公務員の仕事研究座談会開催までのイマドキ学生と大学事情
1 背景
「公務員の仕事研究座談会」は、仕事の枠をはみ出してもやりたい、いやどうしてもやらなければと思って、続けてきた。元公務員である大学職員として、これだけは譲れない。その実現プロセスに、イマドキ学生の気質とイマドキ大学事情がからんでいるので、ここに整理することとする。
2 公務員志望学生の全体像
公務員人気は、景気がいい時に下がり、景気が悪い時に上がると言われている。しかし、コロナ禍を経て、公務員人気は下がっていないようである。一方、公務員の早期退職者は増加傾向にあるそうである。また、公務員になるには、試験対策が必要なため、進路の見極めを早くする必要がある。しかし、ガイダンス等では現場で働く職員の情報が少なく、一般的なイメージ以外の情報が入りにくい。そうなるとミスマッチが発生しやすい。
さらに、自治体は、ここ十数年、業務が増え、職員数が減って(効率化はすすんだ)、仕事は難しくなった。この実態を知らなければ、公務員は定型業務ばかりで、楽な仕事だと思われているだろう。このため、親から公務員を勧められる学生もそれなりに多く、この昔のイメージがすり込まれている。
3 とある公務員予備校の説明が引き金に
某公務員予備校が受講者募集時に開いた説明会での配付資料に「公務員の平均年収は民間企業の平均の約1.5倍、こんなに違う!公務員と民間の平均年収」とのタイトルで明示したグラフがあった。これはおかしいと思ったので、グラフの下に明記された出典を調べると、民間企業の平均年収には非正規雇用者が含まれていて対比の誤りがあるグラフであり、この公務員予備校が独自に加工したものであった。苦情は伝えたが、今も公式サイトに掲載されているので改善する気はないのだろう。「正規公務員の平均年収は、非正規を含めた民間企業の平均の約1.5倍(何が言いたいんだ)」と読み解けということだろうと考える。
これが、後述する「公務員『仕事の基礎』ガイダンス」をやりたいと思ったきっかけとなった。
4 公務員『仕事の基礎』ガイダンス
昨年7月、友人の現役公務員に頼んで、私と2人で、昼休み30分限定で、学生からの事前質問と当日質問にひたすら答える「公務員『仕事の基礎』ガイダンス」を開催した。働きがいの話から休暇制度や異動希望など、1問1分のペースで約30問の質問に答えることになった。これが盛況で結果的には、「もっと聞きたい」、「色んな自治体の人の話を聞きたい」となり、参加者アンケートで公務員と学生の座談会の実行委員を募集したところ5人の応募があった。ちなみに、授業中に「質問がある人は手を挙げて」と言っても質問はゼロ。一方、オンライン授業ではチャットでバンバン質問が届くのはイマドキ学生の特徴でもある。
5 第1回公務員の仕事研究座談会の開催
昨年11月、学生実行委員とともに、地元の自治体の自主勉強会の協力をもらい、学外のコミュニティスペースで小規模で簡単な方法で開催。この1回の実現が大きかった。実現前は、色々あったが…詳細自粛。1回の実績は、ノウハウの蓄積や自信はもちろん、多方面から追い風をもらえたことで、2回目の開催が決まった。
6 第2回公務員の仕事研究座談会の開催
今年3月、学生実行委員が一部入れ替わり、大学内で休日に開催した。近隣の大学にも学生が広報したおかげで、規模は2倍以上になった。ただし、事前質問や当日の相談では、「働きがい」よりも「働きやすさ」に関する質問が多く、アンケート結果でもそちらへの要望が多かった。自分の意図とは違う方向に進みだした気がしていた。
7 第3回公務員の仕事研究座談会の開催
今年9月、学生実行委員が一部入れ替わり、大学内で休日に開催した。規模は第2回と同様。今回は「8月末の台風時の担当業務」や「生成AIの活用場面」など、一歩踏み込んだ「仕事のやりがい」につながる材料を公務員への事前質問の回答として提示した。もちろん、学生のニーズを汲めば「働きやすさ」や「試験の合格対策」の話題の方が人気だろう。しかし、大学の教育力を活かして、「仕事のやりがい」につながる材料から話題を広げてもらって、対話を通じて刺激になればと考えた。
当日の手ごたえは、今一つで、やっぱり、試験対策や休みがとれるか等の質問が多かった。しかし、「最前線で働く職員の苦労がわかったが、そこに働きがいが見えたので、志望度は高まった」などの感想もあり、ほっとしたところである。