石川悌二著『近代作家の基礎的研究』が終わったところで、今回は短い作品をご紹介したいと思います。青空文庫にもある小栗風葉著『深川女房』です。
小栗風葉とは
小栗風葉は、尾崎紅葉門人で硯友社に参加していた作家です。その立場は泉鏡花と谷崎のところで引用した
に現れています。入門時期は鏡花が明治24年に対して風葉が明治25年と1年遅く、作品も鏡花の『外科室』が明治28年に対して風葉の『寝白粉』が明治29年なのですが、港区ゆかりの人物データベースを見ると次のように書かれています。
紅葉に可愛がられていた様子が見えます。
『青春物語』に登場
谷崎の『青春物語』には、風葉が次のように登場します。
『青春物語』というタイトルには、そのままの意味もありますが風葉の代表作『青春』に掛けているものと考えています。というのは、谷崎は『文壇昔ばなし』で江見水蔭に触れているのですが、江見水蔭の自伝に『自己中心 明治文壇史』があるからです。
『文壇昔ばなし』から該当個所を引いてみましょう。
以前、東京では谷崎と漱石の接点がと石川悌二著『近代作家の基礎的研究』(2)―夏目漱石と谷崎で書きましたが、挨拶はしていましたね。江見水蔭については谷崎関連でかねてからチェックしていたので、『文壇昔ばなし』で名前を見つけた時は「ムムッ」と思いました。
『深川女房』を取り上げるわけ
前置きが長くなりましたが、この作品をなぜこのマガジンで取り上げるのかですが、谷崎の特に『猫と庄造と二人のをんな』『細雪』をはじめとした関西移住後の作品に『深川女房』の手法の影響がかなり見えるからです。どのように影響しているか、あまり注釈を付けずにいくつか引用してみましょう。
まずは冒頭から。トップ画像(出典:国土地理院)を見ながらご覧ください。作品の舞台を谷崎が生まれ育った地域を含めて切り出しています。
清住町二十四番地と書かれていますが、永代橋の傍とも書かれています。
上記は特にポイントだと考えます。
上記もわかりやすいですね。
どうもちょうどいい車がないとお光さんは動けないようなのです。
上記の暮れ正月もポイントですね。もっとも現代とは違うのでしょうが。
長々と引用しましたが、舞台の地理と神社仏閣は『猫と庄造と二人のをんな』でも『細雪』でも大変重要です。
参考リンク
なんと、石川悌二著『近代作家の基礎的研究』(9)―谷崎潤一郎の生い立ち(その2) 幼稚園、塾、小学校と恩師で触れた澁澤倉庫の発祥の地がありました。
PDFもあります
実は、以前大阪DTPの勉強部屋でお話をした時にこの作品を教材にしまして、その時にPDFを作りましたので、もしよろしかったらご覧いただけると嬉しいです。
InDesignで自動組版しています。
https://mediakiryu.biz/images/fukagawa_nyobou.pdf