塀の向こう
気になる・・0139【選-50】2005年6月 4日 (土)
「生まれる場所は選べないけど・・」 と、彼は言う。高いブロック塀と建物の、ほんのわずかな隙間に種が落ちて根付いてしまったのだ。
暗く絶望的な日々。しかし彼には一縷の望みがあった。灰色の塀の一角に、ポカンと空いた四角い窓。そこからはいつも風が吹いてきた。楽しげな声も聞こえてくる。
「幼稚園のバスだ」 ときどきガスメーターが外の様子を教えてくれた。
月日が流れ、彼は成長した。いつしか窓の高さまで背丈が伸びた。彼は身体をぐいとねじ曲げる。頭が塀の向こうにひょいと出た。初めて見る外の景色。
「バスは?」 と彼。
「もう来る頃だよ」 とガスメーター。
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