【「あえてゆっくりやる」ことこそ知恵がいる】TCS初代校長・市川力さん 7/7 『探究対談』
——リキさんは今は学校の外で活動しているわけだけど、TCSにいた頃は自分がやってることに対する自分自身の評価って、どういう軸で考えてました? 僕は、卒業生の進路や仕事の選び方を見て、「親に言われたから」とかブランドで学校を選んでる子は全くいなくて、それで自分のやりたかったことが実現できてるなと思った。
市川:僕は父が農学部出身で、子どもの頃から身の回りの自然の中を歩いて、野草とかを採集してマップにするようなことを親子でやってきました。そのせいか植物をモデルに子どもたちを見ちゃうんです。木の形にいいも悪いもないでしょ。どんな形もユニークな形だし、背の高さ・低さも関係ない。
ユニークな意見を出し続けている状態、どういう木になるかわからないけど、のびのびしてるっていうのがあればそれでオッケーじゃないかっていう発想がしみついてますね。
——スクールの中で子どもたちの様子を見て「もうこれで大丈夫」って確信があったってこと?
市川:どんな形の木になるかに対しての不安がなかったわけではないけど、植物モデルがベースにあると時間をかけること、待つこと、そのために周囲の環境を整えることがすべてだと自然に思えてくるから、あたふたせずどっしりしていられたんじゃないかな。
久保さんとTCSは「なぜ幼稚園でも中学、高校でもなく、小学校をやるのか」ってことを初期の頃よく語りあったけど、やっぱり土壌とか根っこの部分をしっかり育てておく場が重要だと考えたからだよね。
小学校を小さい規模でやるのは、少ない人数で丹念に土を作っていくことを重視するから。それから、小学生を小学生らしく過ごすゆったりした時間を確保し、焦らない。だからTCSで最初に決まった理念は「じわじわ(自和自和)」だった。
炭さんともそんな話をしたこともよく覚えてる。早期教育で、なるべく早く何かをさせたがり、到達させたがる人が多いけど、あえてゆっくりすることのほうがよっぽど知恵が必要だし、大事ですよね。
——僕もよく説明会とかで植物モデルの話をします。小学校ではとにかく根をしっかり張って、水と栄養を土壌から吸収したら、その後は絶対伸びる。早く伸びるとか関係ないし、どっちに伸びていくか分からないけど、根っこが大事なんだって。急いでも根っこは張れないですよね。
市川:成果として小学生の時に何ができたかとかはどうでもいい。コンクールで優勝した作品を出したからこの子探究的ですねとか、宇宙についてここまで詳しくなったとか、絵でこんな才能を発揮したとか、やってることそのものじゃなくて成果にこだわるのって無意味。
宇宙について興味があるのはとっても素晴らしいこと。でもそれだけでいいじゃないですか。途中で興味がころころ変わったっていいし、打ち込めるものが見当たらない時期があったっていい。そんなたゆたうようなゆったりした時間の中に浸ることがとても重要だと思います。
——ほんとにね。植物モデルですね、僕も。
市川:調教型じゃないんですよ。
——自分から伸びていくんだから、引っ張ったら取れちゃう。咲きたいときに咲きますよね。
市川:そうです。だから逆に早く成果を出そうと子どもが焦っちゃってるのを見ると心配になる。
——原因はだいたい、周りの大人で、だいたい心配されるのはその漢字と計算なんですよ。そんなのいずれできるようになるのに。心配して焦って塾に入れたりするケースは、まだまだありますね。
市川:そうそう、よくぞ言ってくださいました。
——せっかくナチュラルな好奇心が無事に伸びてたのが、「なんでお前こんなことも知らないんだ」とか言われて、嫌になってやめちゃう。
市川:ほんとですよね。探究コントリビューター仲間の知窓学舎の矢萩邦彦さんが中学入試との対処法についてはきちんと説明してくれている。やりたい子が好きでやるのはいいけど、中学で決着つけないといけないという妙な考え方に縛られる必要は全くない。それより子ども時代という大切な「今」をとことん面白がって生きてほしいですよね。
今日は、探究の原点を改めて確認できました。とても意味のある時間でした。
——そうですね、ちょうど10年だったんだね。ありがとうございました。
(文:齊藤香恵子、写真:玉利康延、編集:田村真菜)