1984〜数多くの音楽や映画に影響を与えたジョージ・オーウェルのディストピア世界
『1984』(Nineteen Eighty-Four/1984年)
2019年は平成の終わりと新元号「令和」の始まり、2021年は東京五輪開催と、一大イベントを立て続けに迎えた日本。我々は、この4つの数字(西暦)に時に弄ばれることが少なくない。
例えば、世紀末の1999年は、あのノストラダムスの大予言があった。音楽ファンには、プリンスの同名アルバムの方が重要かもしれない。2000年はミレニアムとしてカウントダウンイベントが世界各地で行われたし、2001年といえばキューブリックの映画『2001年宇宙の旅』がある。
20世紀に目を向けてみると、真っ先に思い浮かぶのが1984年ではないだろうか。そう、ジョージ・オーウェルの同名ディストピア(反ユートピア)小説だ。
このストーリーが他のカルチャーに与えた影響は極めて大きく、デヴィッド・ボウイの『ダイアモンドの犬』、新進のアップルコンピュータが巨大企業IBMの独占に立ち向かう1983年のCMをはじめ、『1984年』の世界観を漂わす創作が数多くある。
作家ジョージ・オーウェルは、1903年にイギリス植民地時代のビルマで生まれた。青年時代は警察官として同地で過ごすが、そこで接した現地人を見下す差別感、抑圧する側の心理などが、後の執筆活動の基盤の一つとなる。
イギリスに帰国後、貧困と放浪の中で執筆の鍛錬に励む。33歳の時、スペイン内乱の革命的状況に圧倒され、ファシズムに対抗する兵士として戦線に参加。同志たちの信念に心動かれるが、結局はソ連のスターリン主義者による弾圧に破られ、現実を目の当たりにした。
1945年に『動物農場』で知名度が上がり、これからという矢先に結核に悩まされながら『1984年』の執筆を開始。
社会主義に潜む権力や反人間性を思い知らされていたオーウェルは、「独裁体制の確立後にどのような管理支配が行われ、自由を求める人間にはどんな運命が待っているのか?」。その問いかけに応えるために、筆を進めていく。
小説は1948年末に完成するが、当初のタイトルは『ヨーロッパ最後の人間』。よりキャッチーなタイトルを迫られたオーウェルは、1948年の4と8をひっくり返し、『1984年』として翌年刊行。しかし病には勝てず、1950年にロンドンで死去。まだ46歳の若さだった。
『1984年』は、1954年にイギリスでTVドラマ化、1955年に最初の映画化が試みられたが、原作を忠実に再現したという意味で決定版と言えるのが、今回紹介する『1984』(Nineteen Eighty-Four)だ。
撮影も公開も1984年で、当時のソ連とアメリカの関係における冷戦状態も影響して話題になった。
また、サウンドトラックをユーリズミックスが手掛けたことでも注目。MTVなどで報じられて記憶に残っている人もいると思うが、彼らの音楽を使用するかどうかで監督と一悶着あり(映画のムードに合わないというのが理由)、実はまともに流れていない。
1984年、世界はオセアニア・ユーラシア・イースタシアという3つの超大国家に分裂していた。
オセアニアは絶えずどちらかと戦争状態にあり、イングソック(INGSOC)なるイデオロギーが人々を支配している。スローガンは「戦争は平和である」「自由は屈従である」「無知は力である」。
ビッグ・ブラザー(30年間ソ連を支配したスターリンがモデル説)に忠誠を誓い、言葉も行動も思考も、すべて同一になることを要求されている悪夢のような灰色の世界。巨大な双方向方式のテレスクリーンが人々の行動すべて監視し、絶望的な暗さが覆っている。もちろん恋愛やセックスも禁止だ。
法と暴で抑えつける愛情省、戦争を永久に続けるための平和省、人々の生活を水準以下に保つための贅沢省が設置されているが、ウィンストン・スミスは真理省の記録係。
過去・現在・未来と時を支配するために、かつての新聞記事を改ざんするのが主な仕事。薄汚いアパートを行き来する日々がひたすら重く続く。
ある日の仕事中、抹殺されたはずの3人の人物が載った過去の記事を偶然に見つけたことから、スミスの体制への疑いは確信へと変わる。
自由を求めるスミスがしたことは、密かに日記をつけ、夢の中で黄金色の田園風景を彷徨うこと。そして、同じように体制を憎むジュリアと出逢ったことで、監視が行き届かない場所で密会を続けること。こんなことがもし秘密警察に知られると、逮捕され、拷問と洗脳のあげく、銃殺されてしまう。
そんな時、特権を持つ幹部オブライエンから、禁断の書のことを教えられる。彼も本当は党への反逆を企てており、自分たちは絆で結ばれた同志だと打ち明けられる。
スミスは微かな希望を持つが、オブライエンは秘密警察のメンバーだった。これは最初から仕組まれた罠だったのだ……。
改めて『1984』を観たが、人々が互いに監視し合っている状況なんて、スマホでカメラ機能をいつでも立ち上げられる今の状況とそっくりだ。テクノロジーや個人情報や法律との関係性も驚くほど似ている。
『未来世紀ブラジル』『華氏451』と併せて鑑賞してほしい、ディストピア映画の傑作だ。
文/中野充浩
参考/『1984』パンフレット
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