【創作SS】木幡山 隠津島神社への道
初夏を聴く、そんな気持ちで足を止めた。
この道を選んだことを少し、後悔していた。
本殿を参拝するのに、車で移動せず細い山道の参道を登ることにした。
「散歩がてら、ちょうど良いかも」
という考えが、相当に甘く、選んだ道が大きな困難を伴うことに気がついたのは10分くらい歩いた頃。なかなか山道を抜けることができず、道は険しく、山はより深くなっていった。。
木が影を作っているので、陽が差さず涼しいのは良いが、登り道で体を使うので、汗が吹き出し、肌着はベタつき、疲労感と不快感が増すばかりだった。
終わりが見えない道を
「登れば近づいているはず。昔の方々はこの道を通ったのだ。登れないはずはない」
と、自分を鼓舞しながら足を動かしていたが、限界を迎えた。
鳥やセミの鳴く声、木々のざわめきが周囲を包んでいる。
呼吸を整えながら、目を瞑り、空気というか雰囲気を味わう。
「たくさんの命が、ここにはある」
しかし、人の気配はなく
「ここで具合が悪くなったら、誰にも見つけてもらえないかも」
という不穏な考えが頭を過ぎる。
令和2年の4月、不整脈の悪化に伴い、カテーテルアブレーション手術を処置した俺の心臓は、1年3ケ月を過ぎた今も元気とは言えない。倦怠感が強く出ることや、頻脈を原因とする貧血や眩暈を起こす不安がある。
「よし、大丈夫。行ける」
初夏に生きる命、生き物の声から力を分けてもらい、山上に向かい足を進め、本来の参道に合流し石段を登る。
「夏詣」の提灯をぶら下げた、本殿が見えてきた。
(俺は、今も生きている。そして、世界は美しい)
そんな想いが胸に湧いてきた。
(いらっしゃい、よく来てくれたわね)
祭神である宗像三女伸様たちが笑顔で歓迎してくれているような気持ちになった。
参拝を済ませた後、境内で清涼的な時間を過ごし、下に降りた。
令和3年7月、福島県二本松市にある「木幡山 隠津島神社」での出来事になる。
その後、山道の参道は二度と歩いていないが、折に触れて木幡山隠津島神社の参拝を継続している。
あの夏、俺が選んだのは、新しい命として生きる道だったのかもしれない。
険しいけれど、後悔はなく感謝が溢れている。
(本文ここまで)
#シロクマ文芸部
小牧幸助さんの企画「初夏を聴く」に参加です。
https://note.com/komaki_kousuke/n/na3ac6ea69052
朝なので、余談は短めに。
#何を書いても最後は宣伝
拙著、「夢見る木幡山」をアレンジしての作品でした。
ということで「文学フリマ東京36(5月21日)」まで後2日となりました。
【福島文学 文学フリマ東京36 C-27 推参!】
に向けて体調を整えています。
皆様と交流できますこと楽しみにしています。