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映画レビュー『渇水』 監督 高橋 正弥

『渇水』というタイトルに惹かれて観た作品。
この2文字からは、実にヴァリエーションに富んだイメージが心に拡がる。きっとこれは何かに餓えて渇いている人たちの葛藤を描く作品、そんな印象をもって期待して観た。

だが、残念ながら正直すべてが中途半端だった。

水道局員の主人公・生田斗真の演技は笑ってんだか悩んでんだか沈んでんだかよくわからない。表情が乏しすぎ、手足の使い方も雑で、非常にもったいない。別に私は生田斗真が嫌いなわけではないが、脇役の磯村勇人が主人公の方が良かったのではないかと途中から真剣に思ってしまった。

門脇麦は子どもを置き去りにするような荒れた母親には見えない。これは尾野真千子の役柄と交替した方が絶対良かったと思う。逆に尾野真千子はあの内にこもった母親役は似合わない。
配役がことごとく失敗している。

灼熱の夏を表現するため、おそらく光効果をざらつかせているのだろうが、全く暑苦しく感じない画面。これは明らかに照明の失敗、逆効果に思える。音響も、エレキ鳴らせば暑苦しく聴こえるかと思っているのがありありとわかる。その辺がとても雑で中途半端。

灼熱の夏に雨が降らず、取水制限がかかる陽炎揺れるうだる街。ネグレクトされた姉妹は、母親が滞納した水道料金のため水道を止められ、公園の水を汲むがいつしかそれすらも出なくなり万引きを繰り返す。
でも、どこか演技くさくて悲惨さが伝わらない。もっとドロドロになるだろ、真夏に水が出ない家に居るんだから。その辺が中途半端。

監督は結局、何に焦点を当ててこちらに届けたかったのだろう。それすら掴めない。掴もうと努力して観るが、どうしても上滑りする。
エンディングで子ども2人プールに飛び込んで死ぬのかと思ったら違うし、結局どうして主人公の彼は元妻に再度受け入れられるようになり、子どもから「海に行こう」と言われるに至ったかの描写が足りなさすぎる。

余白の部分を視聴する側に委ねるにしても、あんな投げ方はない。ボールを投げるならせめて、目の前の、手の届く範囲に投げてほしい。
久々に観ながらあくびが出た作品だった。

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三島 こうこ
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