JR九州・小倉行き普通電車
よしなしごと【気まぐれ選49】
折尾発16:25小倉行き普通電車に乗る。九州の出張取材が終わり小倉から新幹線で大阪に帰るのだ。私は通路側の席に座っている。通路を挟んだ席には、大学生風の若い男の二人連れがいて、そのうちの一人がよくしゃべる。しかも声が大きい。
「・・だからさあ、俺の妹がさあ、暴走族なんだ、暴走族。俺は違うんだけどね、妹が暴走族なの、暴走族だよ・・・」
同じ言葉を繰り返すクセがあるようだ。しゃべり方は、そう、アンガールズの顔が四角い方(注:田中)のイメージ。うるさいなあと思いながらも声が聞こえてくる。連れの方は、一言もしゃべらない。話題も(面白いのだが)ややデリケートであるし、黙って相槌を打っているというか、ほぼ迷惑そうな感じでもある。
「・・でさあ、ドラマで(話はすでに変わっている)、やっぱ今俺が見てるのは『△※〇×』だね(聞き取れず)。朝会社来てA(ドラマの役名または俳優名か、聞き取れないので仮にAとする)が上司のB(これも仮)に言うわけ。『私、それできません』、って急に言うの、『わたしぃ、それできません』。ね、そしたらBが『そんなわけはない!』って言うんだけど、AはBのことが好きなんだよね、そしたらAが・・・」
延々と、ドラマの説明というか一人芝居が続く。
次の駅で乗客が増えた。私と一人芝居上演中のアンガールズ君の間の通路には、今どき風女子高生3人組が立った。ひとりは、しきりとケータイの画面を気にしている。ひとりは手鏡を取り出し、眉を気にしている。もうひとりは制服のスカートをたくし上げ、腰のところでくるくると巻き込んでミニスカート化に余念がない(ちなみにその作業は、座っている私の顔から約20cmほどの距離で行われている)。もちろんその間もアンガールズ君の話は切れ目なく続いている。
「・・俺的にはさあ、今はまってるドラマは『▼◎※※』か『×△●▼』か、そうだ『●◎×※』も外せないよねえ」
女子高生の一人が最後の『●◎×※』に反応して、アンガールズ君の方をちらっとふりむいた。向き直って、隣の子に口の形だけで「キモ」と言った。隣の子は「バカじゃん」とはっきり口にした。が、アンガールズ君には聞こえていない。
「・・・ていうか(また話は変わっている、多分好きなタレントの話をしているのだろう)、・・・及川光博でしょ、やっぱ。ミッチー!」
「ミッチー!」が聞こえた瞬間、女子高生3人組はギャハハと体をよじりながら笑いこけた(私もつられて小さく笑った)。大爆笑の原因は、別に及川光博氏にあるわけではなく、アンガールズ君と「ミッチー!」との落差が激しいところにあった。もちろんこの爆笑が自分のせいだとはアンガールズ君、気づいていない。
16:53終点小倉着。私もアンガールズ君たちも女子高生3人組も降りる。アンガールズ君の声はプラットフォームでもまだ聞こえている。
「・・ていうか俺的にはさあ・・・」
【よしなしごと0238・2007年7月21日 (土)掲載】