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【創作】カイギュウがいた村(第1話)

(あらすじ)
 福島県の北西部、北会津に位置する人口三千人に満たない小さな高里村は蕎麦を中心とした農業や水力発電が主な産業となっている。
 江戸時代から様々な化石が採取できることで知られており、五千年前は海の底だったと言われている。昭和後期にはアイヅダイカイギュウの化石が発見されたことがあり、廃校を活用した「カイギュウセンター」が小さな観光拠点となっている。
 親子三人で穏やかに暮らしていた僕の家庭を突然襲った「母の癌」。カイギュウセンターの資料では「ステラーカイギュウは優し過ぎて滅んだ」とも言われている。
 優しい母の病、僕の暮らしはどうなるのか。
(あらすじ終わり)

第1話 花曇り
 お母さんが癌なんて嘘だ、そんな筈が無い、まだ若いし元気なのに。それに僕が知らないことを剛君が知っているのがおかしい。そう思いながらも自分を否定する思いが沸き上がってくる。お母さんが急に仕事を辞めたのは病気のせいなんだろうか、何だか暗い表情をしていることが多い気もする。それに剛君の親父さんは、お父さんとお母さんの会社の社長だから、お母さんが会社を辞めた理由を知っていてもおかしくない。けど、それを剛君に教えるのは違うと思う。駄目だ、こんな風に考えている時点でお母さんが癌だと認めてることになっちゃう、そんなの嫌だ、嫌だ、嫌だ。
「賢治、先生の話をちゃんと聞いているかぁ」
先生の声が響き、周囲でクスクスと小さな声が溢れてきた。先生ゴメン、悪いけど先生の話は全く聞こえてなかった。
 昼休みに剛君に言われた
「お母さんが癌なんだから、なるべく一緒にいた方がいいよ」
という言葉と、直後の「シマッタ」という表情が胸に刺さり、お母さんとお父さんのこと、お母さんと癌のことしか考えられなくなっていた。
「賢治、返事もできないのか。具合悪いのか」
僕が返事をするより先に後ろから声が飛んできた。
「先生、賢治君、昼休みから体調が悪いみたいなんです、帰宅させた方が良いと思います」
振り返らなくても解る、おせっかい美幸の声だ。おいおい、適当なことを言うなよ。けど、こんな気持ちで学校にいるよりは少しでも早く帰りたいという気持ちを汲んでくれたのはいい仕事だ。
先生が少し近づいてきて、品定めするように僕を見る。
「そうだなぁ、酷くなる前に帰った方がいいかもしれんな。賢治、お前の家は共働きだったよな。家に独りでも大丈夫か。保健室で休んでお父さんかお母さんに迎えに来てもらうか」
先生は四年生から五年生への持ち上がり担任だから、十六人しかいない生徒の家庭環境はしっかり把握している。けど、僕のお母さんが三月末で退職したことは、まだ知らなかったみたいだ。
「母は仕事を辞めて家にいますので、酷くなったら母に病院に連れていって貰います」
先生の表情が少し和らいだ、僕の授業態度を注意するというより、最初から体調を気づかってくれていたのかもしれない。先生を騙したみたいで胸がチクリとした。
「おぅ、そうか。じゃぁ早く帰宅した方がいいな。誰か付き添ってくれる者はいるか…。万が一ということがあるからな」
先生の言葉が終わるか終わらないかのうちに美幸が答えた。
「私、近所ですから送っていきます」
おせっかいだけじゃなくて、美幸も早く帰りたかったのか。僕は呆れた顔を浮かべそうになったけど、堪えて具合の悪そうな表情を造った。
「そうだな、美幸なら近所だからいいな。じゃぁ頼むぞ」
先生は教壇の方に向き直った。後ろの席の美幸を見ると目配せをしてきた。視線を避けるように窓から外を見た。
 花曇りという言葉がぴったりの暗い雲が空を占めていた。これなら桜の花はもう少し持つかもしれない。
 信じたくはないけれど、剛君の言葉が本当なら、お母さんは来年の桜を見ることができないかもしれない。少しでも桜が咲き続けることを曇天に願った。
(第2話に続く)

#熟成下書き

(ちょっと言い訳です)
 ここまでお読みいただきありがとうございます。新しい年になりましたので、新しい「創作物語」に挑戦したくなり第1話を投稿です。ボヤンとした展開は昨年の夏から考えていたのですが、なかなか煮詰まらずに先送りしてきました。「しかし、このまま没にはしたくない」ということで、見切り発車です。概ね1話(1200字~1500字)を目安に、少しづつ書き足していこうと考えています。タイトルや人物名なども(仮)のままスタートです。
 
 また、私の弱点の「心理描写・風景描写」などの描写力不足は、一旦そのままとして一月中の「一旦完結」を目指します。教室の状況とか先生や美幸の風体は、後で書き足したいと考えています。はい、完成したら「キンドル出版」して「文学フリマ東京40」で新作として販売を目標にしています。
 弱点を克服がとても難しく、手が止まってしまうよりも「走りながら考える」ことを選択です。賢治とその家族がどうなるのか、お付き合いいただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
※ご意見やご指摘、大歓迎です。

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福島太郎@kindle作家
サポート、kindleのロイヤリティは、地元のNPO法人「しんぐるぺあれんつふぉーらむ福島」さんに寄付しています。 また2023年3月からは、大阪のNPO法人「ハッピーマム」さんへのサポート費用としています。  皆さまからの善意は、子どもたちの未来に託します、感謝します。

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