次代を創る「スマートビル・スマートシティ」:その14「8.スマートビル」
8. スマートビル事例
スマートビルはすでに欧米で先行し、日本でもここ最近、いくつかの事例が生まれている。
本章では、いくつかの先端的な事例についてご紹介しよう。
8.1. 世界のスマートビル事例:
欧米では、すでにスマートビルと呼ばれるオフィスビルが導入され、実際の活用がはじまっている。
ここでは、そのいくつかについて、事例を紹介する。
8.1.1. Edge
コンサルティングファームのDeloitteがメインテナントのスマートビルディングが、オランダ・アムステルダムにある「The Edge」である。
サステナビリティの英国評価基準である「BREEAM」において、史上最高の98.4%のスコアを出している。環境問題への配慮として、再生可能エネルギーを活用するためソーラーパネルを稼働させている。
また、雨水を回収しトイレの洗浄やガーデンの撒水に利用する等の試みも行われている。
一方で、ワーカーへの配慮も、携帯端末の活用を含め、随所でサービスが実施されている。従業員のスケジュールもシステムで管理されており、従業員の来社とともに空調システムを稼働するなどしている。また、従業員の乗った車がビルディング内に侵入すると、ビルディングが車侵入を検知し、駐車場内の空きのスペースまで車を誘導してくれる。
(参考)天井にはセンサーを3万個設置し、社員の所在管理や室温、明るさ、湿度などの環境管理を実現。社員も携帯電話でコントロールすることができる。
従業員は自分専用のデスクをもたず、ワークスペースもITによってスケジュールに合わせて決められる。
普通のデスクに加えて、クローズドスペース、オープンなスペース、スタンディングデスク、ブースなど様々なスペースを予約可能。位置情報を利用したホットデスキングを取り入れることで、空間利用の最適化を図り、普通のデスク1,000席と他のスペースを活用し、従業員3,100名を収容している。従業員ごとに照度や温度の好みをシステムが把握し、室内環境を微調整するほか、従業員の休憩時間も管理し、各従業員の好みに合わせたコーヒーの淹れ方までエスプレッソマシンが記憶している。
また、他の社員と繋がる機能を持つほか、スポーツジムやレストランなどのアメニティスペースも予約可能。トレーニングマシンも接続されており、運動の履歴も記録しており、トレーニングメニューもITが勧めてくれる。
システムは、近隣の大学やその付属病院、交通機関など、街にも繋がっており、シームレスに通院や移動が可能だ。
人々の位置情報やエネルギーの動向は一元管理されており、例えば、9階に1名のみ働いていた場合、システムが「8階へ移動をお願いします」とメッセージを出し、承諾し移動した場合、9階はシャットダウンする。
エレベーターが混んでいたら「階段を使うのはどうでしょう?」と運動好きな社員へメッセージを出し、混雑緩和と運動促進を図る。トイレの使用がなければそのトイレは掃除を行わないといった、効率的な施設運用を行っている。
8.1.2. Watson IoT HQ(IBM)
ドイツ・ミュンヘンにあるWatson IoT HeadquartersはIBMが開発したコグニティブ・コンピューティング・システム(※)である「Watson」やIoTに携わる最先端の本部である。
ビルディングの管理にも「Watson」が用いられ、テナントのニーズを満たすようビルディングやその環境を絶えず学習し改善する。システムは誰がどのスペースで座っているかまで把握し、各従業員の好みに合わせて周囲の照明や温度が調節される。
※「コグニティブ・コンピューティング・システム (Cognitive Computing System)」とは:
メディア等では、「AI」として語られることの多いWatson(膨大なデータから解を見出すというような人が不得意とするタスクの支援や、感情や環境に影響されて非合理な判断をすることを防いだり、年齢的に衰えたり欠けたりする能力を補完することを目的としたシステム)であるが、IBMはこれを「コグニティブ・コンピューティング・システム」と呼び、「AI(人を基準とした知性や知的なタスクの再現を目的とした研究領域)」と区別している。
8.1.3. Microsoft本社
88 ACRESは、米国ワシントン州レドモンドのMicrosoft本社敷地(約2平方km)内のビル125棟を対象に、計200万個のセンサーを取り付け、吸い上げたデータをIoTハブ経由でクラウドサーバ上に集約、一括管理するシステムを構築し、空調や電力、配管、ケーブルといった設備のメンテナンス作業効率化を目指すプロジェクトである。
データ分析結果から故障を予測し、設備の正常動作中に作業を手配しておくといった取組みを行ったところ、メンテナンス担当者の作業効率が向上し、2016年時点で48%の故障などは60秒以内に対応できるようになったほか、空調や照明の制御も効率化したことで、エネルギーコストは、2割減といったコスト削減効果もあった。
また、ビル内の要所に人感センサーやカメラなどを設置し、顔認証による入館管理、対象者に合わせた照明や空調の自動調整、個人のスケジュール情報などに連携したサイネージを使った行き先案内、といったスマートビルディングを自社で実験している。このシステムを利用して人のオフィス内の動きをトラッキングし分析を行い、座席数は従業員数の4割程度で足りるといった知見も得ている。
8.2. 国内のスマートビル事例:
8.2.1. 東京ポートシティ竹芝ビル
国際ビジネス拠点をめざす「東京ポートシティ竹芝 オフィスタワー」は、東急不動産と鹿島建設が開発し、ソフトバンクのIT技術を導入活用することで、日本で最先端のIoTを活用したスマートビルになっている。
オフィスタワーではICT・IoTを活用して、施設内のエントランス、店舗、エレベーター、トイレなどあらゆる場所でデータを収集し、リアルタイムにデータを活用する仕組みを構築しており、レストランやテラスの混雑状況が携帯端末に知らせ、買い物もあらかじめ登録された顔認証データの組み合わせで、財布なしに買い物ができる。
テナントとして入居する飲食店では、来店客数のデータをもとに、空いている時間帯にクーポンを自動で発行できるようにしたり、エレベーターの混雑データをもとに、最適な通勤時間をご提案したりして、ストレスなく活動ができる環境を提供している。
また、環境にも配慮されており、「空・蜂・水田・香・菜園・水・島・雨」の8つの景から成る「竹芝新八景」を展開し、緑豊かな環境づくりを行うと同時に、都市における生物多様性の取り組みを行っている。ビルに入居するワーカーが田植えや刈り取りに参加したり、緑に触れる空間を提供したりして、ワーカーのストレス低減に役立てている。
8.2.2. NEC本社ビルにおける顔認証システム
2020年7月13日に、NECは東京都港区にある本社ビルにおいて、生体認証や映像解析などの技術を用いた「デジタルオフィス」のシステム実証を開始。新型コロナウイルス感染症の流行に伴うNew Normal(新しい日常)時代に合わせたオフィスの在り方を模索する取り組みの一環として、NEC社員向けに実施する施策。マスクを着用したままでの顔認証や、社内売店のレジレス化、社内施設の混雑状況を可視化するなど、直接的・物理的な接触や、いわゆる「三密」を防ぐ方向性が採られている。
いくつか具体的な事例に基づき、紹介しよう。
ゲートレスエントランスの運用
顔認証用カメラやサーマルカメラを使用し、マスクをしたままでも複数人を同時に認証できるエントランス。認証されたことを社員本人が確認するための社員情報はプライバシーに配慮し、顔写真ではなく、社員個人に割り当てられた「幾何学アバター」で表示される。
社内売店のキャッシュレスレス決済
顔認証によりレジを通さず、手に取った商品を持って店外に出た時点で、購入が完了する。
社員本人の情報と紐付いた「Digital ID」を用いることで、給料からの天引きやクレジット
カード払いなどの決済方法が選択可能。
マスク着用アラート
マスクの着用・非着用を検知し、その場で本人に対してアラート通知を行う。
居場所検知システム
フリーアドレスの業務エリア内で、社員がフロアのどこにいるかをリアルタイムに把握できる
混雑状況の可視化
自席に着いたままでもエレベーターホールや社員食堂、オフィスなど業務エリアの混雑状況を確認できることから、待ち時間の短縮や密状態の回避を見込む。
社内各設備のタッチレス化
社内にあるロッカー、自販機、自動ドア、複合機、共有PCなどのロックを顔認証で解除することにより、できるだけ物理的な接触を避ける施策。パスワード入力や社員証の取り出しなどを省略できる。
来訪者向けサイネージ
来訪者の顔認証を行い「お出迎えメッセージ」として、名前や会議室情報を伝える。来訪者の情報は、面会予定の社員に通知されることから、案内のための移動や時間を短縮できる。
このほかビデオ会議を行なっている際に、話している社員の名刺情報を閲覧できる仕組みも用意しており、リモート環境との連携も考慮されている。NECの発表内容には売店のレジレス化などすでに運用中の施策も含まれており、今後は2020年度内をめどに順次ソリューション化し提供を開始する見込み。
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スマートビルの概念は、さらにあらゆる信号がネットワークで結ばれ、個々人の端末ともつながり、ワーカーにとっては、スマートフォンや顔認証の生態…
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