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夜の人々〜ボウイとキーチの“愛の逃避行”を描く伝説のフィルム・ノワール

『夜の人々』(They Live by Night/1948年)

監督ニコラス・レイ──のちにヌーヴェル・ヴァーグの面々や、ヴィム・ヴェンダースといったヒップな映画作家たちから絶大なリスペクトを受け、ハンフリー・ボガート主演の『孤独な場所で』(In A Lonely Place/1950年)、『大砂塵』(Johnny Guitar/1954年)、ジェームズ・ディーン主演の『理由なき反抗』(Rebel Without a Cause/1955年)など、心に残る名作を遺した、映画界の最重要人物の一人。

『夜の人々』(They Live by Night/1948年)は、そんなニコラス・レイの初監督作だった。

原作はエドワード・アンダーソンが1937年に発表した小説『Thieves Like Us』。若い恋人たちの逃避行を描いたこの作品は、1974年にロバート・アルトマン監督によってリメイクされ、『ボウイ&キーチ』として蘇ることになる。

『夜の人々』は、いわゆるフィルム・ノワールの傑作として語られることもある。

フィルム・ノワールの定義は諸説あるので、ここでは詳細を控えるが、大まかに言えば、「1940〜50年代に低予算で作られたモノクロ犯罪映画」の総称で、暗く悲観的なムードを特徴とする。

登場人物たちは何かしらの影を抱え、何者かに追われる状況にあり、舞台は決まって夜となる。

このジャンルを愛する映画ファンも少なくない。余談だが、あの『ブレードランナー』も、このフィルム・ノワールを意識して作られた。

ただ、『夜の人々』が他のフィルム・ノワール群と一線を画すのは、過酷な現実や暴力に生きるアウトサイダーたちの姿と、ボウイとキーチの運命的な出逢いや純愛という対極的世界が、一つのストーリーの中で同時に呼吸していること。

ゆえに観る者の心には、極めてメロドラマ的な“悲しくて美しい世界”が広がっていく。

『俺たちに明日はない』のボニー&クライドは、愛し合う犯罪者だった。作家ウィリアム・アイリッシュが『暁の死線』で描いたブリッキーとクィンは、時間に追われる恋人たちだった。『夜の人々』におけるボウイとキーチは、この狭間にいるような気がしてならない。

当初、プロデューサーのジョン・ハウスマンは、この物語に惚れ込んでいたニコラス・レイこそが、この作品の監督に相応しいと考えていた。

だが、レイには映画監督としての実績がなかったため、映画会社RKOから難色を示された。しかし、1947年にリベラル派のドーリ・シャリーが製作責任者に就任したことによって、事態は好転。レイを起用するOKが出る。

クランクインは1947年6月。ハウスマンやシャリーといった良き理解者の擁護もあり、レイは自分のスタイルで一貫して作品に取り組むことができた。クランクアップは同年10月。

ところが完成後、RKOは反共愛国者のハワード・ヒューズに買収されてしまい、相容れないシャリーは会社を去る羽目に。その影響もあって映画はお蔵入り。ようやく公開されたのは1949年11月のことだった。

アメリカ公開時の映画ポスター

殺人の濡れ衣を着せられ、刑務所に収監されていたボウイは、兄貴分のTダブと片目のチカマウに連れられ脱獄する。

冤罪を晴らすため、弁護士費用が必要となるボウイは、仲間と銀行強盗を計画。金を手にするものの、逃げる途中で交通事故に遭って負傷。おまけにチカマウが事件を疑った警官に発砲する。

ボウイを看病してくれたのがキーチで、二人はすぐに恋に落ちた。しかし、ボウイの指紋が付いた拳銃が車に残されていたため、新聞沙汰に。無実の証明どころか逃亡の身となってしまう。

愛し合う二人は、たった20ドルで簡易結婚式を挙げ、この先まともに生きようと誓い合う。しかし、仲間たちは再び銀行を襲うことをボウイに強いる。何も知らないキーチは、子供ができたことをボウイに告げた。二人の運命は?

文/中野充浩

参考/『夜の人々』DVD特典リーフレット

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