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コンサル勤務×教育NPO、教育複業で視野を広げる【「学びを変える」を仕事にする/桶谷建央】

日系コンサルティングファームで働きながら、パラレルワーカーとして教育NPOで働く桶谷さん。日本全国の様々な環境の子どもたちに出会いと学びの機会を届ける認定NPO法人カタリバで、プロジェクトリーダーを勤めています。

幼少期をインドネシアのジャカルタで過ごし、都市部と地方の経済格差・機会格差に課題意識を感じてきた桶谷さんが、ビジネスと教育NPOとの”複業”というキャリアを選択した経緯を聞きました。

桶谷建央 (おけたに たけお)
1993年生まれ。法政大学・経済学部卒。学生時代はラグビーフットボールに没頭し、高校・大学ともに体育会ラグビー部として活動をする。大学卒業後は総合商社に入社し、鉄鋼製品領域における事業投資先の経営管理に従事。その後、2020年6月に日系コンサルティングファームへ転職、商社・製造業を中心とした経営課題の解決や組織人事領域の企画支援に携わる。カタリバとは、転職後の2020年9月から業務委託を結び、パレラルワーカーとして勤務を開始。島根県雲南市における教育魅力化事業のプロジェクトマネジメントを始めとした、新規事業開発案件のプロジェクトリーダーを主に務めている。経済格差の激しい海外地域で暮らした原体験から、経済・地理・教育など様々な格差によって生じるハンディキャップに強い課題感を覚えており、人生の至上命題である”あらゆる格差の無い世界”の実現に向けて日々邁進している。

幼い頃から、格差を解決できる仕事に就きたかった

── 桶谷さんは、「格差をなくしたい」という思いでNPOカタリバで働きはじめたそうですね。なぜ格差をなくしたいと思うようになったのですか。

僕は小学生の途中までをインドネシアのジャカルタという都市で過ごしたのですが、経済格差がとても大きい国でした。父の仕事の都合で住んでいたのですが、お手伝いさんや運転手さん、いわゆるブルーワーカーの方が何人も家にいました。

彼らの家族と交流したり、家に行ったりすることもあったのですが、ジャカルタの都市部から離れた場所ではインフラが全然整っていないため、車がなければ移動できず、学校に行くこともできないような状態でした。

地方だという理由で、学びや社会から切断されてしまっていることを初めて知ったときは、衝撃を受けましたね。そこをなんとか解決できるような仕事に就きたいというのは、幼い頃から思っていました。

── 子どもの頃からの思いを、ずっと持ち続けられているのがすごいですね。

学生時代はラグビーのプロ選手を目指していて、高校も大学もラグビー一辺倒の生活でした。プロ選手になろうと思ったのも、格差をなくすためでした。当時はそのための手段として、それが一番ベターでしたから。

僕のプレーを見てもらって、言葉が通じない国でも勇気を与えられる。そう考えていました。途中で怪我をしたり心が折れそうになっても、「僕はなんでこの道を選択したんだっけ?」と自分に問うことを忘れないようにしていました。

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── 新卒では総合商社に入られたのですね。

それも、「格差をなくしたい」という考えからなんです。移動手段など生活基盤に欠かせないような大きなプロジェクトをファイナンスベースから整えていきたいと思いました。

ただ、入社5年目のタイミングで海外駐在の内示がきた時、キャリアについて考えたんですね。「このまま海外に行くと4年位は現地にいることになるし、帰国する頃には30歳。その年齢になると、自分にキャリアの癖がついているだろうな」と。

「僕はそもそもなぜこの会社に入ったのか」そして「本当にやりたいことは何なのか」を考え直し、1つの仕事に捉われずに、複数の仕事先と関わりながらやりたいことを追求していくのはありだなと思ったんです。それでコンサルティングファームに転職し、その後にカタリバでの仕事も始めました。

マクロだけでなく、ミクロな視点を得たいとカタリバへ

── カタリバの活動は、以前からご存知だったのですか。

前職では岡山県に出張に行くことが多かったのですが、たまたま町を歩いていたらカタリバのポスターを見つけたんです。「こんなことをしているNPO団体があるんだ」とそのときに初めて知って、それが印象に残りました。

とても素敵な活動をしていると思いましたし、自分の課題感に近いと感じて、後に転職を考えたときに調べてみたら求人があったんです。

── カタリバで働くことを決めた理由は何でしょうか。

カタリバには「きっかけの格差をなくそう」というキャッチフレーズがあって、僕がずっと人生の中で感じてきた課題とリンクしたんです。日本でも地理的制限による機会の格差があり、それが子どもたちの将来の選択肢を狭めてしまっていると感じます。そこに対して直接アプローチできるのが魅力でした。

── 他の業界でご活躍されていた中で、教育業界で働こうと思った理由を教えてください。

今までの仕事は、全部パソコンのエクセル上で語ってきたような感覚なんですね。現場へ行って実際の工程を見学させてもらうこともありますが、中心は数字を見ての分析でした。もう少し手触り感強く、実際に自分の肌で感じながらやっていける世界も経験しておきたいという思いが、とても強いです。

また、今の本業である経営コンサルティングの仕事も、僕の中では広義の意味で教育と繋がっています。課題を抱えている企業や事業部に対し、ファイナンスや事業戦略などの経営ノウハウを伝えることによって、世の中により良いサービスを届けることができる。それによって教育の格差を減らしていけると思っています。

外部環境を整えていくアプローチも、実際に課題を抱えている子ども達ひとりひとりに対してアプローチするのも、どちらも尊いことです。前職では総合商社で働きましたし、今も本業ではマクロ的な視点で関わっていますが、ミクロな視点も持っていた方が将来的にいいと思っています。

カタリバと関わるのは、マクロな視点にミクロな視点を加えたようなイメージですね。自分の目的としている「きっかけの格差をなくしていく」というところに対して、どちらに軸足を置くのが一番効果や影響力が大きいのかを考えた上で、どちらも選択できるような状態になっておくのが一番大切だと思っています。

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プロジェクトリーダーとして、社会にインパクトを出す

── カタリバではどのような仕事をされていますか。

カタリバでは、プロジェクトリーダーとして代表の今村の下で僕がイニシアチブをとってプロジェクトを進めています。僕の役割は、社会にインパクトをもたらすことを目的に、カタリバの一つ一つの事業をビジネスとして先に進めるようにすることです。まだ計画段階ですが、事業計画を組んでチームを動かしていくようなマネジメントスタイルです。

── カタリバで働いてみて、前職とのアプローチの違いなども感じますか?

先ほどマクロとミクロの話をしましたが、前職では、経営指標などを使って分析して事業計画を遂行するような仕事でした。何千億円というお金が動いていました。

NPOではそこまで大きな単位で考えることはなくし、最小限で事業を進められるプロダクトをつくって、スピード感を持って回していく感じです。本質的な解決を目指すところは前職と共通していますが、現場からのボトムアップの目線を意識しています。

実際に現場で働くスタッフの方が1日にどんな風に動いて、子どもは何時に来て、どんなことをやっているのかをイメージしながら事業計画をつくる。現場からの課題を察知する力が求められます。

ただ本当に現場のニーズに寄り添った計画を立てていくには、知識だけでなく現場のことをもっと知る必要があるなと思います。僕はまだその点を深く見れておらず、直近では最も課題に感じている部分です。

── 違う業界から飛び込んでくると、確かに教育現場の力学はわかりにくく感じるかもしれません。

僕自身は、「”自分ができること”ではなく、”自分が解決したいこと”を職業にしたい」と、これまでの進路を選んできたタイプです。なので今は、「カタリバに対して期待値以上の働きが出来ているだろうか」と気になることはありますね。

ただ、新しいことや今までにやったことがないことをキャッチアップする労力は全然苦ではありません。いまは課題に向かって手触り感強くいろんなことができていることに満足感があります。

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複業によって視野が広がり、本質に向き合いやすい

── 複業でカタリバの仕事をしてらっしゃいますが、1日のスケジュールとしては、どのような働き方なのでしょうか。

正社員として働いている会社は、働く場所も時間も自由で、実力主義。カタリバで働いていることは会社に同意をとっていますが、「仕事で結果が出てさえいれば、自由にやっていい」というカルチャーです。

業務成果が下がれば報酬も下がりますし、そこも含めて自己責任で動く感じですね。なので、1日のスケジュールが決まっているわけではなく、1日中カタリバの仕事をしている日もあれば、そうではない日もあります。

── 複業で働くメリットを教えてください。

複数の仕事をすることによって、視野狭窄に陥らなくなると思います。本業で関わっているのは知識やこだわりを持つビジネスマンとして一流の方たちばかりです。けれど、だからこそ一般論から外れてしまったり、視野が狭くなりがちだなと思っています。

それは、教育業界でも起こっていることだと思うんですよね。僕は教員免許を持っているのですが、教育実習に行ったとときに、「このまま新卒ですぐに教員になってはダメだな」と思ったんです。

教員ばかりの世界で生きていると、どうしても柔軟な発想や本質的なところに向き合う必要性を感じにくいのかなと思っています。教育に携わる方は志の高い方が多いですが、その志が悪く影響してしまっている気がします。

僕は教育業界のことが分からない立場なので、「なぜこうしているんですか?」と聞くこともよくあります。「他業界に携わる人の目線からはどうなのか」という物差しを持てるのは、複業のいい部分なのかなと思います。

── 一方で、複業の大変なところはありますか。

正直、複業を始めてから何もしていない時間はあまりないですね(笑)。ただ自分がやりたいことをやっているので、そんなに負荷を感じることはなく楽しくやれています。大変な時もありますが、充実感の方が投資対効果として大きいような状態です。

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「人生の中で何をやりたいのか」を自分に問い続ける

── 精力的に働かれていますが、将来的には起業することも考えているのでしょうか。

「絶対こうなるんだ」という風にはいい意味で決めていません。今までもずっとそうでしたが、何がベストかどうか分からないので、もがき続けているような感じです。

課題解決に対してベストなものがわからないから、よりベターなものを追い求めて、最後にこれが自分の中で1番ベターだったというところで終わるのが人生なんだろうなと思っています。なので、絶対起業しなきゃいけないとは思っていませんね。

── これからの働き方を模索している方に向けたメッセージをお願いします。

前職の総合商社には、新卒では多くの一流大学を出た人たちが入社してきました。志を持って何かをやってやるんだという思いを雄弁に語る人が集まるわけです。けれど社会人5年目ぐらいになってくると、同じ熱量でその思いを語れる人は本当に少なくなっている。

日々の疲れもありますし、華やかそうに見えていた仕事が実は泥臭かったりして、理想と現実のギャップを感じることもあります。家族ができて自分の中の優先順位が変わることもあると思います。

それ自体は悪いことではないと思いますが、もし何か少しでもジレンマや閉塞感を感じる人がいたら、「自分は人生の中で何をやりたいんだっけ?」と問い続けて欲しいと思っています。

僕は何かに迷ったときには、その問いを自分に投げかけています。「これはきっかけの格差を埋めるのに効果的だろうか?」と。

今は幸い、いろんな選択肢がある世の中になっています。そのうちの一つとして、パラレルワークや副業、転職も選択肢に入れて、自分の目的と投資対効果が高いものを選ぶのがいいのではないかなと思います。

── 桶谷さん、ありがとうございました!

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(文:建石尚子、編集:田村真菜)



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