半分教育×半分ナリワイ。教育副業の形とは? 韮崎市の青少年育成プラザ「ミアキス 」での働き方を聞きました
「自分のナリワイもやりながら、複業で子どもとも関わってみたい」そんな気持ちがある一方で、「どう実現すれば良いかわからない」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
イベントのゲストは、山梨県韮崎市にある中高生の拠点「青少年育成プラザMiacis(ミアキス )」で働かれている3名。県内初の中高生のための公共施設で、市内に住んでいる中高生の6割以上に当たる約1900名が、ミアキスに登録しています。
多くの子どもたちに「第三の居場所」として活用されているミアキス。特徴的なのは、複業のスタッフが多いこと。週3正社員の制度を利用して、週3回はミアキスで働きながら、農家やデザイナーなど別のナリワイをする。そんなスタッフの方がたくさんいるそうです。ゲストのみなさんは、どのような働き方をされているのでしょうか。
中高生は何者にも進化し得る可能性を持った存在。自分のナリワイを持ちながら、教育に関わる。
——はじめに、ミアキスがどのような施設か教えていただけますか。
西田:ミアキスは中高生の拠点として、2016年10月にオープンしました。放課後や休日に、中高生が自由に過ごすことのできる空間です。僕が代表を務めているNPO法人河原部社がミアキスを運営しています。
韮崎駅前にある市民交流センターニコリの地下1階にミアキス はあります。子どもたちはボードゲームや卓球場で遊んだり、ピアノやギター、DJブースのある音楽コーナーで過ごしたり。ソファや本もあるので、カフェのようにゆったり過ごすこともできます。コロナ禍になる前は、キッチンで子どもたちが夜ご飯をつくって食べることもありました。また、ミアキスには、大人がどのように自分の仕事を捉えているかを知れる「しごとポケット」コーナーもあります。
都市と比べて地方は情報格差があり、選択肢が限られてしまっています。親と先生以外の大人と出会う機会も圧倒的に少ないという課題もあって。でも、中高生は選択次第で何者にも進化し得る可能性を持った存在だと僕らは考えています。それで、「子どもたちに進化の起点となるような、きっかけを提供できる場を」という思いでつくったのがミアキスです。
ミアキスでは、学校や学年の異なる同世代やスタッフ、地域の大人と出会える機会があります。地域の大人と中高生の関わりを生み出していけるような「つなぎ役」ができればいいなと思っています。
「自分を知ること」が、ミアキスで大切にしているテーマの一つです。中高生のときに、自分を知ることができたら、何か変わるんじゃないかなと思うんです。たくさんの大人に会うことは大切ですが、大人の考えや仕事を知るというよりは、大人を通して子どもたちが自分を知ることができたらいいなって。
「こんな大人が好きだな」「この考えが素敵だな」「こんな仕事は向いてなさそうだな」というように、大人を見ながら自分がどういう人間なのかを感じてもらえたらいいですよね。講演会などではなく、日常の中で子どもたちが大人と出会って、自分を知ることができる。そんな機会が自然とできたらいいなと思っています。
——ミアキスには複業をしているスタッフが多いそうですが、西田さんはどのような働き方をされているのでしょうか。
西田:基本的にミアキスは放課後にオープンするので、14時から21時はミアキスで働いています。それが、週に3、4回くらいのペースです。ミアキスで働く日の午前中や、それ以外の日に他の仕事をしています。
具体的には、僕が法人化して始めた事業と、請け負ったプロジェクト単位の仕事があります。例えば、ソフトクリームなどのストリートフードをテーマにした飲食店をやったり、企業から依頼されたプロジェクトデザインの仕事をしたり。県から依頼された仕事をしていることもあります。
僕がプロジェクトデザインをナリワイとしているように、ミアキスのスタッフはいろんな複業をしています。例えば、外国人向けの宿泊業、桃農家、イラストレーター、コピーライターとして働いているスタッフがいます。
ミアキスを利用している子どもたちの中に、僕らの働き方に興味を持ってくれた高校生もいます。それで、「こんな働き方をしてもいいんだ」「こんな仕事の分野があるんだ」と興味を持ってくれたんですよね。
それで、僕らもNPOの現状や資金調達の課題について話すようになりました。このことがきっかけとなって、高校生ながらファンドレイジング協会のイベントに参加した子もいます。大学生になってからも勉強を続けて、資格も取って。今は学生の立場から、NPOの寄付集めを助ける活動をしてくれています。
——スタッフの方々の働き方に、子どもたちも影響を受けているのですね。ミアキスの仕事に向いているのはどのような人でしょうか。
西田:ミアキスのスタッフは、子どもたちの相談に乗ったり、何気ないことを話して交流したりします。子どもたちと関わるとき、自分の得意なことをベースに、自然なコミュニケーションを取りたいなと思っているんですね。
普段、中高生は親や先生と話すことが多いと思うんです。でも、ミアキスのスタッフは、大人だけど公園で会ったお兄さんお姉さんみたいなイメージでいます。スキルというよりも、1人の人として、子どもたちと自然に話せる方が向いていると思います。
アパレル業界でのキャリアを活かし、ミアキスにIターン。星空案内人としても働く。
——韮崎市の地域おこし協力隊として働かれている須川さんは、どのような経緯でミアキスで働くことになったのでしょうか。
須川:これまでアパレル業界でのショップ店員や、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのクルーとして働いてきました。でも、仕事を通して若い世代と関わる中で、夢がなかったり将来にワクワクしていなかったりする人が、とても多いことに気づいたんですよね。それってすごく寂しいなと思って。
アパレル業界で働きながら、星空案内人の資格を取得したこともあって、このタイミングで普通の仕事じゃないことをしたいなと思うようになりました。そのとき、インスタグラムでミアキスのスタッフ募集を偶然見かけたんです。
当時、「星空案内人の資格を活かせるように、企画を学びたい」「若い世代が夢を持つようなきっかけをつくれたら」という思いを持っていました。その思いとミアキスの仕事がちょうど合致して。インスタグラムを見つけたときは「これしかない!」と思いましたね。
ミアキスに見学に行って西田さんと話す中で、働き方も自分の想像と一致していると感じました。それで、見学の約1ヶ月後に、韮崎に移住しました。
——ミアキスでは、具体的にどのような仕事をされているのでしょうか。
須川:今は、着なくなった服を大人から集めて中高生に渡す「MEGURU CLOSET」という企画のプロジェクトリーダーをしています。昔お気に入りだった服はクローゼットに眠っていくので、その服を中高生に巡らせることができたらいいなという思いで企画しています。
進路選択のとき、子どもたちは自分の好きなものから将来の道を選んでいくと思うんです。そういう意味で、子どもたちの中に「好き」が増えたら、選択肢が自然と増えるんじゃないかな、と。試着の中で似合うファッションを見つけてもらって、子どもたちが新たな自分を発見してくれたらいいですよね。
私は服が大好きで、服の雰囲気が変わるだけで、自分に自信を持つことができるなと感じています。服をあげるだけではなく、試着にも力を入れて、中高生が自信を持てるきっかけをつくっていきたいです。アパレル業界での経験を活かして、「これ似合うんじゃない?」と中高生と話しながら、会話の中で自分が好きになるきっかけをつくれたらと思っています。
この企画を通して、子どもたちが大人と自然に触れ合う空間もつくっていきたいです。今年の12月24日には、プロの大人に集まってもらって、服がもらえるイベントをする予定です。試着・メイク・コーディネート・写真の4つのブースを準備しています。
自分たちで古着屋さんを一からつくろうということで、子どもたちと一緒に空間づくりをしています。子どもたちと話し合ってどういう空間にするか決めたり、物づくりが得意な子に手伝ってもらったり。子どもたちの力を借りながら企画を進めています。
——須川さんは複業で星空案内人としても働かれていますが、どのような働き方をされているのでしょうか。
須川:週に3、4回ほどのペースでミアキスで働いていて、それ以外の時間に星空案内人の仕事をしています。
星空案内人は、宇宙と天文についてのサイエンスコミュニケーターです。お客さんとコミュニケーションを取ることを大事にしながら、星空鑑賞会をしています。難しいことを伝えるというより、私と話した時間がきっかけとなって、また大切な人と空を見る時間をつくってほしいなという思いで活動しています。
これまで老舗旅館さんとコラボしたり、ワイン・歴史・星空を組み合わせて、移住者の方に地域のことを知ってもらいながら星空を楽しんでもらうイベントなどを企画してきました。今後、ミアキスでも中高生と一緒に星空の空間づくりができたらいいなと思っています。
高校生のとき、ミアキスの立ち上げに関わる。現在はUターンし、ミアキスのスタッフに。
——篠原さんは、高校生の立場からミアキスの立ち上げに関わられたそうですね。
篠原:高校3年生のとき、地元の温泉施設にフライヤーがあって、ミアキスで中高生スタッフを募集していることを知ったんです。それで、ミアキスの立ち上げに関わることになりました。
当時は、何かしてみたいけれど、特にやってみたいこともない高校生で。夢も希望もない若者だったように思います。でも、ミアキスのことを知ったとき「面白そう」と感じて、軽い気持ちで応募してみたんです。
最終的に、私を含めた5、6人の高校生が集まり、「どんなものが韮崎にあったら良いか」「どんな施設が良いか」をみんなで話し合いました。本当に白紙の状態から、ブレインストーミングをして。
それで、私たちが提案したドリンクバーを実際につくってもらったんです。高校生の時点で、大人の事業に関わることができて、とても嬉しかったですね。立ち上げを通して、すごく自信がつきました。スタッフの方々にエンパワメントされて、自分たちには能力があると感じることもできました。
——当時、高校生だった篠原さんは、スタッフの方々にどのような印象を持っていましたか。
篠原:スタッフの方々は本当に朗らかで優しくて、あたたかく接してくださいましたね。学校の先生とはまた違った距離感で、進路や勉強の悩みを気軽に相談できるような関係を築いてもらいました。
学校に相談できる先生はあまりいなくて、これまで話を聞いてもらう経験をそれほどしたことがありませんでした。でも、スタッフの方々は私の話を一生懸命聞いてくださったんですよね。アドバイスもしてもらったのですが、「あなたはどうしたいの?」と聞いてくれました。いつも私がどう思うかを大切にしてくれたんです。
——現在は韮崎市の地域おこし協力隊として働かれていますが、ミアキスのスタッフになるまでに、どのような経緯があったのでしょうか。
篠原:ミアキスでスタッフの方々と関われたことが、進路選択に大きく影響しました。高校卒業後は、オーストラリアの大学に進学することになったんですね。スタッフの方々には話していたのですが、もともと難民や国際政治に興味があったんです。
それで、日本ではなく西洋の観点から政治を見てみようという気持ちで、政治学を学びに行きました。勉強する中で、関心が教育学や心理学に移り、教育に興味を持つようになりました。
大学卒業後は東京の会社に就職したのですが、教育分野とは異業種だったこともあり、会社を退職することになって。実際に東京で働いてみて、都会での暮らしは自分には向いていないとも感じたんですよね。
その時期に、フェイスブックでミアキスのスタッフを募集していることを知りました。教育に関わりたいという気持ちから、西田さんにメッセージを送って、韮崎にUターンすることになりました。
——ミアキスで働く中で、感じることはありますか。
篠原:中高生と交流していて感じるのは、子どもたちの周りに傾聴してくれる大人がいないということです。一人の人として、真剣に話を聞いてくれる人がいないんだなと感じています。私自身は、スタッフの方々に話を聞いてもらえたことが、とても大切な経験になりました。
今は一スタッフとして、傾聴を一番大事にしながら、子どもたちと関わっています。どんなことを表現しても、それを受け止めてくれる人がいる。そのことが、中高生の自己表現力につながっていくように思います。
子どもたちと関わる以外に、アメリカの青少年教育やユースセンターのモデルをリサーチしています。アメリカのプログラムをミアキスに導入することに、情熱を持って取り組んでいるところです。「エビデンスをもとに、青少年教育をやってみたい」という思いがあります。より良い機会や環境を中高生に提供するために、今後アメリカにあるモデルをミアキスに応用していきたいです。
——西田さん、須川さん、篠原さん、ありがとうございました。
参考:昨年の募集時の記事はこちら。協力隊メンバーの声が掲載されています。
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