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【3分で読める】「廻廻奇譚/Eve」を聴いて小説のワンシーンを想像した。【歌詞分析】

【あらすじ】
”雇われ殺し屋”のデルタ。彼は相棒のローグと共に国営芸術劇場へと向かっていた。ターゲットはウィリアム・ウィリントン。国民的な人気を誇るオペラ歌手である彼女を殺すこと。それがクライアントの依頼内容である。

血に手を染めるのはこれが初めてではない。
生きるのに必要な手段であり、俺の唯一の存在意義。
今日もいつものように任務をこなすだけ…の予定だった。


 カーステレオがノイズを流し出すようになってから、随分と時間が経過した。ローグは舌打ちをしながら、スピーカーに拳を叩きつける。
「んだよ、使えねぇな。ラジオを聴かせろ、ラジオを」
「使い捨ての中古車だ。そもそも破棄される予定だった車だからな。それくらい我慢しろ」
 デルタはハンドルを握りながら、プランの流れを脳内で再確認する。BGMも、ノイズも、ローグの愚痴も、全てが俺にとっては集中の妨げになる。
「デルタ。昨日はターゲットに接触したんだろう?どんな女だ?」
 我々は殺しの前日、ターゲットの懐に潜り込むことを習慣づけていた。対象の日常的な癖や生活様式を完璧に理解することで、殺しの算段はより完璧に近づく。「殺し」だけが殺し屋の役割ではない。そこに至るまでの準備段階も、立派な仕事なのだ。

 俺は昨夜パーティに変装で参加し、彼女と会話をしていた。
「あぁ。いい女だった」
「んなことは聞いてねぇよ」
「冗談だ。歌唱パフォーマンスは4分22秒。彼女が入場してから、退場するまで約5分15秒程度だ」
「なるほど。それなら時間は十分だな。俺が合図をだす。お前はそれまでの間、照準を向け続けろ」
「了解」
 目的地に到着した。車のエンジンを止め、ハンドブレーキをかけた後、窓をほんの少しだけ開く。
 オペラには珍しい、ホールではなく野外ステージでの演奏。煌びやかな照明がステージをくっきりと照らし出していて、スコープを使うまでもないと思った。

 緞帳が上がる。客席から、視線が一気に集約する。
 そこには彼女の姿があった。
 昨晩とは少し濃いメイクで、美しいドレス姿で立っている。
「さて、獲物のおでましだ」
 彼女は昨晩、息子の話をした。
 息子は今年で5歳になるらしい。病弱で世話がかかるけれど、それでも愛しているのだと、アルコールに頬を染めた彼女が自慢げに語っていたのを思い出す。
「よしっ、準備はいいか?」
 息子は車が好きで、おもちゃのミニカーを買ってあげると喜ぶそうだ。まるで俺の幼い頃の話を聞かされているようで、首筋のあたりが痒くなった。
「おい、デルタ?」
 いつもこうだ。直前になって、躊躇が生じる。人間らしい情など、とっくに捨てたはずなのに。
 ローグが舌打ちをし、スナイパーの銃口をステージへと向ける。
「ローグ…」
「何の為に殺し屋がタッグを組むか知ってるか?どちらかが感情に絆された時、もう一方が任務を遂行してやる為さ。昨夜何があったか知らねぇが、今のお前には任せられない」
 車内が沈黙で包まれる。彼女が歌っているはずなのに、その歌声は俺の耳には届かない。
「やらせてくれ」
「出来んのかよ」
「あぁ」
 ローグから銃を受け取り、銃口をステージに向ける。そして安全装置を外し、肩で固定させるようにしながら引き金に指をかけた。
 
 仕事に理由など不要だ。
 人が生きて、死ぬのに理由がないのと同じように。
 誰かが損をすれば、誰かが得をする。
 彼女が死ねば、その分誰かが生かされる。
 それだけの話だ。

 銃口を真っ直ぐ前に向ける。そして、ゆっくりと引き金を引く。
 破裂音が、舞台に鳴り響いた。

ーー

最後までご覧いただき、ありがとうございました!
「廻廻奇譚」は呪術廻戦のテーマ曲です。呪術廻戦の原作ファンなので、どうしても話がアニメ、漫画に寄ってしまいがちで悩まされました…笑

「廻る感情線」「帳」「呪われた僕の未来」といったキーワードに、肉付けしていくような流れで執筆致しました。主人公の葛藤が描きたいと思っていたので、理想の仕上がりになったと自己満足しています。
呪術廻戦とはまた違った魅力を表現できていたら嬉しいですね!

民奈涼介




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