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ドリームガールズ〜黄金期のモータウンとシュープリームスをモデルにした物語

『ドリームガールズ』(Dreamgirls/2007)

マーティン・ルーサー・キング牧師らが先導した公民権運動は、1950年代中頃から始まって、60年代前半には大きなうねりとなってアメリカに浸透した。

それはブラック・ミュージックのシーンにおける「R&B」から「ソウル」への移行や発展という流れともシンクロした。ソウルは黒人たちの誇りなくしては生まれなかった。

その代名詞的存在となったのは、言うまでもなく1959年に誕生したデトロイトのレコード会社、モータウンだ。

“サウンド・オブ・ヤング・アメリカ”を掲げた革新的なサウンドで、“ヒッツヴィルUSA”と名付けた本社スタジオから生み出されるレコードの数々は、黒人以外の若い白人聴衆も獲得しながら、R&Bチャートやポップチャートに次々とナンバーワンヒットを連発。

ドライヴ感溢れるノーザン・ソウル・ナンバーは、瞬く間に時代のサウンドトラックを捉えることに成功する。デトロイトそしてモータウンは、新たな“約束の地”となった。

そこには設立者ベリー・ゴーディ・ジュニアの半歩先を行く経営手腕だけでなく、ソングライターチームのホーランド=ドジャー=ホーランドやファンク・ブラザースと称されたスタジオミュージシャンなど、優秀なスタッフの存在があったことを忘れてはならない。

所属アーティストはスモーキー・ロビンソン、ザ・ミラクルズ、マーヴィン・ゲイ、テンプテーションズ、フォー・トップス、メリー・ウェルズ、マーヴェレッツ、マーサ&ザ・ヴァンデラス、スティーヴィー・ワンダーといったモータウン・ファミリー。

こうしてモータウンサウンドは1963〜66年にかけて全盛期を謳歌するが、その夢の象徴として最も高い人気を確立したのが、ダイアナ・ロス、メリー・ウィルソン、フローレンス・バラードによる3人組シュープリームスだった。

当初はソウルフルな声を持つメリーがリードを取るグループだったが、ゴーディは白人市場や一般受けを狙ってダイアナをリードに変更。ゴーディとダイアナは恋仲になり、成功の裏側でバックコーラスに降格させられたメリーは葛藤した……。

『ドリームガールズ』(Dreamgirls/2007年)は、そんなモータウンとシュープリームスの実話をモデルに(あるいは意識)したかのような内容で話題になったミュージカル映画。

もともとは1981年12月〜1985年8月まで、計1521回も公演されたブロードウェイのロングラン・ミュージカルで、日本で上演されたこともある。

監督のビル・コンドンは「歌っている間もストーリーが進行していく」ことに拘った。

キャスティングも秀逸で、デトロイトにレコード会社を立ち上げる凄腕役にジェイミー・フォックス。サクセスストーリーを掴む女の子3人組のグループ“ドリームズ”のリード役にはビヨンセ。そして真摯に音楽を追求をしながらも麻薬に溺れるベテランシンガー役にエディ・マーフィが起用。

ビヨンセは、子供の頃から母親にこのミュージカルの素晴らしさを聞かされて育ったという。父はモータウンのレコードやテープをたくさん持っていた。

一番注目すべきは、バックコーラスに降格させられて孤独と挫折の人生を歩む役の新人ジェニファー・ハドソン。彼女の歌声や役どころがあまりにも素晴らしく感動的なので、正直言って主役にさえ思う。

ジェニファーの演技は高く評価され、アカデミー助演女優賞を獲得。さらにエディ・マーフィの存在感はこの映画に深みを与えた(余談だが、ジェイミー・フォックスは高額なギャラを要求して配役から漏れそうになっていたが、エディの出演確定を知ると、ギャラを削ってでもやりたいと申し出たそう)。

日本公開時の映画チラシ

1962年のデトロイト。車のディーラーをしているカーティス・テイラー・ジュニア(ジェイミー・フォックス)は、顧客であるローカルなスター歌手、アーリー(エディ・マーフィ)がバックコーラスを探していることを知り、タレントコンテスト会場に出向く。

一方、ドリーメッツの3人、エフィー(ジェニファー・ハドソン)とディーナ(ビヨンセ・ノウルズ)とローレル(アニカ・ノニ・ローズ)は、明日の成功を夢見て今夜もステージに。

エフィーの兄C.C.(キース・ロビンソン)がいつも素晴らしい曲を書いてくれるが、なかなかチャンスが巡って来ないのが現実。カーティスは自らの野望を叶えるための原石と出逢ったのだ。

“サウンド・オブ・トゥモロー”を掲げて、レインボー・レコードを立ち上げたカーティスは、アーリー&ドリーメッツをスターにするためにあらゆる手段を駆使して業界に売り込む。

その甲斐あって遂にヒットチャートの上位にランクインさせるが、より大きな成功を手にするためには白人マーケットの取り込みが必要と感じ、歌声のエフィーよりもルックスがいいディーナをリードに変更することを思いつく。3人組は“ドリームズ”として生まれ変わりデビューする。

エゴの強いエフィーは、音楽も恋も夢もすべてがディーナに奪われたと思い始め、自暴自棄になってカーティスから解雇される。兄のC.C.も味方にはなってくれず独りで絶望するが、お腹にはカーティスとの子がいた……。

それから8年後。ロサンゼルスで信じられないような豪華な生活を手に入れ、企業経営者とスーパースターのカップルになっているカーティスとディーナ夫妻。

混沌とする時代を反映した良質な音楽を作ろうとするアーリーに、ただ売れる音楽を要求するカーティス。次第に麻薬に溺れたアーリーを待っていたのは死だった。

それをきっかけにディーナの中で何かが崩れていく。一方、歌への情熱を捨て切れないエフィーは、再起をかけて小さなクラブで歌い始める。物語はディーナとエフィーの再会でクライマックスへと入っていく。

この映画の真の主役はビヨンセではなく、ジェニファー・ハドソンだった。

文/中野充浩

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