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ピア・サポート学会 レポート①

2024年11月3日(日)・4日(月祝)に,札幌創成高校で行われた日本ピア・サポート学会の内容をレポートします。

記念公演『ブーカ(VUCA)の時代〜ピア・サポートで生き抜く〜中野武房(日本ピア・サポート学会名誉会長)

日本におけるピア・サポートのパイオニアの一人である中野武房名誉会長の公演は,単に”ピア・サポートは大事”とか,”みんなでピア・サポートをやりましょう”といったメッセージではなく,ますます難しくなるこれからの時代を生き抜くために,”ピアの精神に満ちた社会を作りましょう”というとても温かい思いの込められたものでした。

そんな心温まる2時間の公演で得た気づきをダイジェストでお伝えしますので,ぜひみなさん,これからの時代を生き抜くヒントにしてもらえれば幸いです。

どのような力を育てるか

中野先生らがニュージャージー州のアッパースクールを訪問した際(1997年)のエピソードが印象的でした。

現地のピア・サポーターの学生が,「なぜ,あなたはピア・サポーターをしているのか?」という問いに,「勉強ができないからやっている」と答えたというのです。

ピア・サポーター,つまり周りの誰かをサポートする学生と言えば,勉強ができてリーダーシップがあって,いわゆる優等生が務めるものかと思いきや,むしろできないことや足りないことを互いに補いあって乗り越えるために,ピア・サポーターを選択したというのです。

ピア・サポートは,人のために何かをやってあげるという上から目線の偉そうなものでは決してなく,仲間とともに支え合って互いに幸せになることを目指したものであるということが,このエピソードには込められていると感じました。

ピア・サポートの目的
① 生徒間に意義深く,思いやりあふれる関係を確立できる場を提供する
② 傾聴,コミュニケーション,問題解決,対立,マネジメントなど,他人を
支援するのに必要なスキルをトレーニングする
③ 学業の手助け,問題解決,メディエーション(調停),情報サービスなどのような支援を学校全体に提供する
④ 生徒のリーダーシップ,自尊感情,対人スキルなどを向上させる
⑤ みんながお互いに思いやりを見せることのできる学校の環境を作り出す
⑥ 学校のガイダンスやカウンセリングサービスの幅を広げる

『ピア・サポート実践マニュアル』トレバー・コール 川島書店2002

VUCAの時代に求められる「ピア・サポートの力」

複雑で曖昧,予測が難しい現代,そしてその状況がますます加速するであろうこれからの時代を表現する言葉として”VUCA(ブーカ)”があります。

VUCAの時代を生き抜くためには,知識や技能などいわゆる学力といった認知能力もさることながら,自主性や主体性,メタ認知やレジリエンス,コミュニケーション能力や協働性などの非認知能力がいっそう求められます。

ピア・サポートでは,仲間同士でつながり支え合って乗り越え成長する集団の育成を目指し,それを実現するためのスキル(非認知能力)をトレーニングします。

日本ピア・サポート学会HPより

例えば,課題解決スキルをトレーニングするときには,他者との話し合いを通じて互いのアイデアを交流させることにより新たな考えを見つけ課題を解決できることを経験的に学ぶためにブレインストーミングが有効です。

ブレインストーミングで守るべき四つの原則
① 判断・結論を出さない(批判厳禁)
② 粗野な考えを歓迎です(自由奔放)
③ 量を重視する(質より量)
④ アイデアを結合し発展させる(結合改善)

また,ピア・サポートトレーニングで最上位のスキルに設定されている「対立解消スキル」においては,コンフリクトマネジメントの考え方が重要になります。

コンフリクト,つまり競争や対立は避けては通れないものとして存在しますが,これらのコンフリクトを有利な形で解決し,”望ましくないコンフリクトの未来の種をまかない”ことが大切というわけです。

ピア・サポートトレーニングでは,対立解消スキルとしてAl'sの法則を推奨しています。

Al'sの法則
* Agree「合意する」
サポーターが対立している2人の間に入って解決のために話し合いをすることに合意するかを確認します

*Listen「聞き取る」
合意が成立したらお互いの言い分を改めて確認するために相手の言うことを聞き合います

*Solve「解決する」
互いの意見の交換が終わったら解決策を出し合って決めます

このようにしてピア・サポートを通じて仲間と関わり合いながら支え合える集団が育つことで,子ども達は自分の力で乗り越え成長する力を身につけることができるのです。

様々な困難にも当たっても自分で自分をコントロールして目標を実現していく力にGRIT(グリット)があります。

GRITの力
Guts(ガッツ):困難なことに立ち向かう「度胸」
Resilience(レジリエンス):失敗してもあきらめずに続ける「復元力」
Initiative(イニシアチブ):自らが目標を定め取り組む「自発性」
Tenacity(テナシティ):最後までやり遂げる「執念」

みんなの教育技術 「GRIT」とは?【知っておきたい教育用語】

私たちは,子ども達がどんな困難に出会っても,しっかりとそれを乗り越え,自分と周りの人の幸せを実現できる人に育ってほしいと思っています。

そのためには,大人が手取り足取り教えることだけが重要ではないのです。

子ども達同士がつながり支え合って,対立すれば自分たちで話し合って解消し,困難があれば協働して解決していく”場”を提供することこそが,学校の役割だと言えるでしょう。

そうやって,度胸があって,自主的・自発的に動き,あきらめることなく執念深く,そして仲間とともに支え合いながら,VUCAと呼ばれる困難な時代を生き抜く人を育てることが,ピア・サポートにはできるのです!

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