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スケアクロウ〜どうしようもないカッコ悪さに胸を打たれるロードムービーの名作

『スケアクロウ』(Scarecrow/1973年)

『スケアクロウ』(Scarecrow/1973年)は、“悲しくて美しい人生”を描いた名作。

主演する二人は、ジーン・ハックマンとアル・パチーノ。当時『フレンチ・コネクション』や『ゴッドファーザー』で注目されていた、二人の演技派の共演が話題になった。

撮影はスタッフ、キャスト、機材が、大型車両と共に移動するシネ・モービル方式。早朝5時に撮影に出発し、帰りは真夜中なんて当たり前。ゆえにフィルムに刻まれたリアリティがハンパない。

この映画は無垢を描いた物語だ。主人公の二人は反徒ではなく、多くの人々同様、ささやかな希望を抱いて生きている。彼らは社会に挑戦しようとしない敗残者であり、犠牲者だ。(ジェリー・シャッツバーグ)

『70年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)より

監督のジェリー・シャッツバーグが言うように、この作品に出てくる二人の男は、決してクールな生き方をしていない。

タイトルの「スケアクロウ=案山子」が意味するように、見掛け倒しの頑固者で、夢を掴もうと懸命に努力はするものの、結局は無駄骨に終わってしまうアンラッキーな男たち。

しかし、そのどうしようもないカッコ悪さ。かすかな希望に人生のすべてを賭けてしまうような愚かさが、どこまでも胸を打つ。

南カリフォニアからデトロイトまでの3200キロ。喧嘩っ早い大柄の荒れくれ者と、優しい性格の小柄なおどけ者という対照的な人間が、旅を通じて育む友情と心の触れ合い。

距離と移動を必要としない現在。デジタル社会に生きる我々にとって、むしろ「強さ・優しさ・逞しさ」を備えた人間的魅力を感じずにはいられない。

日本公開時の映画チラシ

(以下、ストーリーと結末含む)

マックス(ジーン・ハックマン)とライオン(アル・パチーノ)が出逢うのは、南カリフォルニアの路上。

二人の会話から、マックスは6年の刑期を終えたばかりで、洗車の事業を始めるためにピッツバーグに行くこと。ライオンは船員生活から足を洗って、5年前に置き去りにした妻子に会うためにデトロイトへ行くことが分かる。

「案山子はカラスにまで馬鹿にされているが、それでも自分を頼りにそこに立ててくれた人のために、じっとその領域を守ろうと頑張っている。だからカラスも同情してそこには入らない」

映画『スケアクロウ』より

立ち寄ったダイナーでライオンがそう話すと、マックスは笑いながら呆れるが、「人を信じ、物事を荒立てず、人を笑わせてうまくやっていく」というライオンの生き方にどこか魅了される。マックスは信頼できる事業パートナーとしてライオンを指名した。

ヒッチハイクや汽車を乗り継いでデンバーにやって来た二人。そこにはマックスの妹コリーがいて、その友人のフレンチーにマックスは惚れ込む。意気投合した4人は盛大なパーティに繰り出して、アレサ・フランクリンの音楽で踊り明かす。

しかし、フレンチーの異性関係が原因で、マックスはその場にいた男と乱闘。ライオンとともに更生施設で一ヶ月の強制労働を課せられる。短気なマックスは逆戻りの生活に耐えられず、ライオンに責任のすべて押し付けて、一方的に友情を絶とうとする。

施設の古顔であるライリーは馴れ馴れしい態度でライオンに近づき、彼には楽を仕事を、反抗的なマックスには豚の世話係を回す。

ライリーの本当の目的は自分の性欲処理のためにライオンを利用しようとしただけで、それを拒んだライオンは袋叩きにされて血まみれになる。怒りを覚えたマックスはライリーに復讐し、二人の間に友情が復活する。

デトロイトに向かう二人だが、酒場でまたもやトラブルを引き起こそうとするマックスに、初めてライオンは怒る。友情を失いたくないマックスは即興のストリップを披露して、その場を和やかに収めた。ようやくライオンが示すスケアクロウの生き方が分かってきたのだ。

5年ぶりに辿り着いた妻の家の前で、まずは電話を掛けて様子を伺う小心者のライオン。期待や不安、後悔や自責の念など、彼の心の中にはあらゆる感情が募っていた。

だが、妻はまさかのライオンからの電話に罵声を浴びせる。しかも子供は元気で一緒にいるのに、出産直前に階段で転んで死産したなどと嘘をつき、さすらうことを選んだライオンを責め立てる。

ショックで放心状態になるライオン。心配するマックスの前では、元気な男の子がいたこと。妻は再婚したので新しい生活を邪魔するわけにはいかないなど、作り話でごまかす。二人の行き先はピッツバーグしか残されていなかった。

マックスが相棒の異変と真実に気付いた時、ライオンは精神を壊して病院に運び込まれる。マックスは必死に稼いで貯め込んだ事業用の金を、親友の治療費に使うことを決める。そして一人、ピッツバーグに旅立っていく……。

文/中野充浩

参考/『スケアクロウ』パンフレット、『70年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)

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