ウルトラマン新たなる伝説2009
よしなしごと【気まぐれ選26】
地球からはるか遠く、M78星雲「ウルトラの星」では家族会議が開かれていた。
口火を切ったのは父である。
「タロウが困っているらしいんだ・・」
地球に残っているウルトラ兄弟のタロウ。その連絡によれば、日本が意味不明のミサイル怪獣の攻撃の危機にさらされていると言う。
「応援に行ってやれ!」
父の一言で、ウルトラマンは地球に向かうことになった。
300万光年の時空を飛び越え、ウルトラマンは再び帰って来た。40年ぶりの地球、そして東京。ウルトラマンは、ハヤタとなって大江戸線に乗り、古巣の科学特捜隊日本支部に到着する。
『ミサイル怪獣対策本部』には、弟のタロウが総本部長として緊張で顔をゆがめながら待っていた。
「兄さん、よく来てくれたね」
「タロウ、もう大丈夫だ。俺に任せろ」
2009年4月4日。ウルトラマンは極秘で現場空域の偵察に飛んだ。
ミサイル怪獣の秘密基地は、すでに科特隊の偵察衛星がその場所を探り当てている。上空から見ると、すでに発射準備は整っているようだ。ウルトラマンは予測されるミサイル怪獣の飛行コースを飛んでみた。
「このコースだと、日本には飛んでこないかも知れないな・・」
そう思ってふと気を抜いた瞬間、ウルトラマンは対策本部の怪獣探査レーダー(通称ガメラレーダー)探知に引っ掛かった。
「ガメラレーダーに謎の飛翔体反応!」
対策本部に緊張が走る。ウルトラマンの偵察は極秘事項なので、一般の隊員には知らされていない。
非常ブザーが鳴り響く。ミサイル怪獣か? 対策本部長のタロウの顔色が、サアッと蒼ざめた。重い足取りで緊急会議に向かう。会議室に入る一歩手前で、ウルトラマンからの緊急連絡がつながった。
「タロウ、今の『飛翔体』は俺だ。悪い、ドジった・・」
4月5日。
ウルトラマンは早朝から日本海上空の大気圏外で待機していた。昨日のような誤探知ドジは二度と踏めない。
午前11時30分、ウルトラマンの透視光線が『飛翔体』発射をキャッチした。オレンジ色の閃光が見える。ミサイル怪獣の3段式ロケットだ。ウルトラマンは光の方向を目指し急降下する。
先端部に怪獣を仕込んだミサイルが、地上から轟音とともに上がってくる。ウルトラマンはミサイルと平行に飛びながら監視する。おかしい。昨日予測した高度より低い。
「危ない。このままだと日本に落ちる」
ウルトラマンは咄嗟にミサイルの真下に潜り込んで、両手で支え、持ち上げようとした。しかし10万トンタンカーを持ち上げる腕力をもってしても、巨大なミサイルの高度を上げるのは辛い。ダメだ。
ウルトラマンは一旦ミサイルから離れた。そして、腕を十字に交差させ、右手の手刀を構えロケットの1段目と2段目の切れ目を狙う。
シュワッチ! 必殺のスペシウム光線が炸裂。光線で切り離されたミサイルの1段目は推力を失い、落下していく。下に青い海が見えている。日本海だ。あの海域なら被害はないだろう。
空にはまだ2段目と3段目が残っている。徐々に高度が下がってきた。ミサイル自体の推力はもうほとんど残っていない。このまま自由落下すると、確実に日本に落ちる。
ウルトラマンは再びミサイルの真下にとりつく。両腕で抱え上げ、必死に上昇し高度を上げようと試みる。大気圏外に持って出れば、落下はしない。
ピコン・ピコン・ピコン・・・
何ということだ。胸のカラータイマーが赤色に変わり、点滅を始めた。地球上での活動時間3分間の限界が近づいてきている。あと30秒・・。
眼下に美しく広がる白神山地の森と十和田湖の青い湖面が見える。ここで落ちてどうする。
ピコン・ピコン・ピコン・・・点滅が早くなってきた。あと10秒。
ウルトラマンは最後の力を振り絞る。両腕にぐっと満身の力をこめ、背負い投げのように一気にミサイルを投げ飛ばす。「ウルトラスウィング!」
シュワ~~~~~ッチ!
・
・
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対策本部。
「飛翔体はレーダー探知の範囲外に消えました」
ガメラレーダーのモニター画面をチェックしていたフジ隊員が、さりげなく老眼鏡を外しながら報告する。ミサイル怪獣は日本上空を飛び越え、遠く太平洋に落下していったとみられる。
その頃ウルトラマンは、大気圏外の地球周回軌道を漂っていた。放心したように惰性で飛んでいる。心なしか腕と腰が痛い。さすがに2万歳を超えるとしんどい。
思えばずいぶん久しぶりの仕事だった。ドジも踏んだし息も上がった。だが、なんとなく気持ちは爽やかなのだ。仕事をやり遂げた達成感、使命を終えた充実感に満たされている。
カラータイマーが青色に戻った。もう大丈夫だ。さあ、帰ろう。タロウ、後はしっかりな。
シュワッチ! ウルトラマンは故郷の星を目指して飛んで行く。かつて青春時代、毎週歌っていたあの歌を口ずさみながら。
♪むね~に つけ~てる マークは流星~
じま~んの ジェ~ットで 敵をう~つ~
※この記事はいうまでもなくフィクションです。
【よしなしごと0304・2009年4月13日 (月)掲載】
2024追記(注):
2009年北朝鮮は日本海方向にミサイル発射を繰り返していた。4月5日には「人工衛星」の打ち上げと称する長距離弾道ミサイルを発射した。この飛翔体は日本海を横切り、東北地方の上空を横切って太平洋へ向かった。切り離された第1段ロケットは秋田県西方の日本海に落下、2段目は太平洋上で消えた。
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