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【創作SS】婆ちゃんの雑巾

(ここの庭を抜けたら、近道になるよな)
 学校からの帰り道、ふと思いついた太郎君が、知らない人の家の庭を覗きこむと、おばぁちゃんが縁側に座っていました。
「おばぁちゃん、庭を通らしてもらっていいかい?」
「いぃけど、犬に噛まれないようにしいよ」
 お婆ちゃんの傍には、ちょっと汚れた大きな白い犬が鎖に繋がれて伏せていました。
「犬なんか恐くないさ。噛もうとしたら、やっつけてやる」
 太郎君は震えた声で強がりを言ってから、毎日、お婆ちゃんの庭を通らせてもらうようになり、時々、縁側でおばぁちゃんにお茶をよばれたり、犬の散歩をさせてもらったりするようになりました。

 そんなある日、
「どうした。友達とケンカでもしたんか」
 うな垂れて庭に入ってきた太郎君の顔を覗き込むようにして、お婆ちゃんが聞いてきました。
「ケンカなんかしてないよ。ただ…」
 太郎君は、本当は誰にも話したくない気持ちでいましたが、心配そうに見つめる婆ちゃんと犬の顔を交互に見ると、ポツリポツリと話し始めました。

 学校から「掃除用の雑巾を1人1枚持ってきなさい」と言われたけど、母に雑巾を縫って貰えず、タオルを裂いたものを雑巾代わりにと渡されたこと。そのタオルを友達に見られた時、何とも言えない悲しい気持ちになったこと。
「母ちゃん、雑巾縫ってくれんかったんか」
「母ちゃんは、悪くない。会社の仕事もしているし、家のこともあるし、毎日疲れてるんだ。雑巾持ってこいって言った、学校が悪いんだ」
お婆ちゃんは、涙ぐむ太郎君の頭に「ポンッ」と手を置くと
「母ちゃんも悪くないし、学校も悪くない。ちょっと待ってな」
そう言うと奥の間へ行き、タオルと裁縫箱を持って戻ってきました。
「母ちゃん忙しいなら、アンタが縫ってやり。婆ちゃん教えるから、やってみぃ」
 太郎君は言われるまま、たどたどしく針を動かし始めました。

「みんな、できることがある。古くなったタオルだって、雑巾になって役に立つ。できることはやらんと。皆の役にたたんと。皆の役に立てば自分も嬉しい。婆ちゃんもこのタオルもアンタの役に立てて、本に嬉しいし」
 太郎君が縫い上げた雑巾は、クタクタな仕上がりでしたが、太郎君は誇らしい気持ちで学校へ持っていきました。その雑巾を見て冷やかす友達は一人もいませんでした。

 太郎君は、その後、特別なこともなく、そこそこの成績でそこそこの高校・大学を卒業して、そこそこの会社でそれなりに仕事をして生きてきました。
 今も雑巾を上手に縫うことはできないようですが、お婆ちゃんの弟子として、誰かの役に立てるよう、クタクタになるまで働いているようです。
(本文ここまで)

 この古いイラストを見てたら、こんな話が生まれてきました。

 このイラストに名前がある「かこさん」「緑川さん」「すいんぐまんさん」がnote街を離れて、時が流れました。
 私がnote街に参加して3年半が過ぎましたが、様々な方との出会いと交流があり、note街から離れてしまった方も多くいらっしゃいます。

 悲しい寂しい気持ちはありますが、note街とは違う場所で活躍されていることを思うと
「有りだろ有、お前が悲しいとか寂しいなんておこがましいわ」
とセルフツッコミを入れたくなります。

【人生にムダなことなど 一つもないですよ】

 生きててくれれば それでいいですよ。
 かけがえのない時間をnote街で友に過ごした。
 その想いを胸に、出合も別れも人生の糧として歩みを続けていこうと思います。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
#何を書いても最後は宣伝
 福島太郎は「文学フリマ東京37」(11月11日)に出店予定です。リアルでお会いできますことを楽しみにしています。

 この「黒田製作所物語」は「すいんぐまんさん」との御縁から制作された本になりますが、電子書籍のフォーマットがPDFのために、電子版は読みにくい体裁となっています。
 文学フリマ東京37が終わりましたら、読みやすいフォーマットにして、あとがきも見直し、外伝を追加した「改訂版」を作成しようかと、ボヤンと考えています。

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福島太郎@kindle作家
サポート、kindleのロイヤリティは、地元のNPO法人「しんぐるぺあれんつふぉーらむ福島」さんに寄付しています。 また2023年3月からは、大阪のNPO法人「ハッピーマム」さんへのサポート費用としています。  皆さまからの善意は、子どもたちの未来に託します、感謝します。

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