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キャデラック・レコード〜ビヨンセも出演した伝説のレーベル“CHESS”の物語

『キャデラック・レコード 音楽でアメリカを変えた人々の物語』(CADILLAC RECORDS/2008年)

レコード会社を描いた映画はこれまで数々作られてきたが、中でもメンフィスのサンやデトロイトのモータウン、NYのアトランティックといったインディペンデントと呼ばれる独立レーベルの物語は実に見応えがある。そしてシカゴの名門チェスのストーリーも例外ではない。

映画『キャデラック・レコード』(CADILLAC RECORDS/2008年)には、レナード・チェス、マディ・ウォーターズ、リトル・ウォルター、ハウリン・ウルフ、チャック・ベリー、エタ・ジェイムズの6人の主要人物が登場する。

彼らを語るのは、チェスのソングライター/プロデューサーだったウィリー・ディクソン。1950年代〜60年代におけるブルーズ、R&B、ロックンロールの伝説的な実話が綴られていくが、その一つ一つが音楽ファンには強く心に刺さる。

日本公開時の映画チラシ

1940年代前半。南部ミシシッピの貧しい農民だったマディ・ウォーターズは、図書館用に自分の歌とギターを録音したことをきっかけに“自分を発見”。大都市シカゴへ移ってブルーズ音楽に夢を賭ける。

街の騒音や人々のざわめきに音が消されないようにと、アコースティックからエレクトリックにギターを持ち替えると、彼のダウンホームな感覚を持った音楽は、次第に都会の黒人たちを魅了し始める。

それを世に送り出したのはレナード・チェス。ポーランド移民で貧しい暮らしをしていたが黒人音楽に取り憑かれ、ビジネスの可能性を見出して1947年にレコード会社アリストクラットを設立(50年にチェスと改名)。

こうして南部ミシシッピに息づくデルタ・ブルーズが、マディとチェスの出逢いを通じて、北部の大都市でバンド・ブルーズへと昇華した。

他にもアンプリファイド・ハープ(ハーモニカをアンプに通して音を分厚く強くするスタイル)を発明したリトル・ウォルター、マディと同じくミシシッピから移住してきた、独特の潰れた声でオオカミのように唸るハウリン・ウルフが続いてスターとなる。

レナードは成功の証として、彼らに一台ずつキャデラックの高級車をプレゼントしていく。チェスのブルーズマンは、黒人たちの夢の象徴になった。

1950年代半ば。チャック・ベリーをチェスに紹介したのはマディだった。ロックンロールの旋風とティーンエイジャーの台頭によって、ブルーズマン以上の華やかな成功を手にするチャックだったが、人気絶頂時に未成年の少女を連れ回した罪で投獄されてしまう。

一方、リトル・ウォルターは酒と麻薬に溺れ始め、マディは人気が下火になって金の心配がつきまとう。レナードはそれでも彼らを見捨てたりはしない。マディは「ブルーズっていうのは不条理がテーマなんだ」と言った。

1959年。エタ・ジェイムズがレナードの前に現れる。遊び人だった白人の父親と商売女だった黒人の母親の間に生まれたという素性に、いつも苛立ったり強がったりして混乱の中に生きる女であり、最高の歌い手。

彼女もすぐさまスターになるものの、過去に苦しむあまり麻薬に溺れて死にそうになる。レナードはエタに言う。

悲しみに自分を乗っ取られるな。
マディはそれを歌に託して心から追い出す。
リトルは常に持ち歩き、酒と麻薬を食わしてる。

映画『キャデラック・レコード 音楽でアメリカを変えた人々の物語』より

物語は、リトル・ウォルターの悲劇的な死(マディが泣き崩れる)、チェス・レコードから身を引いた矢先のレナードの死、そして英国で人気が復活するマディの姿で閉じられる。

この作品は観ること自体が、あの奇跡の時代の音楽体験となる。

エピソードも豊富で、マディとウルフの反目(ギタリストのヒューバート・サムリン引き抜き事件)やDJアラン・フリードへの賄賂、チャック・ベリーの曲を盗作したビーチ・ボーイズ、チェスのスタジオを訪れてマディに敬意を表すローリング・ストーンズなどが印象的(ちなみに初期ストーンズには「2120サウス・ミシガン・アヴェニュー」という曲があるが、これはチェスのスタジオの住所だ)。

ビヨンセがエタ・ジェイムズを演じて話題になった。アーリーソウル・バラードの傑作「At Last」「All i Could Do Was Cry」「I'd Rather Go Blind」などを、見事に歌い上げるシーンも見どころ。

やっと 愛し合える人に出会えた
孤独な日々が終わったの
人生はまるで歌のよう……

「At Last」

文/中野充浩

参考/『キャデラック・レコード』DVD特典映像

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