ユーザーリテンションの測定と考え方
ANRIというVCでキャピタリストをしています丸山です。
今回はスタートアップ向けにユーザーリテンションの測り方について深堀したいと思います。高リテンション無くして成功はありえませんが、意外と考え方が曖昧なケースを見ることが多いと感じたためnoteにしてみました。
そして急にえらそうで申し訳ないのですが、長いnoteを書いてしまったので、まず読む価値があるかどうかを把握して頂くために、自社のプロダクトに対して下記質問にいくつ答えられるか試してみてください。
一つでも答えれないものがあれば、長いnoteですが該当箇所の一部でも読んで頂けたら嬉しいです。リテンションはサイレントキラーと呼ばれるほど企業の生命線に関わる大事な指標です。当記事が少しでも新たな気付きやきっかけになれば嬉しいです。
① 見たくなくなるリテンションレート
どれほどユーザーを集めても大半が離脱したら何も残らないことは明白であるため、リテンションの重要性を長々と書くことは割愛します。しかし、ユーザーに明日も来月も戻ってきてもらうのは至難の業で、一切色の変わらないリテンションチャートは、見るけど深く考えないKPIになりがちです。
しかし事業の成功にはリテンション向上は必須であり、初期からKPIとして追いつつ改善に向けた施策を打ち出していくことが重要です。そのためにもリテンションの基礎をここでおさらいできればと思います。
② リテンションレートの測り方
ここでは王道のBoundedとUnbounded Retentionについて解説します。計算方法は簡単なおさらいにして、深掘り方が大事なため後半でまとめます。
計算式
Bounded・Unboundedどちらも分母の計測方法は同じ
Dailyで測るなら特定の1日、Weeklyなら特定の1週間を決め、その期間に「○○したユーザー」を分母にしましょう。○○の王道は「新規ユーザー」なため、当例でもそのように定義します。
Daily Retention(Bounded、Unbounded関係なく)を測る際、例えば9月1日に100インストールあったら100が分母となります。それだけです。翌日のインストールも追って行くとすると、9月1日の新規ユーザーがコホートA、9月2日の新規ユーザーがコホートB、のように積み上がって行きます。
それぞれのコホートの人たちがどれだけ戻ってくるのかを理解するのがリテンションで、BoundedとUnboundedの違いは「分子=リテンションしたユーザーの数え方」が異なるだけです。例を用いて違いを見て行きましょう。
Bounded Retentionの分子
n-Day Retentionとも呼ばれ、分子は特定の期間にリテインしたユーザーを数えます。シンプルな例を出すと以下の通りです
コホートAの7 Day Bounded Retentionを測るのであれば9月1日(Day 0)の新規ユーザー100人が「Day 7=9月8日」に何人戻ってきたかを測ります。Day 6の9月7日に100人戻ってこようが、0人戻ってこようが、見るのはDay 7の9月8日だけ。例で言うと15人だったので、リテンションレートは15%となります。一日ずれたコホートBでは12%となります。
Unbounded Retention
Unboundedはその名の通り「境界がない」ため下記のように計算します。
7 Day Unbounded Retentionを測るのであれば、Day 1~Day 7に戻ってきたUUの合計が分子になります。Day 1~7の合計が65人だったため、7 Day Unbounded Retention Rateは65%となります。前例と大きな違いです。まずはこの基礎だけでもしっかりおさえましょう。
Weekly, Monthlyも活用しよう
例はDailyでの計測ですがリテンション向上は長期戦のためWeeklyやMonthlyでのコホートも駆使しながら計測していきましょう。ただし、C向けアプリは初動が重要なため、Dailyでも追って行くこともおすすめします。
③ Bounded/Unboundedどちらを使うべき?
結論、まずは両方を追いながらご自身のビジネス特性に合う方を後々絞っていくことをおすすめします。
Boundedは毎日使う想定をしていないアプリでは(旅行系など)日々の変動が高すぎて実態と数値に大きなズレが生じる場合がありますが、習慣系のアプリは毎日ログインしてほしいためBoundedで実力値が測れます。UnboundedはChurn Rateの逆数であるため(Unboundedが20%ならChurn Rateは80%)一貫性がありロジカル、という意見もあります。一方で、50% Retentionと言っても下記の通り全く意味の異なる状況を表現することがあるため注意が必要です。
上段はDay 1に半数が戻り、それ以降は0人。下段は毎日7人のUUが戻ってきています。どちらもリテンションは約50%ですが、上段・下段では全く状況が異なるためUnboundedだけを見てもインサイトを得ることが難しいケースがあります。
一長一短ですが、個人的な好みはBoundedです。WeeklyやMonthlyのコホートで測定すれば全体像は掴めますし、Unboundedは誤魔化しがきいてしまうため「逃げ」を促進させる可能性があるとも思っています。そのため活用法で迷ったらBoundedで計測してみてください。
④ リテンションレートの正しい活用方法
ここでやっと本題です。リテンションレートは深堀が重要であり、単にDay 1、Day 30のリテンションだけを測れば良いわけではありません。
細かく分解することに拘ろう
もしGoogle Analyticsが表示するコホート別のリテンションチャートだけを追っているのであれば、もっと深掘りできるはずです。「100人新規ユーザーが来て、次の週に30人が残った」だけではユーザーの解像度が足りず、次の打ち手が打てません。何がリテンションを作っているのか、どこで離脱しているのか、コア機能でリテンションできているのか、離脱した人は戻ってきているのか、などを知る必要があります。
では何をどうやって分解すれば良いのか
分子側(リテインしたユーザーの定義):前述の例では「アプリをもう一度開いた」としていましたが、もっと細かく定義したユーザー像も計測してみましょう。いくつか例を挙げてみます。
アクティブ時間:10秒の利用だけではリテインしたと言えないのであれば利用時間のラインを引き、それ以上使った人を対象にすることを検討しましょう。長時間利用がアプリの醍醐味の中、リテインしたユーザーの殆どが10秒以下の利用であれば一気に数字も現状理解も変わるはずです
コアアクション:メッセージを送信した、イイねをしたなど特定の「アクション」を完了したユーザーだけを対象にすることも一つの手法です。コアアクションが殆ど利用されないのに全体リテンションが高い場合、ユーザーは違う所に価値を感じているはずです
利用回数:カメラアプリのような「利用回数」が重視されるアプリでは起動回数でユーザー数を括っても良いかもしれません。利用は10秒でも一日20回起動していたら十分にリテインできている状態と言えます
分母(コホートの対象となるユーザー):Daily~Yearlyなど期間に変化を加えるのは前述の通りですが、それ以外にもコホートの区切り方があります。ここでは大事な二つを紹介します。
Paid vs. Free:無料・有料プランがはっきりしているサービスを展開しているのであればこの区切り方は必須です。有料ユーザーの方が利用頻度は高い傾向にあるので全体を混ぜると間違った判断をします。特に今後の有料ユーザー増加の戦略を考えたいのであれば、しっかりと無料ユーザーの動向だけも見るようにしましょう
Returning Users:リテンションを考える時にどうしても多くの人が「新規ユーザー」だけを見がちですが「戻ってきたユーザー」をいかに再リテインするかも重要です。特にDL数が100万を超えてくると新規ユーザーの獲得が日に日に難しくなります。何かをきっかけにもう一度興味をもってくれたユーザーに対して施策を打つことの重要性は考えれば当たり前なのに、ここを緻密に計算できているスタートアップは稀だと感じています
世界のトップ企業はこんなに分解している
Duolingoがどのようにリテンションを考えているのか素晴らしい記事があるので、読んだことない人はぜひ読んでみてください。
具体は読んで頂ければと思いますが、ここで念押ししたかったのは、Duolingoでは下記図の通りとにかくユーザーコホートを細分化しています。当noteで言う分母を7つの括りにしてそれぞれ分析しています。
DAU3000万人以上でマーケティングパワーが別格な超一流サービスでさえここまで研究しています。ユーザーを可視化ができる優れたサービスはたくさんあるので、ある程度ユーザー数が増えたらコストをかけて分解できる土台を整えることが大事です。広告に50万円を使う前にまずはユーザーを深く理解するためにお金を使うことをおすすめします。
⑤ 分解指標とKPIは別物
「深掘りをした後の簡略化」も大事です。つまり何層にも分解した指標をKPIとして追うのは間違いです。KPIはチームを導く指標であり、分解した指標は現状理解をするためのツールです。KPIが50個もあると方向性が曖昧になってしまうので危険で、分解した結果「何にフォーカスをすれば良いのか」という結論を導き出すことが重要です。そのため、何個にも分解したRetention Rateの殆どは「今フォーカスしない」という捨てる選択をすることも大事です。深掘り作業は何をしないかを決める作業でもあります。
⑥ 良いリテンションレートとは何か
世の中の平均
英語で調べると多くの記事が出てきますが、ソースを辿ると殆どの記事が下記3つを参照しているため、今回はこの3つの平均を取ってみました。
1 Dayは約27%、30 Dayとなると5%程度というのがざっくり平均となりました。いかに30日の継続活用が難しいかが分かります。
また、細かい点を見るとゲーム・ソーシャル・ニュースなど毎日の使用を想定したものは 1 Dayが30%弱と高く、旅行やエンタメは20%弱と低い結果になりました。ゲームはその反面飽きが早い傾向があり競合も多いので30日の平均が2%に対し、ニュースなどは競合が比較的少なく「毎日見るもの」としてリテインしやすいため10%と高い平均を出しています。
しかしこれは単なる平均であるため、ある意味スタートラインです。ざっくりの感覚値としてDay 1の30%、Day 30の5%突破をまず目指しましょう。
トップ企業の数値
トップ企業を見ると業界によって変動があるため、おすすめはご自身と同領域のトップスタートアップのブログ等を読み漁って情報を集めることです。日本語だと情報が限られるので可能な限り米国トップのスタートアップを探しましょう。ここでは一つだけ引用します。a16zの記事によると、Bounded Retention Rateのベンチマークは以下の通り
OK – 1 Day 50%, 7 Day 35%, 30 Day 20%
Good – 1 Day 60%, 7 Day 40%, 30 Day 25%
Great – 1 Day 70%, 7 Day 50%, 30 Day 30%
自分の投資先とはシード期から一緒になって数字を追っているので、これを初めて見た時は絶望を覚えました。翌日半数が戻ってきても"OK"の分類とはあまりにも厳しいですが、国内・世界中のユーザーが毎日熱狂するようなアプリを開発するのであれば、これらの数字を目指してとことん分析し、戦略を組み立てていきましょう。
⑦ 最後に
長い文章を簡単にまとめると
① 計算方法をしっかりと理解しよう
② ユーザー動向が手に取って分かるようになるまで、細分化・深堀しよう
③ その中でも大事な指標を1個か2個決め、とことん追い続けよう
この3点に限ると思います。どれか一つでも不足していると感じたら、やるのみです。当noteがそのきっかけになってくれれば良いなと思います。
そして最後にちょっとだけ告知を。
私が所属するANRIは創業初期の起業家を支えるベンチャーキャピタルです。「未来を創ろう、圧倒的な未来を」をビジョンに掲げ、日々素晴らしい起業家と共に奮闘しております。起業やVC調達に関心があれば気軽にお声がけください。下記リンクは起業や調達の相談フォームです!ぜひ!
最後まで読んで頂いた方、ありがとうございました!