レザボア・ドッグス〜「無名には映画を作らせてくれない」現実と闘い続けたタランティーノ
『レザボア・ドッグス』(Reservoir Dogs/1992年)
無名の才能が直面する、“よくある話”。
『レザボア・ドッグス』(Reservoir Dogs/1992年)で監督デビューする直前のクエンティン・タランティーノも、例外ではなかった。
ところが、この新しい脚本を読んだパートナーのプロデューサー(ローレンス・ベンダー)が、「面白いからもう一度売り込もう」と言い出した。
これ以上、無為な日々を過ごしたくなかったタランティーノは、2ヶ月の期限を条件に再び挑むことにした。もしダメでも16ミリで撮ればいい。だから話し相手とは一切妥協なんかしない。
その開き直りの態度が功を奏したのか、今度は次々と協力者が現れた。その一人が知り合いから紹介されたハーヴェイ・カイテルだった。ハーヴェイは脚本を読むと、たった3日でタランティーノに返事を出した。
「気に入った」
大好きな俳優からそう言われて、タランティーノは歓喜した。有名俳優が出るということで、資金繰りは突然楽になった。
しかもハーヴェイは、プロデュースまで引き受けてくれた。こうしてビデオ屋で働いていた無名の28歳の映画オタクが、遂に監督デビューすることになったのだ。
集まってきた俳優はハーヴェイのほか、ティム・ロス、マイケル・マドセン、クリス・ペン、スティーヴ・ブシェミら。リハーサルは1991年7月から2週間に渡って行われ、クランクイン。ロサンゼルスにある元死体安置所などを使って5週間で撮影された。
出来上がった『レザボア・ドッグス』は、世界各地の映画祭で絶賛。数々の賞を獲得する。
マドンナの「ライク・ア・ヴァージン」に関する猥談で始まるオープニング。強盗そのもののシーンを描かずに、失敗した直後の逃走から幕開ける本編。一人二人と倉庫に逃げてくる登場人物たちの素性明かし。ぼんやりとしていたストーリーが次第にはっきりと浮かび上がっていく流れ。そして瞬間的なクライマックス……
それは、当時のハリウッド映画には思いもつかない、余りにも新しい感覚だった。
ロサンゼルスのレストラン。大かがりな宝石強盗を計画したボスのジョーのもとに、6人の男たちが集まっている。
全員がブラックスーツにブラックタイ、サングラスといった出で立ち。計画の成功のためにはお互いの素性を明かさず、それぞれがコードネームで呼び合うのがこの組織の鉄則だ。
だが、計画は失敗。すでに大勢の警官が待ち伏せしていたのだ。Mr.ホワイト(ハーヴェイ・カイテル)は、瀕死のMr.オレンジ(ティム・ロス)を引き連れて、命からがらアジトの倉庫に逃げ帰る。
続いてMr.ピンク(スティーヴ・ブシェミ)がやって来ると、ブラウンが死んでブルーが行方不明になったことを知る。
ジョーと息子のエディ(クリス・ペン)に連絡を取ってその場を脱出しようとするが、同時に一つの疑惑に囚われ始める。
「仲間の中に裏切り者がいるのではないか」
その直後、Mr.ブロンド(マイケル・マドセン)が人質の警官を手土産に戻ってきた。ブロンドは誰が裏切り者か吐かせようと、狂気じみた拷問を繰り返す。
ホワイトとピンクたちが、逃走中に隠してきたダイヤモンドを取りに行っている間、倉庫には死にかけたオレンジ、ぐったりとした警官、そしてブロンドの三人が残された。果たして裏切り者はいるのか。それは誰なのか?……。
音楽はジョージ・ベイカー・セレクション、スティーラーズ・ホイール、ジョー・テックス、ハリー・ニルソン、ブルー・スウェードといった、1970年代のヒット曲を絶妙なタイミングで使っているのも印象的だ。
タランティーノが次作『パルプ・フィクション』で、世界のポップカルチャーのアイコンになるのは、2年後の1994年だ。
文/中野充浩
参考/『レザボア・ドッグス』パンフレット
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