の穴埋めのために休日出勤して欲しいとのこと
…おう、いいけど、穴は埋まらんよ?
ついでのように店長が言うには「リサイクルボックスの回収業務にあたる清掃業者さんの態度が悪い」というお客様からのクレームがあったという
…ついでのように、定期的なリサイクルボックスへの巡回、必要とあればいっぱいになっているペットボトル、アルミ缶の袋交換の業務が追加された
で、最後に
明日社長巡回来るってよ
…ということで、今夜は日付変更を余裕で過ぎる居残りが確定したので…あったぁ
まず、朝、畑でシカが死んでたからな
出勤前にシャワー浴びようとしたら給湯器がエラーコード吐き出しやがったからな
とんでもねぇ日だよ
まったくもー
畑多楽縁の管理作業をパッパと終わらせて
一息ついたら出勤する
午後3時
人手が足りないながらもみんなで頑張っている
が、明日ポイント10倍デーで明後日からお盆本番だからかなぁ
みんなボクの顔見たらさぁ
あって顔してぇ
早めに切り上げてぇ
帰っていくんだよねぇ
あっれぇ
おかしいなぁ
ボク今日休日出勤だから
役割済ませたら
終わりにして帰ろうと思ってたんだ
閉店作業は
ボクが公休の日と同じパターンで
みどりさんがチェックアウトで引き受けますって言ってくれてたからぁ…
ヴァァァァァァァァァァァァァ
休出なのに…
丸投げ禁止
(ソーダソーダー)
あーもー
やってやろうじゃねェか!
ピクミン4で日頃鍛えたダンドリをなめんな?
オレは媚ねェへつらわねェどんな状況だろうと、意地とダンドリで切り抜けてやる
そんなことより!
出勤停止になっていたチェッカー社員のシロさんが予定通りに復帰となって何よりでした
これで、首の皮一枚繋がったというものです
どうせ閉店までコースになったのですから、バックルームの物置棚整理もやっておきましょう
毎年お盆時期にはサービスカウンターのコーヒーマシンを片付けて、のしがけ、お包み、予約商品の受け渡しカウンターへと変形させるのが慣例
そのコーヒーマシンを片付けるためのスペースを確保しようというのです
部門が違うので私の仕事ではないのですが、私はその身に受けた恩と讐を忘れない性でございますゆえ、このくらいのお手伝いはさせていただきましょう
我がままに役に立って見せたい人がいる
普段からいろんな部門のサポートをしているのだもの、その中で
ちょっとくらい好きを優先してもいいじゃない
滅多に使わなくなって片付けた10倍デーポスターや、月1回くらいしか出さない祝日用の国旗もちょうどこの棚間に隠した
これらをどこにどのように設置すればいいかのを語り継ぐのも骨が折れると思っていたところさ
さっさと帰れなかったというのも、この際だ
タロイモはちょうどよかったと思うことにした
…とさぁ
4日目はポイント10倍デー
今日から6日間ガンバリマショー…
の、はずだった
というのはもう忘れよう
きっと世界は誰かの手によって創り変えられてしまったのだ
なぜそう思うのかはわからないが、なんか動物の絵柄が描かれたペットボトルキャップみたいなのには触らないでおこう
きっとロクなことにならない
なんかすでに体力が半分近く削れている気がするが、どうしてだったか思い出せないなぁ
午後3時
今日はポイント10倍デー
山の日だからというよりかはお盆準備のためのお客様呼び込みのためのポイント10倍デー
まず、【山の日】なんて昭和生まれのボクには馴染みのない祝日を忘れていなかったことを褒めて欲しい…のだが、そもそも祝日に国旗を刺すところがあるというのを知らない従業員の方が圧倒的に多いので、うっかり出し忘れても誰にも気づかれないということは先月【海の日】で実証済みだ
誰にも見向きされない国旗を傍目に、ボクはリサイクルボックスのペットボトルとアルミ缶回収の手伝いをしていた
確かにドリンク類はよく売れている
だが、それ以上の量が持ち込まれていないか?と思うほどに頻繁にリサイクルボックスの90リットルをゆうに超えるサイズのゴミ袋を交換しないとすぐにボックスが一杯になるし、来る人来る人ボックスが一杯であろうと詰め込もうとするし、溢れさせるし、平気でその辺に置いておくし…そりゃ、60過ぎた掃除のおばちゃんの態度も悪くなるさね
まあ、とにかくやるとなったらしゃかりきだ
ブスッと仕事しても態度が悪いと見られるし
クタクタ仕事をしていても、姿勢が悪くちゃかえって体の負担は大きくなる
しかし、それにしたって外は暑い
そうだ、この作業が終わったら日配部門を手伝おう
確か個食アイスが日替わりだった
こう暑ければきっと売り場は補充を必要としているはず
売り場の様子と冷凍庫の在庫を確認せねばなるまい!
と、思った矢先
胸の内線用PHSが呼び出し音を発する
秒で取ると、チェックアウト社員のクロさんから
「レジ応援お願いします」
とのご用件
二つ返事で、わかりましたすぐ向かいます
どうやら、極楽冷凍庫ツアーはキャンセルになったようだ
夜も遅くに、明日からの予約の寿司や刺身通称おもてなしメニュー受け渡しのための準備に余念がないみどりさんと事前確認をする
チェックアウト部門の求めに応じて惣菜や鮮魚作業場から予約商品を持ってくる
盆と年末恒例のお仕事
さあ、お役に立って見せましょう!
5日目は記憶にございません!
午後2時
店が忙しくなるにつれて「夜間担当」という役職名がゲシュタルト崩壊を起こしてゆく
バックルームで会う顔ぶれもいつもと違うが、会う人会う人
ああ、そういう時期か
って顔をする
新型コロナウイルスの濃厚接触者への社内規定により出勤停止になっていたグローサリー部門のチーフも、本人への感染はなかったのでここで復帰となったのは不幸中の幸いだ
とりあえずは出勤時の打刻をするため事務室へ入ると、店長がデスクに座っていて、アレ?って顔をする
打ち合わせしたでしょうに、デリカ部門チーフからの要請で午後2時出勤だって
おもてなしの受け渡しは午後2時から午後5時くらいまでがピークとなる
そのための早出だ
打刻を済ませて手早く着替えて足早にサービスカウンターへと業務開始の挨拶へと向かう
みんなとっても忙しそうだ
みどりさんが
「はわぁー、何か伝えることあったんだけど、忘れちゃった!思い出したらまた言います!」
とか言ってる…か、かわいい
自らもあれやこれやと動き回りながら、懸命に他のチェックアウト部門の人達へと指示を出している
とりあえず、居る、ということだけ認識してもらってボクはバスケット回収やらショッピングカート回収やら、商品補充やら、手の回っていなさそうなところをやっつけていく
そのうちに流れる店内放送
当店繁忙期の風物詩
真っ昼間からの
『夜間担当のタロイモさん、タロイモさん、サービスカウンターまでお願いします』
「夜間」とはいったい、いつからいつまでを指す言葉なのか…なんてことはどうだっていい
小さく
「夜間担当の出番です!」と
マスクの下で宣言する
サービスカウンターへと走ると、やはり受け渡しのために呼ばれていたようで、しかしながら、みどりさんと事前に打ち合わせしたのとは違う手順となっていた
若干の戸惑いを踏んづけて、こちらでより慎重に確認すれば大丈夫だと、気を取り直す
異物混入、衛生面への最低限の配慮をした姿をして、勝手知ったる他所の部門、各部門のチーフと事前に確認した作業場内の予約商品置き場へとするりと入って、担当者と付き合わせをして、サービスカウンターへと大事に商品を持ち運ぶ
サービスカウンターへと運ぶと、チェックアウト社員さんが予約票と商品に貼られた札、商品自体とそれぞれを照らし合わせて確認をし、最終的にお客様と間違いないかを相互確認の上、お渡しする
ボクはというと、すでに次のお客様の商品を取りに行っている
慣れたものだが、油断は禁物、間違いがあっては部門単位ではチェクアウト部門の責任になってしまう
慌てず、急いで、正確に役割を遂行する
この日は相当にかけ回った
ような気がする
考えるより先に行動をしていたのか?なんか記憶が定かではない
6日目は総力戦の日曜日
疲れてるとか疲れてないとか関係なくなって
多分、裏モードの躁状態に入っていた
今振り返ると、そう思う
現にこれ書いてる今、反動の鬱モード入っていてちょっとしんどいもの
そういえば、去年のお盆は新店舗開業までの研修パートさんと新店舗配属の社員さんとを大勢預かっていて、人数としては余っているくらいだったものなぁ
新店舗の方では初めてのお盆を迎えているのか、あちらもうちもあれから何人も退職者が出ているし、募集しても人は集まらないし…
ううぅッ
午後2時
お盆計画的に最も予算の高いこの日は日曜日
来るなりやることがいっぱいだ
出られる従業員は総出で当たっているものの、去年と比べてこちらの頭数が圧倒的に足りていなくてかなりキツい
それに加えて、去年とは店長が代わっていて、3代目店長下での繁忙期はこれが初だ
主だったことはデータを基に判断して決定を下しているが、データにあらわれにくい細々としたことは折に触れてはよく意見を求められる
ボクはそんなデスクにいる店長との話よりも今は手を動かしたい
受け答えはもちろんするし、自分なりの意見も述べるが
『夜間担当者のタロイモさん、タロイモさん、サービスカウンターまでお願いします』
それ見たことか、お呼びがかかった
ちなみに、店内放送の呼び出しの時、他のチェックアウト部門の人は「夜間担当の』と言い
みどりさんは「夜間担当者の」と言う
つまりさっきのはみどりさん直々の呼び出し
他部門<店長<<<<<みどりさん
(私個人の価値観です)
何か話しておいた方が良いことがあった気がするが、とにかく話を切り上げてサービスカウンターへと急ぐ
「夜間担当『者』の出番です!」
いつもよりも気合いが入るというものだ
午後7時
今日もかなりハードな1日だったが、例年通りに売れ行きも良く、夜間担当者としては本来の業務の1つである当日売り切りの店内製造商品を値引マシン一丁でうまくコントロールしながら売り切るという業務もそこまで大変な量を捌くこともなかった
見切り率や廃棄率に敏感な店長も、今日は上機嫌に、もうすでに退勤している
なんか、言っておいた方がよかったのだけれど…
と思いながら、午後9時からの休憩時間に明日の予約受け渡し件数をチェックしてみると
そうだった
例年お盆3日目は予約時間が午前に集中するのだった1時間あたりの予約件数は総量としては多い1日目2日目を超えている
さらに明日はチェックアウト部門への応援に行くことの多い後方部門事務担当の人もお休みだ
土曜日曜の2日間全員出勤体制だが明日からは各部門そうもいかない
そうだ、去年どこかのタイミングで
「午前出勤してロング休憩を入れ、午後から再出勤」というかなり変則的な出勤パターンをやった記憶があったのだけれど、このタイミングだった
それを提案し忘れていたんだ
まずは落ち着こう
勝手に朝来るというのはかえってみんなを困らせる1番悪手だ
とはいえ、判断を仰ぐべき人、ボクの指揮系統を持つ店長と、後方部門からの助力を受け入れるかどうかを判断するみどりさんはもう退勤してしまった
仕方がないので業務を終えて退勤する際に、店長デスクにメモを残した
かくかくしかじかの理由から、私の時間割り当てを明日13日は10時出勤して12からロング休憩16時から業務再開から閉店作業までというものへ変更することを提案します
あとの判断は明日朝の2人に委ね、ボクは家路についた
変な進路をとった台風のせいでそれどころではないのか、いつもだったらもっとペルセウス座流星群がどうこう言われている時期だというのに、そういうニュースは目につかなかった
この日の夜も満天とはいかず、千切れた雲の合間から星影がのぞいている空模様だった
そんな空を眺めていると、流れ星が1つ雲から雲へと跳び去っていく
明日は早い、かもしれない
もう寝るとしよう
7日目の夜間担当者は概念を跳びこえる
午前10時ちょっと前
店長と朝の挨拶をする
基本的に出勤時の挨拶は「おはようございます」となっている、それが午後でも夕方でも
今日は珍しく正しく「おはようございます」だ
時は少し巻き戻り
この日の朝7時過ぎ店長から電話があった
曰く
「書き置きを見ました
チェックアウトチーフとも相談して
書き置きの通りの時間でお願いしたい
けれども、社内規定で退勤から出勤までのドアtoドアのインターバルが11時間と決まっている
昨日の退勤が午後11時30分だから
出勤は10時40分からお願いしたい」
とのこと、前もって提案しておけば、インターバル短縮申請で8時間に短縮できるから余裕だったのだが、こんなところでダンドリにほころびを作ってしまうとは、迂闊だった
とはいえ、10時から11時の予約設定で申し込みをして10時きっかりに来るお客様の方が稀なので、ある程度の役割はこなせるはずと、自分を納得させ…きれず、ボクはこの時間に事務室まで来ていた
ま、タイムカードの打刻はもちろんしていないけど
店長と2、3今日の段取りを確認して
じゃあ今日もよろしくお願いします
と、なりかけた時
諸々の準備に忙しそうなみどりさんが事務室へ立ち寄った
店長が「タロイモさんに来てもらったから」と言う
ボクは、余計なことを言うんじゃないって心の中で叫んだ
みどりさんは、思った通り
「えっと、10時40分からですよね?」
と、釘を刺してきた
くっ!ボクがやらかしそうなことがしっかり見抜かれている
店長は「えっあ、まだ9時40分か、あれ1時間間違えてきた?インターバルあるから今からってわけにもいかないし、まあ、お茶でも飲んでいてください」
と言い出した
店長デスクに目を落とすと、店長に提出用のその日のチェックアウト部門作業割り当て表が置いてあり、その余白に大きく
「店長、午前中おもてなし受け渡しお願いします」と書かれていた
みどりさんは、店長とボク、2人に釘を刺していた
店長へは、店長もしっかり動いてもらいます
ボクへは、時間までステイだからな
しぶしぶ制服であるグリーンのジャケットを脱ぎ、とりあえずサービスカウンターへと行って、居る、ということを伝える
そこにはチェックアウト部門所属で事務の仕事も兼務するサツキさんがいた
サツキさんはさすがであり、勤怠管理にも詳しいので、インターバルのことも先刻ご承知で
「あっ、今日はありがとうございます
もうちょっとしたら、お願いします」
と言葉をかけてくれた
ボクは更衣室へと戻り、ジャケットを着直して、勤怠管理上打刻しても問題ない時間になるまで、従業員の目につかないよう外のカート置き場から風除室へ運んだり、風除室のバスケットを整理したり、開店1時間とちょっとでもういっぱいになっているリサイクルボックスのペットボトルを取り替えたりしてやり過ごした
売り場には入っていないので、みどりさんには気付かれてはいない…と、思う
適当に時間を潰してから打刻をして、改めてサービスカウンターへと向かい、挨拶を済ませて、店内の方のバスケット回収を済ませる
午前10時45分
『夜間担当のタロイモさん、タロイモさん、サービスカウンターまでお願いします』
この声はクロさんか
本日この時に当店における「夜間」の概念崩壊は極大を迎えた
さて、せっかく無理を通してもらったのだ
「夜間担当の出番です!」
作業場で仕事をする各部門社員さん達は、もはや慣れたもので
「今日も早いっすねー」と、声をかけてくれる
12時を過ぎ、サービスカウンターへと顔を出して
一旦抜けて、16時から業務を再開します
ということ伝えて、事務室の店長にも同じことを伝えて店を出る
なんかちょっと空が慌ただしい
家に着く頃には結構な雨が降っていた
それは非常にまずいことになる未来予想へとつながる
とりあえず、遅めの昼食にして仮眠をとる
雨の日はどうしても眠たくなるから、厳重にアラームをセットして、再出勤に備える
無事に再出勤をして、事務室にいた店長とサービスカウンターへと業務に戻ることを伝える
売り場を見て回り、予想通りにまずいことになっているのを確認する
午後4時
今からでもよくわかる
大量廃棄の危機だ
製造部門の担当者からすれば、午後11時閉店の店でまだ午後4時、全然慌てる時間じゃないし、売り上げのことも考えればまだまだ粘りたいのはよくわかる
よくわかるのだが、経験上これは今すぐに手を打たないとまずい事になると、ボクの直感は騒ぎ出している
理由は大きく4つある
まず、12時頃に強く雨が降って、断続的に降ったり止んだりしている
当然ながら、こんな天気の日は客足は遠のく
そして、毎年お盆3日目の傾向
予約件数が午前に偏っていることからわかるように、来客の波は陽が高いうちにピークを迎えて、引きが異様に早いというのが毎年の傾向だ
それが今日の雨足とかけ合わさって悪い方へと転がっていく
さらに、この店特有のピークタイム
当店、どういうわけか午後4時から午後5時にかけて1回ピークタイムが来る
夜間担当のボクが土日など忙しいと分かりきっている日には計画的に早出して午後4時に来るようにしているのはそのためなのだが、今日はこの時間にレジ応援要請の店内放送が流れない
決定的なのは、惣菜部門の午前製造の商品の多さ、特需期ゆえにまだ活発な製造ライン
まだ…追加が…出てくるよね…これ
確たる理由にはならないけど、おまけに言うなら、売り場全体の雰囲気がなんとなくだけど、おとなしい
取り急ぎ、各部門のチーフへと早いけど今から段階的に値引きを開始することと、最終的に社内規定の「値引きは半額まで」というのを踏み越えてちょっとヤンチャすることを伝える
各チーフは薄々わかっている半分、お前が言うならそうなんだろうよ、というのが半分といった具合でそれぞれに「善きに計らえ」のサインを出してくれる
本来であれば、特需期の値引きはどれをどのタイミングでどのくらいの値引きをするかというのを各部門と細かく相談の上やっていくものなのだけどなぁ…と思いつつ
おもてなし予約の受け渡しという特需期の仕事は今日の午前でほとんど終わっている
本来の「夜間担当」業務として腕の見せ所
さあ、ここからがハイライトだ!
この日の廃棄率を閉店間際になんとかゼロに近づけて、ホッと胸を撫で下ろす
後から惣菜部門のチーフから聞いたのだけど、この日の見切り10万超えだったってさ
8日目は肝を冷やした
午後4時
山は超えたとはいえ、一応まだお盆期間中だ
いつもの忙しいスケジュールを想定して午後4時出勤すると惣菜部門のチーフが事務室にいて、見切り額10万の話を聞いた
普段ブスッとしていることの多い印象の人だったので、ボクは一瞬肝を冷やして、アイヤこいつァやらかしましたかね?という空気を出そうとしたけれども、どうやら、よくやってくれましたという文脈だったらしく、ホッと胸を撫で下ろした
そして、サービスカウンターへと向かい、そこにいたみどりさんとシロさんへといつものように挨拶を済ませる、なんかいつもより不穏な空気をまとっているが、とりあえずバスケットの回収を始める
バスケットを片付けているまだ途中で、シロさんが神妙な面持ちでゆっくり近づいてくる
「それが終わったら、サービスカウンター来てもらっていいですか?」
ボクは再び肝を冷やす
あぁ…えぇ?
昨日までのおもてなし受け渡し業務でボク、なんかしでかしてましたか???
内心ドッキドキながらも、おとなしくサービスカウンターへと入っていく
シロさんが申し訳なさそうに口を開く
「本日、チェッカーのミスでダブルスキャンが発生しまして、そのクレーム応対に行ってもらいたいんですけど…」
そう、店長は昨日の時点で予約受け渡しはつつがなく完了していてよくやってくれました、とは言われていた
なんだ、そんなことか
っと、口を滑らせそうになるくらい
ホッッッッと胸を撫で下ろし
そういう肝試しほんッとに勘弁してほしいと思いながら、口では
「それは大変ですね」と、言ってみせた
いや、でも、それなら普通に店長に行かせれば良いので…は?ん?
そう、店長は昨日の時点で…あぁ!
あのヤロー今日は休みだ!
本来であればこの店の責任者である店長が、そうでなくてもチェックアウト部門の責任者であるみどりさんが応対に当たるというのが順当であるところ
そうはいってもまだまだお盆期間、予約は1件あるし、包装、のし掛け、発送の依頼がいつ舞い込んでくるかもわからない
何より昨日と打って変わって今日は天気も良く、これからレジが混み合うことが予想される中で、チェックアウト社員が抜ける訳にも…というところでちょうど良く、どういう訳かクレーム応対にはちょっとした実績を持つ夜間担当パートタイムが現れた、渡りに船とはこのことかとボクに白羽の矢が立った
ということらしい
状況を理解する時間わずか0.05秒
そのプロセスをもう一度…振り向かないことで
二つ返事に
わかりました、行き先と連絡先とお名前は…
勝手知ったるいつものやり取りでお出かけの準備を進めていく
みどりさんが返金用の現金などを用意している間、ボクは更衣室の自分のロッカーからこんなこともあろうかと忍ばせてあるネクタイを取り出してその足で事務室に行き、店長デスク脇にあるゼンリンの地図でいちおう場所の確認をする
スマホのアプリで大まかなルート検索はするが、住宅地図で確認するのが1番確実だ
こちらの用意を整えて、再びサービスカウンターへと戻ると、みどりさんがお電話代と返金用の現金を2つ用意していた
「1つは社内規定によりダブルスキャンして間違えた2個分の返金用、もう1つはお客様が2つ分の返金を辞退した場合、押し問答を避けるための1個分の返金用、どちらか1方をご返金ください、間違ってもこの2つ、つまり3個分渡さないで下さいね」という説明を受けて、現金を預かり、店を後にする
不良品の商品交換やこちらの不手際による返金を希望されたお客様のご自宅への訪問は、実際にもう慣れたもので、誰に行ってくださいと言われても抵抗なく夜間担当の業務として行くのだが、今回はみどりさんが行くところをボクに振ってくれた、事情があってのこととはいえ、頼ってもらえたようで嬉しかった
返金を問題なく済ませて、店へと戻る
一時期、介護の仕事に従事してからというもの、短期間であればボクは対人スキルを爆上げできるようになった
本当に、何事も経験だ、どこでどう役立つかわからない、やってみなけりゃ、何も残らない
レジはもちろん混んでいた
みどりさんへの報告を終えると、そのままレジ応援を依頼される
レジ応援の際にも、一時的に対人スキルを上げる能力は大いに役立つ
相手の耳に届きやすい声の出し方をしつつ、身振り手振りのノンバーバルコミュニケーションを織り交ぜる
新型コロナウイルスが流行し始めてからというもの、マスクやパーテーションで届きにくくなった声を、表情を、貫通させる
なんか、昨日より客数が多い気がする
それならそれで、値引きが少なくなるからいいんだけどね
その後大きな問題もなく陽もすっかり落ちて、客足も落ち着く
バックルームでは流石のみどりさんも帰り支度をしていた
確か、みどりさんは明日明後日と2連休だ
今日のうちに言いたいことを言っておこうと、みどりさんへと話しかける
「みどりさん、ありがとうございました」
それは、みどりさんへの誕生日プレゼントに添えた手紙に「空回りばかりで大したこともできないボクですが、お盆期間中お役立ていただけたら嬉しいです」と書いたことを叶えてくれた、と仮定しての言葉
みどりさんは
「いえ、こちらこそありがとうございました」
と、チェックアウト部門責任者として返答する
「おかげで、充実した夏になりました」とボクが言うと
みどりさんは微妙な笑みで会釈をして、退勤して行った
その日の仕事も無事にこなし、家に着いて車から降りる
お盆期間も明日で最後となる、いや、日付的には今日で最後か
空を見上げてみる
雲ひとつない
とても綺麗な星空だった
ペルセウス座流星群は極大から過ぎてしまっているが、よく見れば、か細い流れ星が、はらりはらりとたまに現れては消えていった
帰りのお供に聴いていたpodcast番組が終わる
スマホの停止ボタンを押すと、あたりは虫の声に包まれた
液晶画面の明るさに 目を奪われる
星は消え 辺りは闇を増した
あぁ 夏は終わったんだなぁ
目を閉じて 虫の声に耳を委ねる
明日からも 暑さは残るけど
季節は 日ごと移ろいゆく
星あかりを感じられるほど、闇に目が慣れた頃
阿呆のように口を開けながら、天を仰いだボクの上を
一条のハッキリとした流れ星が駆け抜けていった
ボクはあなたに何を願えばいいのだろう?
何かを望んでよいものなのだろうか?
そうやって、ただただ呆けたように空を見上げていると、先ほどのを含めて、おっきな流れ星を3つも見つけてしまった
キリもいいし、そろそろ休もう
明日でこの連勤も最後だ
9日目はそれでも明日に続いていた
午後4時
まあ、いちおうお盆期間だし、5日間連続ポイント7倍デー最後の日だし、忙しいと仮定して4時出勤する
店長はデスクにいて、お盆の振り返りをしている
打刻をして店長とお盆に関する振り返りを2、3話していると
『各部門、レジ応援お願いします、レジ応援お願いします』
店内放送が流れる
ん?なんでみどりさんの声がするんだ?
とりあえずその疑問は置いといて
手が足りていないというのであれば、後方部門として助力する
足早に事務室を後にして売り場を突っ切り、2人制になっていないレジに付く
いつものように客足が途絶えるタイミングを見計らってレジ応援からバスケット、カート回収業務へと移行する
外のカートを店内に入れるついでにリサイクルボックスを覗いてみると、ペットボトルと空き缶の袋がいっぱいになっている
というか、覗くまでもなく、鍵をかけ忘れのか、ボックスが缶の重さに耐えかねて微妙に扉を開けている
見て見ぬふりをする訳にも行かないので、清掃業者さんがまだいる時間帯だから任せておいても良いのだが、ペットボトルと空き缶を袋ごと外に出しボックスの中には新しい袋をセットして扉を閉める、内容物の選別をする必要があるために袋は再び開けやすいような結び目にしておいて、リサイクルボックスの傍に置いておく
一通り済ませた後、サービスカウンターへと挨拶しに行く
やっぱり、みどりさんがいる
どうやら、あまりの人手の足りなさに自ら休日出勤を組み込んでみたが、予想以上に店が混んでいるため帰るに帰れず、公休変更へと切り替えて今日1日みっちり働くことにしたらしい
サービスカウンターから離れ、さて、牛乳かアイスでも補充しようかと日配部門の売り場へと移動していると、お客様がお客様サービス用の氷をぶちまけて床が濡れている場面に出くわした
とりあえず、清掃用具入れからモップとバケツを持ってこようとその場を離れたタイミングで、みどりさんが店内放送で清掃業者さんを呼んでいた
あー、みどりさん、掃除のおばちゃん、今は来ないな、ちょうどリサイクルボックスからペットボトルと空き缶を回収して店の外をぐるっと回って裏口からバックルームに向かって歩いているところだから、多分この放送聞こえてないよー
と、呟きながら、小走りで掃除道具を持って戻ると、みどりさんがパタパタとサービスカウンター用のモップを持って片付けを始めていた
モップでは水気を弾いてしまって微妙に拭き取りきれず滑りやすい状態は解消されないことに業を煮やしたみどりさんは近くに備え付けられたペーパータオルで床を拭き始める
ボクはというと、持ってきたバケツにまだ固形を保っている氷をひょいひょいと放り込み、モップをかけようとするも、そこはみどりさんが奮闘中なので、仕上げ用にと一度使い古して乾かした雑巾をバックルームから持ってきたりしていた
それが終わると、ジムさんからプレハブの片付けを手伝って欲しいとの連絡が来た
あー、そうだった明日返却なんだっけ
中の机とかイスとかどこから出したかわかるのはボクだけなんだっけ
取り急ぎバックルームへと向かい惣菜部門のパートさんと短期アルバイトさんと数人で一気に片付ける
店長変わってから整理したつもりなのか、物の保管場所が微妙に変わってから、長机を変な仕舞い方するから面倒が増えてるんだよなー!もー!!!
そうこうしているうちに、さすがにいい時間となり、みどりさんも1日の仕事を切り上げようと事務室へと下がったのだが、客足がなかなか引っ込まず、レジは混むしプリカ現金チャージ機は紙幣交換を要求してエラーを吐き出すし、チェックアウト社員のクロさんが困り果てて、事務室のみどりさんへと助けを求めた
ボクもサービスカウンターへと呼ばれ、
「みどりさんが事務室にいるので、一緒に金庫室から紙幣交換用のお金を持って2番チャージ機の紙幣交換に立ち会って下さい」と、お願いされる
その指示通りに動き、みどりさんの淡々と業務をこなす様を立ち合い業務のために近くで見ていた。
その後もみどりさんは、なんだかんだでサービスカウンターへと残り、あっぷあっぷしているクロさんを助けていた
その様子は、レジ応援に入ったり、バスケット、カート回収をしているボクの視界に入ってきていた
それにしても今日は全然客足が引かないな?
お盆の最後ってこんなだった?
いつもだったらもっとこう、消化試合的というか、もっと落ち着いていて、なんなら大量廃棄の方の心配をした方が良い感じじゃなかった?
などと戸惑っていたら、店長が帰り際に声をかけてきて、やっぱり同じような戸惑いを抱いてたらしい。
もっと寿司を作れば売れたなぁ
みたいなことを言っているのを
そうはいっても、人手がなぁ
と思いながら聞いていた
実際、値引きの方がもう消化試合のような感じで、それでも一昨日の大量値引きに味を占めた様子のお客様が結構ご来店だった
残念ながら、ボクはその日の残り具合によって値引きの強弱をメリハリ付けるタイプなので、不要な値引きはしないのだ
なんて思いながら、ビール出したり牛乳出したりと売り場のメンテナンスに重きをシフトした
そうこうしているうちに、客足も落ち着き、流石のみどりさんもいつの間にか退勤していて、クロさんもそろそろ退勤といった様子だった
いちおう日が暮れてからも結構なご来客だったので、リサイクルボックスの方も確認してみると、思った通りにペットボトルも空き缶もいっぱいになっていた
しかも今度はちゃんとに鍵がしまっている
サービスカウンターからリサイクルボックスの鍵を借りてきて袋を交換する、ペットボトルのにはボトルキャップを回収するための穴とその穴に繋がったネットとがあるのだが、ネットがパンパンになって扉に干渉するくらいになっていたので、扉を閉めるときに手でどける
鍵を返却してから、回収したペットボトルと空き缶をヨイショと肩に担ぎ、外をぐるっと回って裏口からバックルームへと向かう
ちょうど裏の駐車場からみどりさんの車がゆっくり出てきたのとすれ違う
なんだかんだで残って何かしていたらしい
見えるかどうかわからないが、軽く会釈をして見送る
やっぱり素敵な人だと思う
好きなものは好きでいいじゃないか
せめて同じ職場で働く間くらいは
この気持ちは、そのままにしておいてくれないか?
人を大切に思う気持ちを、ふと、思い出す
昨日の流れ星にはそう願えばよかったのだろう
たとえ世界が何度創り変えられようとも、きっとなんらかの連続性をもって
それでも明日に続いていくのだろう
その日で今年のお盆商戦は終わり
木曜日は9日振りの公休だ
10日目はそれでもゆっくりできねぇけどな!
午前9時
毎週木曜日
畑多楽縁のÖCHAKOの開催日である
つまり、畑の管理作業の日なのである
ボクはだいたいいつも通りの時間に来て管理作業をする
今日は、早くに来て果菜類の収穫を終えていた星さんと合流する
葉っぱの方をやってもらっても、管理作業をしている間にしおしおに萎れてしまうので、こちらは作業終わりに手早くボクの方で済ませる
夕方からの役場販売のためだ
2人で細々とやっているpodcast「はたらく!ラジオ」のための録音もやっておく
まぁ星さんとボクと2人でその時その時の世間話をするだけのものなのだけれど、まぁ
役場への活動報告に添え物をする感覚で続けている
星さんは夕方からのÖCHAKOの時間に備えるべく先に一旦この場を離れる
ボクはその後も管理作業や野菜作りに対する相談に応じたり、継続的な野菜提供のため、苗の植え付けや種まきのために12時くらいまでここで仕事をした…けど
やっぱり疲れてるのかなぁ、用意しておいたはずのダイコンの種を家に忘れてきてしまった
今日のうちに蒔いておきたかったのになぁ…
家に帰るとまず大きいタライに水を溜めて収穫した野菜をジャブジャブ水洗いする
メッシュコンテナに上げておいて水切りも兼ねて日陰に置いておく
遅めの昼食を食べて、仮眠をとる
役場販売は午後4時からだから、準備も含めるとして、だいたい1時間くらいは寝てられるか
…しかしまぁ、また午後4時からか
なんだか結局今日も働いているな
ちょっと早めに起きて、野菜を袋詰めして、ダイコンの種を持ってまずは畑の方に寄る、やっぱり今日のうちにダイコンを蒔いておきたかった
夕涼みÖCHAKOに来ていた人にも手伝ってもらってダイコンと、ついでにビーツの種を蒔いてから役場へと向かう
なんとも慌ただしい休日だ
サクッと思い返すつもりが、ちょっとボリューミーになってしまった
キリがないのでここらでおしまいにするけど
次の金曜日は冒頭では拍子抜けとか書きつつも実は初っ端軽くミスってる
土曜日は大雨に花火大会にと翻弄された
日曜日は機械のトラブルで帰りが遅くなったし
月曜日は大きな虹の根元を目指したら雷雨でずぶ濡れになった
火曜日もこれから何か起こるのだろうし
水曜日は棚卸しで徹夜仕事
木曜日は徹夜明けでÖCHAKOの日
連続性の毎日はそれでも何か差分があって
毎度それなりに慌ただしい
飽きる間もないこの日々を
懐かしむ日もくるだろうさ