【Jフロントリテイリング】大丸、パルコ、松坂屋、堅実に今を生きる老舗百貨店。
「会社を学ぶ」の第2回は、「Jフロントリテイリング」(以下Jフロント)という会社を学びます。第1回のファーストリテイリングに引き続き、生活になじみの深い「小売業」の会社から選んでみました。
1.Jフロントリテイリングって何をしている会社?
大丸、松坂屋、パルコを運営している会社
Jフロントは、大丸と松坂屋、そしてパルコ(PARCO)の3つのお店を運営している会社です。大丸と松坂屋は百貨店、パルコはファッションビルと呼ばれるビジネスです。はじめに、百貨店とファッションビルの違いを簡単に説明します。
百貨店:自分の店舗で、目利きした商品を買い、自ら売る(元々は)
百貨店は、衣料品、食料品を中心に化粧品や家具、雑貨など様々な商品を1つの建物で買うことのできるお店です。場所は都心にあることが多く、その便利さが魅力の一つです。また、一般に会社は自分で店舗の建物や土地を所有します。
元々は、百貨店は店に並べる商品のブランドを百貨店が選び、それを百貨店の社員が自ら販売していました。どんな商品が売れるのか、どうやってたくさん売るのか、といったことも百貨店の社員が基本的には考えていました。
ただし現在、特に日本では、百貨店でなく商品のブランド側の社員が販売員を務め、商品も実質的に百貨店が買い取らない消化仕入れと呼ばれる方法を取るケースが多いようです。
ファッションビル:自分の店舗で、テナントを選び、賃料をもらう
ファッションビルは、ショッピングセンターの一種です。衣料品や雑貨などが中心で、百貨店と同じく1つの建物で沢山のお店を見て回ることができます。
百貨店との違いは、ファッションビル(ショッピングセンター)は中で営業するお店(テナント)に場所を貸すだけで、その商品を仕入れたり、自分で販売したりしないという点です。商品は、建物の中で営業するそれぞれのお店の社員が行います。
このように、Jフロントは百貨店の大丸、松坂屋とファッションビルのパルコを運営している会社です。
2.Jフロントリテイリングってどんな会社?
Jフロントがどんな会社かを知る上では、まず大丸、松坂屋そしてパルコの歴史を知るのが、1番面白いと思います。
2.1 どんな歴史があるの?
大丸と松坂屋は江戸時代創業の百貨店
大丸は1717年、松坂屋は1611年にそれぞれ京都と名古屋で創業しました。それぞれ300年、400年も歴史のあるお店なんです!
最初は呉服屋としてスタートし、明治・大正時代に百貨店へと変わりました。
大塩平八郎も「義商」と認めた「大丸」
大丸は京都で創業し、大阪を中心に関西で商売を行います。そのころから続く経営理念は「先義後利」といい、それにまつわるこんなエピソードも残っています。
先義後利とは
中国戦国時代の思想家、荀子の「先義而後利者栄」という言葉から引用されたもの。「義を先にして利を後にするものは栄える」という意味であり、今の言葉に言い換えると、「お客様第一主義」「社会への貢献」といえます。
1837年の有名な「大塩平八郎の乱」では、米買い占めを図る多くの豪商の多くが焼き討ちにあいました。しかし、大塩平八郎が「大丸は義商なり、犯すなかれ」と命じたため、大丸は襲われませんでした。それは、大丸が先義後利の理念で貧しい人に食事や古着などを提供するといった社会貢献を実践していたからだそうです。
尾張藩、呉服御用達の「松坂屋」
松坂屋は、前身の伊藤屋が名古屋で創業し、尾張徳川藩の呉服御用達にまで選ばれており、歴史と格式のある百貨店です。名古屋では400年以上の歴史をもち、東京上野にも250年前に店をだしており今も同じ場所で営業しています。
御用達(ごようたし):江戸時代の商人の格式のひとつ。幕府や大名などに出入りできる特権のことで、商人の信頼性や品質の高さを示すことになる。
(写真:Jフロントリテイリングのホームページより)
ファッションとカルチャーの発信地。渋谷の街づくりに貢献した「パルコ」
百貨店事業の一方で、パルコも輝きを放つお店です。特に、50年以上前の1973年に開業した渋谷PARCOは象徴的な店舗です。ファッション、音楽、アートなどの先見的な情報を発信し、渋谷「公園通り」に多くの若者を引き付けました。
渋谷PARCOは2019年に改装され、また新しいカルチャーを発信し続けています。
(画像::改装後渋谷パルコイメージ。アニュアルレポート2019より)
このように、3つの店すべて、魅力的な歴史とそれに裏付けられたブランドを持っています。
2.2 どのくらい大きいの?
売上の大きさは、日本の百貨店業界で第2位!
Jフロントの売上金額は、2018年度で4,598億円(*1) です。日本の百貨店業界でいえば、1位の三越伊勢丹グループに次ぐ、第2位の規模です。
*1 会計こぼれ話 - 百貨店の売上
実は日本の百貨店の売上は、日本の会計ルールと国際会計ルール(IFRS)で大きく違ってしまうという問題があります。Jフロントの売上も、日本ルールでは1兆1,251億円、国際会計ルールでは4,598億円と倍以上も違うんです。しかも、三越は日本ルール、Jフロントは国際ルール、と使っているルールもバラバラなので比べずらい!(早く統一してほしい...)
というわけで、順位を比較するときは、日本ルールにそろえた順位で説明しています。
しかし、百貨店業界で2位はもちろんすごいですが、小売業全体の中ではどうでしょうか?
百貨店業界は縮小し始めて、もうすぐ30年
実は日本の百貨店業界は1991年にピークを迎え、その後縮小し続けています。近年はピーク時の6割程度の6兆円ほどの規模まで縮小しています。
これは大規模なショッピングセンターやコンビニ、アパレルの専門店、Eコマースで買い物する人が増えたからと見られています。
百貨店業界の売上は日本の小売業の中では5%に過ぎない
調べてみたところ、日本の小売業全体の販売金額は2016年で約145兆円(統計局資料より)、そのうち百貨店で販売される金額は6兆円ほどしかなく、いまや全体の5%もありません。
ですから、Jフロントも百貨店業界では有数の会社ですが、小売業全体に占める割合は大きいとまでは言えず、特定の層に強い会社と理解すれば良いと思います。
Jフロントは関西・名古屋などの都市部の富裕層と、東京の10代20代に強い
大丸・松坂屋は、「名古屋や関西などの都市部で」、「40代以上や富裕層、また外国人観光客に」、「品質と価格の高い衣料品、食品、化粧品などを」提供しているといえます。
また、パルコは「東京中心に」、「10代20代の若い層に」、「リーズナブルな衣料品やファッション、そしてカルチャーを」提供しているといえるのではないでしょうか。
2.3 儲かっているの?
利益率は百貨店業界でNo.1!
Jフロントの2018年の営業利益は408億円です。これって良い?それとも悪い?どちらなのでしょうか?
良し悪しを考えるために、同業の百貨店で売上高に対する利益率を比べてみました。緑がJフロントです。
(グラフ:有価証券報告書をもとに作成)
上のグラフを見ていただければ分かるように、Jフロントの利益率は百貨店大手の中ではNo. 1です。一番上手に儲けているといえます。
ではなぜ、Jフロントは他の会社より利益率を維持できているのでしょうか?私なりに、3つの理由にまとめてみました。
本業の百貨店で効率的な運営ができている
Jフロントは、不動産事業などを除いた本業の百貨店事業の利益率そのものが他より高いという特徴があります。これは、徹底的な効率化により従来を大幅に下回る人員で店舗運営を実現しているなど、継続した効率経営の活動の成果といわれています。
利益率の高い不動産事業の割合が大きめ
一般的に、百貨店事業と不動産事業(ショッピングセンターを含む)では不動産事業の方が利益率は高くなりやすいんです。Jフロントでいえばパルコも不動産事業であり、全体で見れば不動産事業の割合は高めです。これも利益率が高くなる要因になっています。
うまくいかない事業をやめるのが早い
Jフロントは以前取り組んでいた事業のうち、以下のような活動を既にやめています。
・海外への展開(1店舗のぞき閉店)
・Eコマースの本格的な拡大(HPのオンラインショッピングのみ)
・スーパーマーケット事業(ピーコックをイオンに売却)
・通信販売事業(通販の千趣会を売却)
成長のために必要という考えもありますが、一方でこれらの取り組みで成功するのは簡単ではありません。うまくいかないなら、損が続く前にやめて、他のことに力を入れるというのも、一つの立派な経営判断です。
その結果、足を引っ張る事業が少ないということも、高い利益率につながっているのではないでしょうか。
3.Jフロントリテイリングのまとめとこれから
厳しい業界でも堅実に生き残りそうな会社
これまで見てきたように、Jフロントは日本では歴史に裏付けられたブランドを持つ百貨店とファッションビルの会社です。
どんどん縮小していく業界にあっても、特定の層には強いブランド力をもっており、堅実な努力と変化で売上と利益を維持し、今後も生き残る可能性の高い会社のように思います。
一方で、海外展開やECの強化など、大きく成長するための活動はあまりしていないように見えます。ですから、今後大きく成長していくというイメージではないかもしれませんね。