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NHK交響楽団第2029回定期公演Cプログラムを聴いて

前の職場の後輩クンから突然のお誘いを受けて1月のN響定期公演を聴いた。会場はNHKホール。
何でも一緒に行く予定だったお友だちが急に行けなくなってしまったとのことで、よくよく話を聞くと代役の代役の代役くらいのお誘い。
この日は3月に退団される特別コンサートマスターの篠崎史紀氏(愛称である”まろ”氏の方が通りがいいかもしれない)最後の定期公演ということで、会場に空席を作りたくないのだとか。ぼくにはない熱量での"推しごと"ぶりである。素直に感心するし、そのエネルギーは羨ましくもある...。

指揮は、トゥガン・ソヒエフ。曲目は、ストラヴィンスキーの組曲「プルチネッラ」とブラームスの交響曲第1番である。

イーゴリ・ストラヴィンスキー:組曲≪プルチネッラ≫

「プルチネッラ」は大学時代に1曲目の「Sinfonia」を演奏会で取り上げたことがある。ぼくは降り番だったと思うのだけれど、小曲を何曲か続けて演奏するプログラムで、別の曲も含め交代で演奏したのでステージ上で聴いた記憶だ。
それ以来、この曲(特に「Sinfonia」)はお気に入りの一曲になった。ストラヴィンスキー新古典主義の時代に作曲された軽やかで明るい音楽だ。
もともとはディアギレフの委嘱でバレエ音楽として作曲されたが、今日はそこから8曲を選んで編まれた組曲版の演奏だ。全曲版には声楽も含まれるが、組曲の方は器楽のみである。

ソロ・ヴァイオリンが活躍するパートも多く、篠崎さんの軽やかな演奏とそれを支える弦楽セクションのアンサンブルが印象的だった。
終曲の最後は華やかかつ迫力満点のトランペットが楽しく曲を締めくくった。
組曲版も全曲版もディスクを所有しているが、「Sinfonia」以外を実演で耳にしたのは初めてだった…と思う。後輩クンの方は曲自体を初めて耳にしたということで、ストラヴィンスキーの違う一面を知ることができたので楽しく興味深かったという感想。ぜひ全曲版にも触れてほしいところだ。

ヨハネス・ブラームス:交響曲第1番ハ短調作品68

20分の休憩を挟んでのメインプログラムは、ド定番のブラ1である。
篠崎さん最後の定演ということで選ばれたのかなあ。聴きどころはもちろん2楽章のヴァイオリン・ソロ。

テンポはやや速めだったか。
曲について今更言うべきこともないが、2楽章は本当に素晴らしいの一言。音響的にはサントリー・ホールで聴きたかったという気もするのだが、まあ"本拠地で"という意味での思い入れもあるのかもしれない。
2楽章が終わった時に拍手したくなったよ。思わず。

2楽章が終わった時点で既に満足感が高いのだが、穏やかに3楽章が始まる。
それにしても、右奥のトロンボーン・セクションのお三方が手持無沙汰そうである。3楽章まで出番なしというのもなかなか過酷だ。
そして満を持しての終楽章は推進力満点。トロンボーン・セクションもここぞと力奏で応える。
それから特筆してしまうのだが、吉村さんのオーボエが全曲を通じて安定の美しさで文句なし。思い入れのある楽器ということもあるのだが、オーボエが美しい演奏は本当に満足度が高まる。

さて、このブラームスの交響曲第1番、実演でも録音でも数限りなく耳にしてきた曲だが、今日はまた新たな体験が加わった。曲のポテンシャルと演奏者のポテンシャルの相乗効果とでもいうのか、ほんとう生演奏の価値はこういうところにあるよなあ…。
加えて聴衆のポテンシャルも高かったわけだし。

曲が閉じられると、万雷の拍手とブラーヴォの声。繰り返されるカーテンコール。マエストロ・ソヒエフも篠崎さんを前に立ててカーテンコールに応えている。
何度目かのカーテンコールで、マエストロ自らが花束を抱えて現れると、それを篠崎さんに渡すという素敵な演出。お互いに讃えあう小芝居?が会場を和ませる。
聴衆も和みつつのスタンディング・オベーションでお二人を見送った。

最後までカーテンコールに応える、マエストロ・ソヒエフと篠崎史紀氏。
聴衆総立ちのスタンディング・オベーション。

うん。いい演奏会だった。幸せだった。後輩クンありがとう。
そして、終演後はその後に予定があるという後輩クンとホール前で別れて、ブラームスの余韻に浸りながら渋谷駅への道を歩いた。

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