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観光地とベッドタウンと地域創生 " 旅先で『日常』を走る ~spin-off⑱~ "
◆ 9/3 豊岡 / 宮津
2023年9月3日 16:30。ここは兵庫県豊岡市。
京都丹後鉄道豊岡駅のホームで、私は列車を待っている。今日の宿である京都府の宮津に向かおうとしているのだ。
ところで、兵庫から京都への移動といっても、多くの人がパッと思いつく移動手段であろう東海道線を使うわけではない。ここ豊岡も目的地である宮津も日本海側に位置しており、それぞれの県庁所在地から高速道路を使っても車で3時間前後かかるくらい離れたところに存在している。これから乗車する区間は第三セクターが所有しているのだが、経営難により2015年から運行事業が高速バス大手であるWILLERの子会社に移譲されている。
などと当地の交通事情に思いを馳せている間に、列車がホームに入線してきた。
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二両編成の列車に乗り込む。主に観光客とおぼしき客層で、車両の3割ほどが埋まった。ボックス席で構成された車内の構成から見ても、地元客よりも観光客向けの路線なのだろうなと感じた。
ほどなく列車は動き出し、これから70分ほどを社内で過ごす。豊岡で過ごした二泊三日の慌ただしい旅程を振り返りながら、頭の中を整理していこう。
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わざわざ豊岡に訪れたのには、もちろん理由がある。
「地域活性学会 第15回発表大会」に参加するため。詳しい事情は省くが、大学を出てから飲食業ひとすじで過ごしてきた私が、齢50にして人生初めての学会発表をここで行うことになったのだ。
大会の会場となったのは、芸術文化観光専門職大学。
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日本を代表する演劇人である平田オリザ氏が中心となって2021年に設立された、演劇やアート・観光を学ぶ大学である。
大会初日の昨日には、学長も務められているオリザ氏の基調講演も行われた。
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過疎が進む人口74,000人ほどの地方都市に大学を作る意義や、ヨーロッパで開催されている町ぐるみの演劇祭を人口規模が同等の豊岡で行うことによる地域経済の活性化など、演劇人や学長よりもビジネスマンとしての観点でのお話が非常に興味深かった。
学会の発表大会自体も面白かったのだが、その前日に開催された豊岡市内のフィールドリサーチも興味深い体験だった。
豊岡は98年前に起こった震災によって壊滅状態となり、復興にあたり鉄筋コンクリート造の建築を採用したため、今でも当時の建築物が多残っていることを、まず知らされた。市役所の向かいに建っている旧兵庫縣農工銀行豊岡支店は、今では「オーベルジュ豊岡1925」として使われている。
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市役所前に伸びる商店街を、豊岡駅とは逆方向に進む。平日の昼下がりだが人通りはほとんどなく、シャッターが閉じている店舗の方が多い。
交差点を右に曲がると、「豊岡カバンストリート」が道の両側に展開されている。
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豊岡の主力産業である鞄製造と商店街の振興を兼ねた取り組みで、地域の若い商店主たちと但馬信用金庫が中心となって再開発を進めているとのこと。
カバンの自販機が設置されていたり、
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地元産品を取りそろえたの鞄のセレクトショップなどが並ぶ。
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この商店街では店舗の上層階を使って、全国各地から鞄職人志望者を集めて格安で育成しており、そこで作られた物も店頭に並んでいる。
ミシンなどが備え付けられた、会員制のシェアワークスペースもある。
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また、鞄を専門にクリーニングや修理を行う店舗もあり、全国各地から依頼が絶えないという。
その後、OEMで大手メーカーの鞄製造を中心に行っている企業にもお邪魔し、産業の成り立ちなどを伺った。
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カバンストリートを後にし、次は西日本有数の人気温泉地がある城崎にバスで向かった。
車窓から城崎温泉の中心地を眺める。
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この川沿いを浴衣姿でそぞろ歩きし、7か所ある外湯を巡ることが城崎温泉での過ごし方の醍醐味だそうだ。海外の、しかも欧米系の観光客の姿が目立っている。もちろん多くの観光客は浴衣姿だ。
改装中で休館になっている旅館の大広間に通され、四代目社長から城崎温泉の歴史と98年前に起きた震災からの復興についてお話を伺った。温泉街全体が焼け野原になったとことを逆手に取り、一から温泉街作りをやり直したとのこと。
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「そぞろ歩き」を売り物にするために各旅館の大浴場の広さを制限して外湯への誘導を促したり、中心地の河川を改修するなど、温泉街一体となった街づくりの甲斐あって、宿泊客数は好調に推移している。
バスで豊岡市街地に戻る途中、隣席に座っていた教授が「あれ」と車窓に映る田んぼの先を指さした。「コウノトリですよ」。
1971年に国内では絶滅してしまったコウノトリ。その餌となる水辺の生きものを育む湿地環境が広がっている豊岡で人工飼育したコウノトリを放鳥し、現在は300羽以上がこの一帯で暮らしているという。
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コウノトリの生育環境を整備するために、大規模な湿地や農家の協力で設置した水田ビオトープなどさまざまな湿地を整備し、収穫したコメを「コウノトリ育むお米」のブランドで販売している。
豊岡という地に存在するさまざまな質の地域資源を、それぞれのプレーヤーが掘り起こして活性化を試みている。その上に大学や演劇など新たな要素を付加し、街全体を振興させていこうという取り組みは志が高く、また産学官金がうまくかみ合って取り組めている様子を見て取ることができた。
フィールドリサーチが解散した後、私は駅近くのホテルにチェックインし荷物を置くと再度駅前商店街に一人で繰り出した。目的地は「だいかい文庫」。
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ここは家庭医療専攻医であるオーナーが開店した、民間の「シェア型図書館」だ。店舗が一箱本棚オーナーを募り、箱を借りた人たちがそれぞれ自分のおすすめする本を棚に置き、交互に店番をする仕組みとなっている。
私のランニング仲間であるM上さんがこちらで何度か店番をされていた縁で以前からその存在を知っており、せっかくの機会だから足を運んでみた。
店内に一歩入ると、常連客とおぼしき男性が店番の女性に楽しそうに話しかけていた。店番の方も作業の手を止めて相槌を打っている。私は壁際にずらりと並んだ書架を奥に向かって順に眺めながら進んでいく。
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常連客の話が止まると店番の方から私に声がかかり、この店のシステムや成り立ちについて一通り説明があった。レジカウンターの奥にはコーヒーマシンがあり、カフェとしても利用できるとのこと。遠方から来ているので本を借りるのはあきらめて、販売している本を二冊購入した。そのうち一冊は、この店のオーナーも執筆に参加している『社会的処方』を選んだ。
だいかい文庫を後にした頃にはすっかり日が落ちていた。ランチもろくに摂っていなかったので、この近くで食事ができる店を探して辺りをふらついてみる。ホテルの近くに「ふれあい公設市場」なる一角が目についた。
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調べてみると、98年前の震災復興の流れで設置された市場の名残のようだ。何軒かの飲食店に明かりが灯いている。まだオープンしてからさほど経っていないような、小ぎれいな店構えの蕎麦屋に入ってみることにした。
カウンター内で作業しているのは男女一人づつ。男性が注文を取りに来たので、十割蕎麦と天ぷら盛り合わせを頼む。すると、女性の方が調理をはじめた。どうやら女性の方が店主ということらしい。蕎麦打ちを女性が担当するのは珍しいなと思っていると、注文から5分もかからずに料理が提供された。
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豊岡では「出石そば」が有名で、出石焼という地元産の白皿に小盛りにされた蕎麦が何枚も並ぶスタイルを取っている。しかし、私が注文したものはその「皿そば」ではなく、大きめの椀にすのこを敷いたその上に蕎麦が盛り付けられている。そして、肝心のお味は文句の付けどころがない。蕎麦の風味豊かで歯ごたえもちょうど良く、さらに天ぷらの揚げ具合が絶妙だった。次回来訪時にもリピート確実だ。
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豊岡での行程を脳内で振り返り食レポまで展開しているうちに、列車は宮津駅に到着した。駅前には、これから宿泊するペンションのマスターが送迎車を出してくれている。挨拶をしてから車に乗り込むが、マスターは寡黙であまり話が弾まない。
5分ほどでペンションに到着し、部屋に通された。どうやら今日の宿泊者は私だけのようだ。ベッドを二つ並べただけでほぼ一杯になってしまうサイズの部屋に荷物を下ろし、窓を開けてみる。
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オーシャンビューどころではない。海はすぐ目の前にあった。
夕焼けが水面に乱反射して、黄金色に輝いている。日本海側の京都とのファーストコンタクトとしては、最高のシチュエーションであろう。
明日の出発は早いので、早々に床に就くことにする。
*
◆ 9/4 天橋立 / 伊根
朝食を予約していた時間に合わせて起床し、1階の食堂に降りた。魚がふんだんに使用された家庭的な料理を堪能し、その後駅まで車で送ってもらう手はずとなった。
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社内では昨日とは打って変わってマスターが饒舌で、「朝食の魚はすべて自分が釣ったものだ」とか「弟がテント会社を経営しているので、手伝いで東京ドームとかシルクドソレイユの会場とか、あちこちに駆り出された」という話で盛り上がった。気を許されるきっかけがどこにあったのかまったく身に覚えがないのだが。
宮津駅前で降ろしていただいた。では、さっそく駅構内のコインロッカーに荷物を詰め込んで、今日の目的地に向かうことにする。カバンから出した2本のノルディックポールをセットし、いざスタート!
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駅前ロータリーから右の道に入り、しばらく進む。目の前に魚市場が現れた。
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「京都産の魚」などあまり馴染みはないが、これも京都が持つひとつの側面なのだ。さっき食べた魚も美味かったし。
市場前を左に折れ、しばらく道なりに進んでいく。民家の塀に大きな横長のポスターが貼られている。宮津アマチュア歌謡祭が、なんと今年で28回目を迎えるそうだ。
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その先で少し海沿いの道に合流したがすぐに道は途絶え、内陸部の道を進んでいく。左手に昨日乗ってきた列車の線路が現れ、1㎞ほど並走する。
右手は民家や店舗が並んでいたがしばらくすると途絶えて、公園になった。その先には、海が見える。
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ひとつ目の目的地は、天橋立。「海の京都」とキャッチフレーズが冠されている。
標識の案内に沿って右に入ると、整備されて観光地然とした一角に入った。
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平日の朝9時すぎなので観光客の姿はまばらで、お店もまだ閉まっている。どのお店も、店頭にレンタサイクルが多数並べられている。天橋立を自転車で往復する楽しみ方が主流なのだろうか。しかし私は、この先もノルディックウォークで3㎞超の道のりを進むのだ。
まずは、この橋を渡る。
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宮城県松島・広島県宮島と並ぶ「日本三景」としてお馴染みの天橋立に、いよいよ足を踏み入れる。
人影はまばら。立て看板によると、この時期は夜間の砂浜ライトアップがあるらしい。混み合うのは夕方以降だろうか?
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サークルかゼミか分からないが、大学生たちとおぼしき集団の姿があり、2~3人ずつ写真を撮り合っている。それを尻目に、私は対岸に向かって歩みを進めていく。
道の両側に松林が林立している。この道をひたすら進めばゴールだ。
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人通りは寂しく、散歩や自転車の人とたまにすれ違う程度。地元民が多いように見受けられる。ランナーは観測できない。
途中、「空き店舗改修事業実施中」の垂れ幕が掛かった建物に遭遇した。
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説明を読んだところ、地域の高校と住民の協働事業であるようだ。
さらに歩みを進めていく。左右の木々の間から海が望めるようになった。道祖伸の姿も。
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さらに道なりに進むと、いつの間にか右手には民家が建ち並ぶごく普通の風景に変わっており、左手には遊覧船乗り場が現れた。この辺りをゴールとしよう。
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宮津からノルディックウォークで合計7kmほど歩いてきた。小休止も兼ねて展望台に上ってみることにした。
先ほどのゴールから3分ほど歩いたところに「府中駅」がある。右側にはケーブルカー・左側にはスキー場で乗るタイプのリフトが動いていた。
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ケーブルカーの運行は15分に1本。どちらに乗っても値段は同じ。ケーブルカーが出発したばかりだったので、私は迷わずリフトに乗ることにした。
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6分ほどで展望台がある「傘松駅」に到着した。時刻は10時過ぎ。日差しもだいぶきつくなってきたので、日陰に入りベンチに腰掛け、しばらく休憩した。
最初は閑散としていたが、そのうちにどんどんケーブルカーやリフトで観光客が上がってきて、15分ほどで展望台の周囲は人でごった返すようになった。観光客の8割くらいはインバウンド。それもほとんど中国系のツアー客。残りは日本人だが、大学生風のグループが多い。そういえば、大学はまだ夏休みの最中なのだ。
展望台のスタッフたちが、観光客のスマホやカメラを使って無料で写真を撮影している。よいサービスだ。スタッフのカメラで撮影すると、いわゆる観光地価格の料金になるようだが、それを頼んでいる人はほとんど見かけなかった。
では、せっかくなので天橋立名物「股のぞき」をして、
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リフトで下に戻ろう。
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次の目的地にはバスで向かう。駅からバス停の間には、土産物が並ぶ通りがある。廃業して空き家になっている店舗も目に付く。承継する人がいないのか、コロナ禍を持ちこたえられなかったのか?
少し時間があまったので茶屋のひとつに入り、かき氷を食した。日本海に敬意を表し、ブルーハワイを注文した。
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次の目的地である伊根に向かうため、バス停に移動する。老夫婦が一組先に待っていた。時刻表に記載されている時刻になってもバスは来ない。5分、10分。本当にここで待っていても大丈夫なのかと不安が高まった頃に、ようやくバスは到着した。
「すごく混んでる!」。地元の人1割、観光客9割の乗客でギュウギュウ詰めの車内に、私はなんとか乗り込むことができた。次のバス停でも10人くらいの観光客が待っていたが、定員オーバーで乗ることができなかった。可哀そうに、次のバスは1時間後だ……
40分ほど満員のバスに揺られた挙句、「伊根湾めぐり遊覧船」乗り場の前にあるバス停で8割くらいの乗客が一気に下車した。私の目的地「伊根浦伝統的建造物群保存地区」に近づいてきたようだ。次のバス停で私も下車した。
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おお! 路面もいい感じに舗装され、風情のある街並みではないか。ではさっそく、ここでもノルディックウォークで進んでいこう。
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道幅が狭く車もさほど通らない道を進んでいく。右手に伊根湾、左手に山というロケーションだ。道の左右に民家が建ち並んでいる。
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左側に並ぶのが主屋で、漁師たちの暮らしはこちらが拠点となる。
蔵も山側に建てられることが多い。
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地元民も観光客も、姿はほとんど見られない。あんなに混んでいたバスに乗っていた人たちは遊覧船に乗ったらすぐに引き返してしまうのだろうか?
山側のあちこちには、勾配が急な階段が伸びている。
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右側に視線を移そう。
こちらが保存対象になっている「舟屋」だ。
” 舟屋とは、もともと船を海から引き上げて、風雨や虫から守るために建てられた施設。昔は漁で木造船を使用していたため、それを乾かす必要があったのです。船を収納する一階に対して、二階はかつて網の干し場や漁具置き場として使われていました。”
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湾に向かって大きく口を開いている建物がズラッと並ぶ様は、他に類を見ない独特の光景だ。しかも建物の正面はあくまでも海側であるところが特徴的だ。
今では漁をやめたり、また船の材質は進化していちいち船を乾かさなくても良くなったりで、本来の舟屋としてはあまり使われなくなっているようだ。
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普通の民家にリノベされたり、ゲストハウスなどに転用されている舟屋も目立っている。
舟屋の合間から覗く伊根湾の姿も、なかなかの眺め。
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左右をよそ見しながら進んでいるうちに正面の視界は広がり、伊根浦公園に出た。
舟屋群を正面から眺めることができる。
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観光地であり、国の重要伝統的建造物群保存地区でもあるこの一帯であるが、もちろん地域住民の暮らしは営まれている。
舟屋に舟の姿はほとんど見受けられないが、洗濯物の姿は散見される。
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そういえば以前、世界遺産になっている富山県の五箇山を訪れた時も同様の光景が見られた。他人の目につくところに洗濯物は干さないという風潮があるが、そんなことはまったく気にしない気概が感じられて、こちらも爽快な気分になる。さすがに「景観を維持するために洗濯物を干すな」とは命令できないのだろう。
舟屋群の眺めを堪能したところで、そろそろランチを摂ることにする。近くに「道の駅 舟屋の里伊根」があり、そこに入っているレストランのメニューが充実しているとの情報を入手してあるのだ。さっそく移動しよう。
坂道を上がって山に入る。
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道沿いに中学校が建っている。漁業を営んでいない人たちは山の中腹部で暮らしているのだろうか?
さらに進んでいくと、トンネルが現れた。この先に道の駅がある。
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トンネルを出るとすぐ右に道が伸びており、そこからさらに500mほど坂を上がっていくと、道の駅はあった。車で来た関西圏の大学生たちと見受けられる若者たちでにぎわっている。
では、いよいよレストランで海の恵みにありつこうではないか。
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あっ。
「本日は都合により臨時休業とさせていただきます」
いくらなんでも私が来るからといって、店を閉めるなんてひどい仕打ちをすることはないのではないか!
せっかくここまで上がってきたので、高台から伊根湾を一望して戻ることにする。
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軽快に坂を下り、伊根浦公園に戻る。すぐそこにある観光案内所2階にあるレストランに入ることにした。
お店は満席で2組の先客があったが、5分も待たずに入ることができた。周囲の客は中国系の観光客がほとんどを占める。私は海鮮丼を注文すると、こちらも5分も待たずに料理は提供された。
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隣のテーブルに座っている中国系とおぼしきカップルは、あろうことか「とんかつ定食」を注文していた。処理水の海洋放出に不安を感じているのだろうか? ちなみに、ここは日本海沿岸です。
腹も満たされたところで、もう一往復この辺りをぶらつくことする。
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公園内の船着場から、おひとり様1,000円の海上観光タクシーに乗り込むマダム3人組を見かけた。遊覧船よりもこっちの方が楽しいかも。
先ほど来た道を戻っていく。今は使われていないだろう舟が収まっている舟屋を発見した。
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ところどころに「テナント募集」の張り紙がある。賃料はいかほどか? 何人かで共同所有するのも面白いかもしれない。
道すがら、酒造を発見。
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売店に入り日本酒を物色するが、結局購入したものは酒粕アイスだった。
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甘すぎず、食後のデザートに最適だ。
昼過ぎになって、ようやくこの通りにも観光客の姿が散見されるようになった。しかし、そぞろ歩きを本格的にしている姿はほとんど見られない。
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結局遊覧船乗り場まで戻ってきたが、駐車場は観光バスでいっぱいだった。フロントガラス上部に書いてあるツアー名からして、海外のパックツアーのようだ。天候が悪くなってきて小雨がパラついてきたので、そろそろバスに乗って帰ろう。
そういえば、天橋立から伊根までのバス料金はたったの200円だった。地域の足としては良いと思うが、乗り切れないほど多く押し寄せている観光客からは5倍くらい徴収するべきではないのだろうか? そしてその収益でバスを増便したり、設備などの整備に充てることが持続可能な観光ビジネスにつながるのではないだろうか?
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伊根から宮津駅まで一気にバスで戻った。乗車75分で料金は400円也。やはり、レートがおかしい 笑。
駅のコインロッカーから荷物を取り出して、駅前から高速バスで大阪梅田まで一足飛びに移動。半年前まで一緒に長野で机を並べた仲間からお誘いを受け、盃を交わしに来たのだ。
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彼は大阪に居を構えており家庭もあるのだが、来月からタイに現地事業の責任者として赴任するのだ。ランニング仲間でもある彼から「タイで一緒にレースに出ようよ」と声を掛けられたが、話を聞く限り過酷さしか感じられなかったので、丁重にお断りしたのであった。
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◆ 9/5 枚方 / 寝屋川
カプセルホテルで一夜を明かし、この旅最終日に突入した。
チェックアウト後その足で向かったのは、関西屈指のコリアンタウンでおなじみの鶴橋だ。駅裏のおひとり様向け焼肉屋でランチセットに舌鼓を打つ。
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赤身(すき焼き風のタレで食べる)・カルビ・ハラミの肉3種に、キムチやサラダ・ミニビビンパ・ミニカルビクッパ付き。
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大満足!
英気を養ったところで、今日の目的地に向かう。
京阪電車 枚方市駅。
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じつは、私は最近「中核市巡り」に凝っていて、今まで訪れたことがない中核市に足を運んでいるのだ。今年のゴールデンウィークに大阪を訪れた際に枚方市と寝屋川市にも足を運んだのだが、高槻で車を借りてドライブで通過するというショートカットというか、軽くインチキをしてしまった。さすがに通り過ぎただけでは、このあたりがどんな土地なのか収穫がなさ過ぎた。
なので、今回は枚方市と寝屋川市を走ることで、この地を体感しようという目論見である。
例のごとく、駅のコインロッカーに荷物を預けて駅前に出ると、看板が目についた。
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どうやらこの辺りは東海道の宿場だったようだ。今はじめて知った。これはちょっと楽しみになってきた。
では、さっそくスタート!
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まずは、駅前を高架沿いに進む。この道がまさに旧東海道とのこと。ならばしばらく旧東海道沿いに進んでいこう。高架からはすぐに離れ、伊根の保存地区と同じように舗装された道を進んでいく。
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ところどころに古めかしい建物やこじゃれた店が点在しているが、人通りは寂しい。土日になれば賑わうのだろうか? しばらくまっすぐに進んでいくと、道が二手に分かれた。右の方になにかありそうな気配を感じ、舵を取った。
今までよりも道の両側に並ぶ建物のサイズが大きくなったような気がする。店構えも古式ゆかしい感じ。
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さらに進んでいくと大きな道路にぶつかり、その先には大きな河川があった。
土手に降りてみる。淀川だ。
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土手の下にサイクリングロードが伸びている。この道を進もう。
川沿いにはバーベキュースペースが点在する以外、一面の草むらが広がるのみ。自転車はおろか、通行人もまばらだ。カセットデッキで演歌を流しながらウォーキングしている爺さんが目についたくらいだ。
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ランナーとしては快適なコースではあるが、面白みがない風景だ。右手には淀川が走るが、川べりでなにか水遊びでも、という感じでもない。
左手、土手の上にはマンションが立ち並んでいる。
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「リバーサードアベニュー」とか、そんな名称なのだろうか?
かなり日差しがきつくバテてきたので、土手にもたれかかってしばし休息を取る。川の近くで暮らすなんてとてもぜいたくなことだと思うが、川辺がここまで整備されていないのも寂しく感じる。私の地元では多摩川土手にグラウンドや遊歩道が整備されていて、いつでも賑わっているし、京都の鴨川のように地域住民や観光客に愛されているところもある。
起き上がって、さらにまっすぐ進んでいく。右手にちょっとした遊具が点在している。子どもを遊ばせるスペースだろうか。
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草ボウボウで、なかなか荒れ果てているが。
おそらく、もう寝屋川市に入っていると思うので、そろそろ土手を上がろう。
淀川を離れ、今度は京阪電車の駅に向かって進んでいく。途中、コンビニでドリンクを買って水分補給をする。
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最初はロードサイドにラブホテルなどが目立ったが、淀川を離れるにつれ道幅が狭くなり、周囲が住宅地に変貌していく。
アップダウンを感じずに走っていたが、いつの間にか高台を進んでいるようだ。左右に下り坂が現れる。
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しまいには車も簡単には入れないような細道になり、入り組んだ路地を下って、京阪電車の踏切に出た。
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この線路沿いの道は、以前車で通り過ぎた場所だ。覚えている。線路沿いを走るだけでは、この一帯の地形や雰囲気に気づくことはできなかったな。
などと考えながら線路沿いを進んでいき、香里園駅に到着した。
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ここをゴールにして、電車で枚方市駅に戻ろう。
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炎天下で走ったので、ランニングウェアがビショビショになってしまった。電車に乗ったのはよいが、これではシートに座れない。ドアにもたれかかりながら、私はこの旅を振り返った。
今走ってきた中核市は人口20万人以上のかなり大きい自治体だ。しかし人口が多いとはいえ、実態は大阪市のベッドタウンに過ぎず、この土地での暮らしや営み、またそれによって生まれる文化というものが希薄に感じられた。その土地自体には歴史や文化が積み重ねられていても、そこで暮らす人の入れ替わりが激しすぎると、歴史や文化に断絶が起こるのだろう。
昨日歩いた伊根はどうだっただろうか?
保存地区に指定されて暮らしのアップデートに制限を受けている不自由さは感じた。それでも、移住してきてこの地で一旗上げてやろうといった人たちの姿が見えなかったので、彼らの営み自体は観光地として劇場化しながらも続いていくのだろう。
それならば、豊岡は?
産学官金の連携でさまざまな取り組みが同時進行で進んでいるが、じつは違和感を感じていたことがある。地域のいわゆる「意識が高くない」住民の姿がまったく見えなかったのだ。いろんな人たちがいくら頑張っても人口は右肩下がりで、商店街のシャッターは上がらない。
ではこの先、いろんな取り組みが実を結んで移住者がどっと押し寄せたらどうなるだろうか? 職住接近になるからベッドタウン化は免れるだろう。というか、住民を増やすための産業は用意できるのだろうか? 工場とか原発を誘致すること以外で。海運以外に交通が不便なこの地で。
考えれば考えるほどわからなくなってきた。
今日は、京都駅前から深夜の高速バスで東京に帰るのだ。京都の市街地に寄って、観光地のあり方や地域振興について思いを馳せようか。
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そして、バスの時間まで京都に住んでいるM上さん(だいかい文庫を紹介してくれた)に付き合ってもらって、この問題について議論を深めよう。
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