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2025年4月、福岡市城南区にオルタナティブスクール「CAN!P school」開校。「自分を拓く学校」とは?

2025年4月のオルタナティブスクール開校に向け、動き出した団体があります。それが、福岡県福岡市を拠点に、探究型の民間学童保育や野外体験をベースにしたイベントを行っているCAN!P(キャンプ)。

「自らの意志で選択し、決定できる人に溢れる社会をつくる」ことをビジョンに掲げるCAN!Pが、今回新たに立ち上げる学校とは?設立のきっかけや実現したい教育の姿について、代表の粕谷直洋さんに話を聞きました。

地方に教育の選択肢を増やしたい

スクール開校の構想が立ち上がる前から、CAN!Pは2022年から福岡市城南区で放課後や長期休みの学び場をつくってきました(2023年の学童の記事はこちら)。

その活動を支えていたのは、代表の粕谷さんのあるひとつの思いでした。「地方に教育の選択肢を増やしたい」。宮城県仙台市出身の粕谷さんは、これまで地方の教育における選択肢の少なさを感じてきたと言います。

そんな思いから、CAN!Pではさまざまな学び場を増やしてきました。民間学童保育の「CAN!P アフタースクール」をはじめ、子どもたちのやりたい!を実現する放課後の探究スクール「CAN!P ラボ」、英語アフタースクール「CAN!P English School」、長期休みに野外体験を届ける「CAN!P アドベンチャー」をこれまで展開しています。

そんな中、新たに2025年4月に向け、スクール開校にチャレンジすることに決めた粕谷さん。背景にはどんな思いがあったのでしょうか。

「地方に教育の選択肢を増やすことは、僕の人生のミッションなんです。今年40歳になって、現役で働けるのが後25年くらいしかないことに気づきました。そう考えると、残りの人生でつくることのできる教育の選択肢は限られているな、と。今やった方が良いことを、どんどんやっていこうと決めました」(粕谷さん)

また、放課後や長期休みという限られた時間の中で、CAN!Pが掲げるビジョンを実現していく難しさも感じていたそう。「自らの意志で選択し、決定できる人に溢れる社会をつくる」ことをビジョンに掲げるCAN!P。フルタイムのスクールの設立が、自分たちのビジョン実現に最適なのではないかという思いに至ります。

「子どもたちにとっては、普段通っている学校が第一の居場所なんですよね。放課後の学童や長期休みの学び場は、どうしても補完的な立ち位置になってしまう。だからこそ、ビジョンを達成するためには、スクールをつくる必要があるという結論に至ったんです」(粕谷さん)

こうして、CAN!Pが目指す未来を見据え、スクール立ち上げプロジェクトが動き出していきました。

立ち上げるのは、自分を拓く学校

学校は、社会に出る前にこれからの時代に必要な力を身につける場です。先の見えない時代に、求められている力とは何なのでしょうか。

「僕が小学校に通っていた20年前は、言われたことができれば良い時代でした。でも、今は時代が大きく変わって、主体的に行動できる力が求められています」(粕谷さん)

主体的に行動できる人を育てるために、CAN!Pがたどり着いたスクールのコンセプトが「自分を拓く学校」でした。CAN!Pでは「出会う」「探究する」「自分と向き合う」の3つのステップを繰り返すことで、自分が拓かれていくと考えます。

「出会う」とは新しい物事に触れる、いろんな人に会う、いつもとは違う場所に行くといった、機会との接点のこと。「探究する」とは、調べたり作ったりしながら、自分の気になることをじっくり深めていくこと。そして「自分と向き合う」とは、これまでの過程を振り返り、感じたことを言葉にすること。言語化を通して、自分の思いや願いに気づいていきます。

「主体的に生きていくためには、経験したことを深めていくことが大切です。自分の感じたことを言葉にしていくことで、新たな自分が拓かれていきます」(粕谷さん)

自分を拓くことをコンセプトにしたCAN!P schoolでは、どのようなカリキュラムが取り入れられているのでしょうか。ここで、カリキュラムを確認してみましょう。

【CAN!P schoolのカリキュラム】

⚫︎サークルタイム:気持ちを伝え合う時間。みんなで輪になって、朝の会と帰りの会を行います。前日の出来事や今の気持ちを共有したり、SELの一環として他者との関わり方について対話したりします。安心安全の場で、他者とのコミュニケーションを学びます。

⚫︎基礎学習:自ら学ぶ姿勢と基礎的な学力を身につけます。学び方や進み方を自分で調整して決められる自由進度学習を取り入れ、主体的に学ぶ姿勢を大切にします。必要に応じてタブレットも活用します。

⚫︎テーマ学習:はじめての人・もの・ことと出会い、視野を広げる時間。理科や社会に関連するテーマについて探究します。教科の枠にとらわれず調べたり、さまざまな方法で表現したりします。

⚫︎自然体験:五感を使って学ぶ時間。山や川などで自然体験をします。偶然の出会いにあふれる自然の中で、感性や生きる力、体力を育みます。川遊びやキャンプを行う予定です。

⚫︎English:異文化に触れ、コミュニケーション力を高めます。英語を使ったアクティビティを通して、英語に親しむ時間です。多国籍の外国人スタッフと触れることで、文化や多様性を体感し、英語スキルを高めます。

⚫︎マイプロジェクト:自分の「やりたい!」を実現します。一人ひとりの興味関心に合わせて、調べたり試したり作ったりする時間です。好奇心を発揮し、発想力ややりきる力を磨きます。

校舎は、市街地の中にある、アットホームな戸建の一軒家です。学校は、車でたった20分の距離に、山も海も川もあるという好立地。日常で自然に触れながら、学ぶ環境が整っています。

探究してきたことを、自分の言葉で保護者に伝える

探究型の学び場では「評価をするのが難しい」という声がよく聞かれます。CAN!P schoolではどのような評価を取り入れていく予定なのでしょうか。

育みたい子ども像に照らし合わせたルーブリック評価を取り入れつつも、「子どもたちがどんなことを学んできたか、保護者に向けて自分の言葉で話す時間もつくっていきたい」と粕谷さんは話します。

放課後に週2で開校している探究スクール「CAN!P ラボ」では、子どもたちが保護者に自分のやってきたことをプレゼンテーションする「親子ミーティング」の時間が既に取り入れられているのだとか。

「発売されているラーメンと同じものをつくりたい」「アニメに出てくる武器を実際につくってみた」など、子どもたちが自分のやってみたいことをとことん探究して、発表しているそうです。

「『こういうことを学んだ』『こういうことに気づいた』『次の学期はこういうことをしてみたい』ということを子どもたちに話してもらう時間をつくっていきたいんですよね。

マイプロジェクトを通して、子どもが変わっていく姿を見てきました。どんどんプロジェクトにのめり込んでいくんです。本気で取り組んだことを話すときって、その子の言葉に魂が込もっている。それって、どんな人にも伝わるんですよね。

保護者の方にも『我が子がこんなにも頑張ったんだ』ということが伝わるんです。探究型の学びは数値化が難しいところがあるので、CAN!P schoolでは最終的なアウトプットだけでなく、プロセスや子どもたちの本気度合いも伝えていきたいです」(粕谷さん)

CAN!P schoolは、興味のあることをとことん探究でき、学んだことを言葉にできる環境が整った学び場なのです。

発達特性のある子どもたちに、一人ひとり対応。苦手ではなく得意を活かす

ここまでCAN!P schoolの特徴を紹介してきました。粕谷さんは、どんな子どもたちに入学してもらいたいと願っているのでしょうか。

「大前提として、僕たちのコンセプトである『自分を拓く学校』に共感してくださる方に来てもらいたいですね。お子さんが『CAN!P schoolへ行きたい』と思ってくれていることが大事だと思っています。一方で、不登校など、今悩んでいることがあるご家庭にも利用してもらえたら嬉しいです」(粕谷さん)

CAN!Pがこれまで運営してきた学び場にも、発達障害等の特性があったり、集団の場や公立学校に合わないと感じている子どもたちがいたりしたため、一人ひとりの子どもたちの特性に合わせた対応を心がけているそうです。

ある生徒は、自分の気持ちを言葉で伝えるのが苦手なため「お助けカード」というツールを使いながら、今の気持ちをまわりに伝える練習をしているのだとか。

「自分の傾向に気づいていることって、大きな強みだと思うんです。僕自身もADHD傾向があります。誤字が多くなってしまったり困っていることもある一方で、すぐに動ける行動力があるなどの強みもあります。僕に限らずスタッフもそれぞれの特性や個性がありますし、その強みを活かしていけたらいいよねという話をスタッフにもしています。

どうしてもできないことに対して『自分がバカだから』『自分はできない』と自分を責めてしまうのは、もったいないと思うんです。『これは苦手だけど、これはできる』ってわかってたら、子ども時代だけでなくその後の人生にも活かしてもらえるはずです」(粕谷さん)

代表である粕谷さんが自身の特性をオープンにしているのは、他のスタッフにも自分のことを話しやすくなってほしいという思いがあるからなんだそう。苦手なことにフォーカスするのではなく、得意なことを活かしていけたら良いという考えが根付いているCAN!P school。

「お互いが生きやすい社会って、こういうことだと思うんです」と笑う粕谷さんの姿から、
大人たちも自分を拓いて助け合いながら、子どもたちの学びをサポートしている学校だということが伝わってきました。

最近は、東京から福岡へ移住を考えているご家族からも、開校について問い合わせがあったそう。福岡は空港が近く、都市としての便利さと自然環境へのアクセスのよさがあり、リモートワークなどで働きながら移住される方も増えているようです。

描いているのは、一人ひとりが想いのある主人公になっていく未来

CAN!P schoolには、どのようなスタッフがいるのでしょうか。一人目は、広島県で約20年間小学校教員を務めた後に、立ち上げメンバーとして参加した、平田美枝さん。二人目は、大学卒業後に認定NPO法人Teach For Japanのフェローとして、福岡県内の小学校で3年間学級担任を務めた後に参画した長崎裕也さんです。

粕谷さんは校長としてスクール全体の運営に関わります。さまざまなバックグラウンドを持つ3人が一丸となって立ち上げの真っ最中。いまは週2日プレ開校しており、来年4月の本開校に向けて、「こんなスクールができたよ」ということを知ってもらうためにみんなで広報を頑張っているそうです。

最後に、これからについて聞きました。粕谷さんは、既に子どもたちの卒業時のイメージが浮かんでいると話します。

「『やりたいことが決まった』という意志を持って、子どもたちがCAN!P schoolを卒業していく姿を思い描いています。自分を拓く学校で子どもたちがやりたいことを見つけて『じゃあ、行ってきます』と言っている未来ですね。

人生を100年と考えたときに、子どもたちには自分の人生の主人公として生きていってほしいんです。一人ひとりに思いのある主人公になってほしい。そのために必要なことは、何かに本気で打ち込んだ経験なんです。すごく高い学力をつけてほしいとか、尖った作品をつくってほしいということではなくて、子どもたちの意志を感じる瞬間をつくるのが、一番叶えたいことです。その一心なんですよね」(粕谷さん)

「地方だとまだオルタナティブ教育は一般的ではないので、認知してもらうには少し時間がかかるかな」とも話されていましたが、その表情は軽やか。目の前の子どもたちと向き合いながら、地道に取り組んでいくつもりだそうです。

子どもたち一人ひとりも、子どもたちを支える大人たちも、自分を拓いていく。そして、自らの意志で選択し、決定できる人に溢れる社会をつくる。そんな教育が、福岡でも根付いていけば素敵だなと思います。

(取材・写真:田村真菜、文:田中美奈)

粕谷直洋(かすや・なおひろ)
CAN!P代表。大学卒業後、公文教育研究会KUMONに7年間勤め、日本・海外で経験を積む。CAN!Pの前身であるきりんアフタースクールを設立し、初代リーダーを務めた後、2022年にCAN!Pを創設。「地方の教育に選択肢を増やす」をモットーにCAN!Pで様々な教育を創っている。2021年にグロービス経営大学院でMBA取得。2児の父。5か月間の育児休暇を取得したイクボスでもある。

CAN!Pスクールのサイト

CAN!Pサイト

「CAN!P school」は、11/15夜に開催されるオルタナティブスクールフェスにも登壇いたします。ご興味のある方はぜひご参加ください。

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