エリザベスタウン〜絶望して生きる気力を失いかけた時はこの映画を観よう
『エリザベスタウン』(ELIZABETHTOWN/2005年)
人生には失敗なんてつきものだし、その経験が成長の糧となっていくことは言うまでもないけど、もしスケールの違う“大失敗”をやらかしてしまった時、人は一体どうなるのだろう?
生きている実感を失いそうになった時、人はどんな行動に出るのだろう? 大失敗には、質の悪い弊害も伴う。愛の喪失、お金の心配、健康の不調、精神の崩壊、そして世間からの孤立……。
映画『エリザベスタウン』(ELIZABETHTOWN/2005年)は、そんな大失敗した者を主人公にした。失意の中で様々な出来事と向き合いながら、人は決して独りで生きているのではなく、大失敗しても次があることを教えてくれる。力強くも優しい物語だ。この作品と巡りあった人は、幸運だと思う。
監督・脚本は『あの頃ペニー・レインと』『ザ・エージェント』などで知られるキャメロン・クロウ。脚本作りに数年費やすことで有名で、ストーリーや台詞の組み立て方に評価が高い映画作家。本作では自身の父とのエピソードを織り交ぜた。
もともと音楽ジャーナリストだけあって曲の使い方も秀逸。本作にも抜群の選曲が、ここぞというタイミングで鳴り響く。当時、クロウと夫婦だったナンシー・ウィルソン(ハート)のアコースティック・スコアも心地いい。二人でアメリカ横断のバス旅行に一緒に出かけたことも、映画作りにインスピレーションを与えたという。
(注・以下ストーリー含む)
物語は、オレゴン州の大企業で新しいスニーカーの開発デザインのプロジェクトリーダーを担当するドリュー(オーランド・ブルーム)が、会社に大損失を与えるところから始まる。その額、前代未聞の約10億ドル。
その大醜態が、自分の責任として世間に公表されるのは1週間後。こうして8年間も身を捧げてきた夢が、最悪の状態で終えることが決まった。
オフィスに戻ると、社長(アレック・ボールドウィン)からも恋人(ジェシカ・ビール)からも“最後の目線”を送られ、解雇されたドリューは自殺を決意。しかし、そんな時に限って父の死の知らせが妹(ジュディ・グリア)の電話で判明。つまり、自分が死ぬのは、親父の葬儀が終わってからでいい。
父ミッチの故郷であるエリザベスタウンへ飛び立つドリュー。そこはケンタッキー州ルイヴィルから264号線を走り、60Bで降りたところにあるスモールタウン。
父の口癖は「人生山あり谷あり」だったことを想いながら飛行機に乗っていると、ちょっと不思議な客室乗務員のクレア(キルスティン・ダンスト)と出逢う。他に乗客もなく暇でやることがないクレアは、エリザベスタウンまでの道案内を詳細に伝えた。携帯電話の番号をメモに記して。
故郷に着くと、“大失敗”のことなど何も知らない人々は、ドリューをスーパーデザイナーとしてヒーロー扱い。そして父がどれだけ多くの人々に愛され、偉大な存在だったのかを知る。
個性の強い南部の親戚の面々、悲しみと直面しながらもユーモアを忘れない母ホリー(スーザン・サランドン)や妹と交流しながら、ドリューは長年の仕事一筋の生活で自分に欠けていたものに気づき始める。「パパは離れ離れになっていた皆の心を一つにした」のだ。
クレアとも親しくなった。朝まで電話で語り合ったり、日の出を見に行ったり。でもクレアには恋人がいるらしい。それでも二人は縁があるのか、何度も偶然に再会。遂にベッドを一夜共にする。
自分の大失敗を告白するドリューに、クレアは「それだけ?」と微笑む。「私と別れようとするのはやめて。まだ付き合ってもいないのに」。そんな言葉を残してクレアはその場を去って行った。
盛大な葬儀も終わり、現実に戻ってオレゴンに帰ろうとするドリュー。車で40時間以上のロードトリップだ。別れ際、クレアは“特別な地図”をドリューにプレゼントした。
それはクレアが選曲した、音楽CD付きの手書きマップ。ドリューは、父の遺灰を助手席に乗せてアクセルを踏み込んだ。
車を走らせながら、これまでのことを想いながら、思いっきり笑い、大泣きし、あらゆる感情をさらけ出すドリュー。大失敗と死ぬことしか頭になかった自分。そして、その帰路でドリューを待っていた大切な人とは?
アメリカ南部が舞台とあって、カントリーやフォークなどのルーツ・ミュージック、トム・ペティやライアン・アダムスの曲にも痺れるが、映画で特に印象的な曲は三つ。
亡き父との再会と帰路のドライブのシーンで流れるエルトン・ジョンの「My Father’s Gun」。従弟のバンドがお別れ会で演奏するレイナード・スキナードの「Freebird」。そして母ホリーが葬儀のステージでダンスを披露するヘンリー・マンシーニの「Moon River」。他の曲では駄目なのだ。
文/中野充浩
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