StylishNoobが見てきたもの、見据えていそうなもの
StylishNoob氏のエッセイ本「今日も、感謝します」を読了した。「キモすぎ警察」クリップからのスタヌリスナーである私は、配信でちょくちょく出ていた彼の過去エピソードを初めて深く知ることとなった。
(※いつも楽しい配信を届けてくれる氏には尊敬と感謝の念でいっぱいですが、本記事では記事の冗長さに考慮しStylishNoob氏のことを「スタヌ」と記させていただきます。すみません!)
「スタヌ」を形成する半生とは?
僕が感じるスタヌの魅力は「落ち着いてるのに熱い」配信スタイルだ。雀魂でカンしまくるところも好きだけど。
「陰の者」だからか、はたまた30代・1児の父親としての立場からか、テンションの(急激な)上下こそあるものの、配信中は落ち着いた雰囲気が漂う。世の中、視聴者、そして自分自身すら俯瞰的に見ている。
いっぽうで、本音は飾ることなく視聴者へガツンとぶつける。例えば「ゲームイベント配信でのコメント民度悪化」については、こうしたコメントを残している。
リスナーから「そこまでズバズバ言っていいのか?」と心配されることもあるストレートな言動からは、彼のまっすぐさが伝わってくる。
「今日も、感謝します。」からは、そんな彼の配信スタイルを形成する半生が自身の口から語られている。
ゲーマーの「ネガティブな面」を最前線で受け止めてきた男
人と戦うゲームには「敗北」「挫折」がつきものだ。加えて、ゲームには「たかがゲーム」「ゲームなんか」といった副詞がついてまわってきた。クラスの負け組が打ち込むモノ、という扱いをされていた時期もある。
本書を読むと、スタヌはその「ゲームのネガティブな側面」に早くから接してきたことが分かる。
スタヌ最初の大きな敗北は、中学1年生。僕がクラスメイトと「パワプロ」をワイワイやっている歳に、彼はFPSゲームで、ネットの向こうにいる対戦相手の環境・才能差に悔し涙を浮かべていた。
自分の中で自信を持って取り組んできたことほど、敗北のショックは大きい。喪失感から、自己の存在否定につながることすらあるだろう。
ゲームでの敗北なんて「たかがゲーム」と割り切ってスルーしてしまう人が大半だろうが、その頃からゲームのリソース確保に苦心してきたスタヌ少年にとっては、どれほどの出来事だったかは想像に難くない。
その後、高校~大学、就職を経た後、中途半端な存在という思いを抱いていた自分と向き合い、再びゲームに打ち込む。結果努力は実り、スタヌはFPSゲーム、そしてゲーム配信に居場所を見つける。
しかし、当時は今以上にゲームとお金が遠く離れた時代。大きな不安とともに日々を過ごしていたことと、多くの方への感謝が本書で紹介されている。
ちなみにこの辺りのエピソードでは、スタヌのお母さんとのやり取りがすごく良かった(語彙力ゼロ)。中盤に収録されている対談もめちゃ良かったので是非読んでほしい。
ストリーマー・StylishNoobの「立ち位置」
自分語りで恐縮だが、僕はストリーマーという存在の立ち位置についてよく考える。
実力至上主義、かつ「選手」という確固たる地位を持つプロゲーマーと異なり、ストリーマーは実力・アピールポイントが幅広く、その存在意義は曖昧だ。何なら「配信を見てゲームを買わない」層を生み出しているとも(たまに)言われる。
ストリーマーは、ゲーム文化にどんな影響を与えていく存在なのだろうか。
プロゲーマーとストリーマー、2つの地位からゲームに接しているスタヌは、それについて答えを掴みつつあるのではないか、というのが本書を読んでの感想だ。
プロゲーマーとして各地を転戦した彼は、海外プロゲーマーの強さの要因として「強さを押し付けてくる点」を挙げている。
押し付けを支えるのは自信、自信を支えるのは根拠だ。
練習時間・試合数・知識量……真摯に取り組んできた膨大な時間はプレイへの自信を持たせてくれる。その自信は、リスクある行動に対する迷いを断ち切る。
この強さは「ゲームで頑張って良い」と思える環境によって成り立つ。しかし、日本はまだまだ「ゲームで飯を食う」ことは厳しい道だ。
リスクを軽減させるために働きながらゲームに取り組んでいる方は多い。こうした方が衣食住への不安なくゲームに取り組めるようになれば、上達に割けるリソースは劇的に増えるだろう。気持ちも楽になるし、時間の余裕もできる。
これは本や活動を目にしての個人的な感想だが、ストリーマーとしてのスタヌはゲーマーにとってポジティブな作用をもたらす選択肢を取るようにしている気がする。ゲーマーという存在の定義更新、地位向上につながるような選択肢だ。
「ゲームに情熱を注ぐ大人がいる」「ゲームは仕事に成り得る」と世間が気付く……これは将来のプロゲーマーを支える重要な働きだ。
無意識かもしれないが、スタヌは自分自身が抱いてきた不安、そして上を目指すゲーマーが抱く不安を払しょくするキッカケになりつつある。
プロからストリーマーに転身した今も、彼は間違いなく日本のゲーマーを引っ張る存在と言えるだろう。
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エッセイは「思考の言語化」という超絶面倒な作業に有名人・知識人が真剣に取り組んだ結晶であり、その人の成り立ちを窺い知る最高の材料だ。今回の書籍も、まさに「ストリーマー・Stylishnoob」が出来上がる過程が濃縮還元されていた。
あと奥さんとの初デートエピソードは最高に微笑ましいので是非読んでほしい。デート先のピックに悩む関さんなどなど。
僕は無事この記事を書き終えるとともに「エルデンリング」で最初のボスを倒したので、彼の最新ストリーム、十数時間にわたるエルデンリング配信を追いかけ始めようと思う。配信、感謝します。