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転職・複業・プロボノ…ビジネスパーソンが教育に関わり始める時のヒント

これからのキャリアや働き方を考えたとき、「今は企業で働いているけど、いずれ教育に関わってみたい」と思う方も多いのではないでしょうか。その一方で、教育業界に関心はあるけれど、「教員免許がなくても働けるのかな」「どんな働き方の選択肢があるかわからない」と二の足を踏む方もいると思います。

今回のイベントでは、別業界でビジネス経験を積まれ、現在NPOカタリバで教育に携わられている3名をゲストにお招きし、どんな関わり方をされているか伺いました。フルタイム転職、プロボノ、複業といろいろなパターンの関わり方を参考に、ご自身の関わり方のヒントを見つけてもらえたら嬉しいです。

野倉優紀(のぐら ゆうき)
1991年生まれ、新潟県出身。筑波大学人文・文化学群卒。大学卒業後、外資系コンサルティング会社に勤務し、大規模システム改修プロジェクトでの業務改善などに従事。2018年5月、カタリバへ転職し、東京都足立区の事業「アダチベース」にて、高校生向けプログラムの立ち上げを担当。2020年4月より拠点責任者を務める。「自分のもつ可能性を最大限に発揮できる人を増やす」ことを人生の目標として、日々子どもたちに向き合っている。

山本龍太朗(やまもと りょうたろう)
本業は企業法務を専門とする弁護士。2004年慶應義塾大学総合政策学部卒業、2007年名古屋大学法科大学院卒業後、外資系法律事務所を経て、現在は弁護士法人大江橋法律事務所のパートナーを務める傍ら、SVP東京の理事、かものはしプロジェクトの監事を務める等、ソーシャルベンチャーにも積極的に参画している。カタリバとは、外資系法律事務所時代にコラボレーションして東日本大震災後の高校生を対象としたイベントを共催。また、現在は、中学・高校を対象に学校の校則改革を行うルールメイキング・プロジェクトに関与している。

桶谷建央 (おけたに たけお)
1993年生まれ。法政大学・経済学部卒。学生時代はラグビーフットボールに没頭し、高校・大学ともに体育会ラグビー部として活動をする。大学卒業後は総合商社に入社し、鉄鋼製品領域における事業投資先の経営管理に従事。その後、2020年6月に日系コンサルティングファームへ転職、商社・製造業を中心とした経営課題の解決や組織人事領域の企画支援に携わる。カタリバとは、転職後の2020年9月から業務委託を結び、パレラルワーカーとして勤務を開始。島根県雲南市における教育魅力化事業のプロジェクトマネジメントを始めとした、新規事業開発案件のプロジェクトリーダーを主に務めている。経済格差の激しい海外地域で暮らした原体験から、経済・地理・教育など様々な格差によって生じるハンディキャップに強い課題感を覚えており、人生の至上命題である”あらゆる格差の無い世界”の実現に向けて日々邁進している。

企業から転職、収入は下がっても裁量の大きさがやりがいに

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── 野倉さんは2年半前にカタリバに転職し、フルタイムで働かれていますね。転職を決めた経緯はどんなものですか?

野倉:もともと大学生のときから、英語の先生になりたかったんです。でも、社会人として経験を積んでから教育業界を知った方が、より自分の教育観に軸ができると思いました。そのため、新卒でコンサルティング会社に入社しました。システムを改修するプロジェクトに関わり、コンサルタントとして働いていました。

20代後半で転職しようとしたときに、教員になることも選択肢の一つでしたが、先端的でチャレンジングなことをしている団体や、イシューとしてまだ大きく取り上げられていないものの、これから日本で大きな課題になる分野に取り組んでいる教育関係の団体を探していたんです。その中で、たまたまNPOカタリバを見つけました。

転職する前には、何度か現場を見学しました。カタリバがしている事業の一つに、高校生の探究的な学びを応援する「マイプロジェクト」があります。その現場を見学したときに、生徒さんの目の輝きや、多様なバックグラウンドを持つ方々が、高い熱量を持って授業に取り組んでいる様子を目にして。“アツイ学びがここで生まれている”と実感して、最終的に転職を決めました。

── 今は、どのような仕事内容なのでしょうか。

野倉:東京都足立区にあるアダチベースという拠点で、責任者として施設の運営全般に関わる業務を行っています。経済的な理由などで、教育的な支援を受けることが難しい中高生のお子さんを主な対象として、教育サービスを届けています。

アダチベースは、基本的に子どもたちが放課後に来るスペースで、家や学校に次ぐ「第3の居場所」です。子どもたちと勉強をしたり、体験企画をイベントとして開催したり、一緒に食事を取ったりしています。

単に勉強をするだけではなく、子どもたちが大人になったとき、自分で人生を作っていける力や、自分の人生を楽しんで過ごせるような力を多角的に得てもらいたい。そのため、学習以外の要素も含めながら、運営をしています。

── 仕事のやりがいを教えてください。

野倉:若い年齢で裁量権を与えてもらい、自分で考えながら仕事をできるのがやりがいです。今はスタッフの採用にも携わっています。お金の面など、経営に紐づく全てのことを考える必要があるので、広い視点で全体感を持ちながら仕事ができて、そのことがやりがいにつながっています。

また、カタリバで働いている多様なバックグラウンドを持つメンバーと、どうプロジェクトを前に進めていくかを考えられるのも、やりがいの一つです。お互いの意見をミックスさせることで、新しい知見がもらえるところが面白いです。

── NPOへの転職というと収入はダウンするのではないかと思いますが、 転職にあたって、収入面で不安はありましたか。

野倉:カタリバはNPOの中では安定的な経営がされている組織ですが、転職によって収入が前職よりダウンしてしまうことはあると思います。

僕自身は収入は下がったものの、仕事での裁量権が大きい状態で働く経験を、なるべく若い年齢からしたかった。そういう意味では、カタリバで働くことが総合的に最適だったと思っています。

また、もし収入面で不安になることがあれば、最悪別のところにもう一度転職する道があると思っていました。そうして、自分の中でセーフティーネットを張っていたんですよね。別のところに行っても通用するような力をつけておけば、次の場所でも活躍できるようになるはずだと考えていました。

本業は弁護士、月に2〜3回プロボノで生徒たちと関わる

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── 山本さんは、どんな形で教育と関わられているのでしょうか。

山本:私は本業で弁護士をしながら、プロボノとして教育に関わっています。これまで様々なNPOの支援を行ってきましたが、現在はカタリバの「ルールメイキングプロジェクト」に関わっています。

──「ルールメイキングプロジェクト」とは、どのような取り組みなのでしょうか。

山本:生徒自身が学校の校則を見直すプロジェクトです。これまでは校則の見直しに生徒が直接関与することは、ほとんどなかったと思うんですが、それを当たり前にしていくことを目指しています。経済産業省の「未来の教室」にも採択され、カタリバが運営しているプロジェクトです。

2019年秋から、ファシリテーションの専門家や大学の教員といった社会人の方々とチームを組んで、広島県の安田女子中学高等学校のルールメイキングに参加しています。全教員を対象にしたワークショップをしたり、「そもそも校則とは何か」を弁護士の視点から投げかけたりして、生徒が校則を見直していくことに伴走してきました。

最初は、「校則に苦しめられているから、校則を変えたい」という思いだけだった生徒が、「この校則は先生にとって運用が難しいのではないか」、「他の生徒はどう思うだろうか」などと考え、他者との関係性の中で自分たちが生きていると話すようになり、生徒の変化を感じました。

長期のプロジェクトの中で、定期的に生徒と関わり、生徒の成長を見ることができたのは、良い機会だったと思っています。

今までの経験を活かす道に、このような形があるということは、自分にとって新しい発見でした。今後も何らかの形で、教育分野には関わっていきたいです。

── 教育に関わる資格等を持っていなくても、経験が活かせるのはいいですね。

山本:一定の資格や経験がないと関われない、ということはないと思います。自分は、弁護士としてのこれまでの経験よりも、プロボノとしてNPOに関わってきたときのソフトスキルの方が、直接的に活きたと感じています。

それぞれのバックグラウンドを活かせる余地は、十分にあります。学校側との調整が必要になってくるので、コミュニケーション能力や柔軟性は大切になってくると思います。

私たちが「学校はこうあるべき」という価値観を押し付けても上手くいきませんし、先生達も身構えてしまいます。そもそもどちらかが間違っていて、どちらかが正しいということもないと思っています。

参加者より:本業をしながら、いつプロボノに参加していたのでしょうか。

山本:関わり方の頻度は、月に2〜3回です。コロナ前は、平日に広島まで何度か出張をして、生徒や先生とミーティングやセッションをしていました。今はオンラインで参加することが多いです。

参加者より:プロボノと本業との力のかけ方は、どんな割合でしょうか。

山本:カタリバ以外でもNPOやソーシャルビジネスのプロボノ活動には10年以上取り組んできましたが、割合にはグラデーションがあります。今は子育てもしていますので、そうしたら少しプロボノを減らしたり、本業に余裕が出たら増やしたり、そういうこともできると思います。

いきなりフルタイムでキャリアチェンジをするのは、勇気が必要だと思うんです。選択肢の一つとして、プロボノベースでの関わりもあっていい。0か100かではない、ご自身にできる関わり方を探してみるといいかなと思います。


経営コンサルタント×教育NPOで新規事業開発。複業という選択肢

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── 桶谷さんは複業で働かれているとのことですが、 カタリバへの参画を決めた経緯を教えてください。

桶谷:僕の人生の目的は、「きっかけの格差をなくしていく」ことです。子どもの頃、インドネシアのジャカルタで暮らしており、経済格差によって生まれる「きっかけの格差」を感じていました。この課題を解決できる存在になりたいと思ったことが、今の活動につながっています。

前職は総合商社で働いていました。鉄鋼製品領域の事業部で、事業投資先の経営管理に携わっていました。仕事は、パソコンのエクセル上で経営管理をするものだったので、もう少し手触り感を持って働きたいと感じるようになりました。

前職のような仕事にも携わりながら、実際に現場に入ってシステムを構築していく2つのアプローチを、両輪で回せるような働き方をしたいなと。

そのため、その働き方が容認されている日系コンサルティングファームへ入り、かつ手触り感を求めてカタリバに入り、複業での働き方を始めました。前職で抱えていたジレンマの解消にベストなアプローチだと思っています。

── 現在の仕事内容や働き方について教えていただけますか。

桶谷:コンサルティングファームでは、経営コンサルタントとして働いています。カタリバとは業務委託契約を結んで、新規事業開発のプロジェクトマネージャーをしています。

カタリバの仕事は主に二つで、一つ目は、島根県雲南市における教育魅力化事業です。二つ目は、不登校の状態にある児童生徒の学びをより良いものにしていくための事業です。

コンサルティングファームは、成果を出せていたら、いつ、どこで、どのような形で働いても良いという職場です。そのため、一日コンサルティングの仕事をしている日もあれば、一日カタリバの仕事をしている日もあり、また両方の仕事をしている日もあります。

── 2つ仕事をされていてとてもお忙しいと思うのですが、どのようなことを意識されていますか。

桶谷:自分の人生の目的に対して、自分が何をしたいかを深く考え、そのことに正確に向き合うことが大切だと思います。何か苦しいことに陥ったときも、「やっぱり自分はこれをしたいんだ」と立ち直る知的体力の礎になると思うからです。

僕は苦しい場面で、「何のために今これをしているのか?」を考え、するべきこととやりたいことを整理して見つめ直してきました。長期的な人生の目的を達成するために、短期的に何をしていきたいかを考えていく。そうすると、仕事にやりがいも感じられると思います。

多様な関わり方が増えると、子どもにいろんな背中を見せられる

── フルタイム転職だけでなく、プロボノや複業など、多様な働き方がカタリバで始まっていることがよくわかりました。最後に、これから教育業界に関わりたい方に向けて、それぞれメッセージをお願いします。

野倉:僕自身は、別業界から教育業界に、転職という形で飛び込みましたが、教育には、グラデーションのある多様な関わり方ができると思います。ボランティアやプロボノ、業務委託など様々なな関わり方が広がることで、いろいろな考えを持った人が教育に参画できる。そのことで、従来はできなかった弾力性のあるプログラムができたり、子どもたちもいろいろな大人の背中を見せられると思いました。

山本:教育への関わり方は、なんでも良いと思うんですね。カタリバにボランティアに行ってみる、何かのイベントに参加するなど、まず一歩を踏み出してみる。それは自分が今取ることのできるリスクの範囲内で大丈夫だと思います。一歩踏み出してみると、これまでと違った景色が見えてくる。そこから次のことを考えていけば良いのかなと思います。まずは踏み出してみること。ただそれだけかなと思っています。

桶谷:コロナの影響で、今働き方に変化が起こってきています。その一つの効果として、場所を選ばないリモートワークなど、飛び込みやすい環境ができていることがあると思います。自分の中にモヤモヤやわだかまり、このままで良いのかというジレンマを抱えている人は、ひとまず飛び込んでみることが大切だと思っています。

── 野倉さん、山本さん、桶谷さん、ありがとうございました。

(文:田中美奈、編集:田村真菜)

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編集部コメント:カタリバでは、正社員、業務委託での複業やパートタイムなど、多様な関わり方ができる仲間を求めています。本イベント後に、オープンポジションにチャレンジし、新しく複業で参画しはじめた方もいるそう。現在募集しているポジションも、ぜひ見てみてくださいね。



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