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映画「川っぺりムコリッタ」感想

松山ケンイチ主演の映画「川っぺりムコリッタ」を鑑賞した。

「川っぺりムコリッタ」

監督・脚本:荻上直子

公開:2022年9月16日

映画「かもめ食堂」の監督、荻上直子がメガホンを取り、キャスト陣は松山ケンイチ始め、吉岡秀隆、満島ひかり、ムロツヨシなど出演者も豪華である。

松山ケンイチ演じる主人公山田は幼い頃に両親が離婚、だらしのない母親に半ば育児放棄された挙句、捨てられてしまい、詐欺で逮捕されるという不遇な人生を歩んできた男性である。出所後、北陸にあるイカの塩辛製造工場に就職、「ハイツ ムコリッタ」という古いアパートで暮らし始める。

暮らして間もなく山田の部屋には、食事の時間になるとムロツヨシ演じるシマダが現れるようになり、一緒に食事を共にする。勝手に炊飯器のご飯を食べ始めるシマダを当初は快く思っていなかった山田であるが、日々食卓を囲むうち、シマダに対して家族とも違う、あったかく愛おしい感情が育ち始める。

そんな山田を囲む住人たちとの日々交流や、孤独死した山田の父の死を通し、住人それぞれの「死」の乗り越え方も描いている。

身近な人の死の訪れというのは「人生最大のストレス」とも言われているそうだが、深い悲しみや喪失感を、それぞれがそれぞれの方法で克服して乗り越えていく姿は、悲しいと言うよりかは見ていると抱きしめたくなるような愛くるしい姿のように思えた。

例えば劇中に登場するある元花火師のタクシー運転手は妻の遺骨をすり潰して火薬に混ぜ大空に大輪を咲かせたと言い、満島ひかり演じる夫を亡くした未亡人の大家ミナミシオリは、夫の遺骨を時に少しずつ食べては、自分の身体を使い遺骨を愛でている。

そういったシーンは異常ではあるけれども、最愛の人の死を受け入れられないほどの悲しみを「遺骨を食べる」という独特の方法で受け入れて何とか前に進もうと言う、必死な向き合い方には好感さえ覚えてしまうのである。

また、川っぺりでは、UFOを信じてUFOを呼ぶ儀式を行う子供達や、自由気ままに暮らす川っぺりの生活者の姿はどこか懐かしく、心が温かくなるような風景に思える。映し出される空や川、夕焼けは田舎町に流れるのどかでのんびりとした時間の流れを思わせ、時に幻想的でSFチックな出来事も起こり、現実だが現実では無いような不思議でかわいらしいストーリーだった。

工場で来る日も来る日も延々とイカを捌くシーンは、繰り返しの単調な毎日のように思うし、捌かれたイカのギラギラした目や、粘着質な体はグロテスクでほんの少し不快になる。しかしそれを経て美味しい塩辛になったイカには命をありがたく頂くという気持ちになるし、主人公の山田が白ごはんに塩辛を山盛り乗せて美味しそうに食べるシーンでは、繰り返される毎日は一見、変化なく退屈そうに思えるが、日々のささやかな幸せこそ人生の大きな幸福なのだと象徴しているようにも思えた。そんな対比の表現も素晴らしい。

人の一生では、死のような悲しい別れがあったり、離れて行く人も居るけど、そばにいてくれる人も居る、そんなことで人間っていつになっても救われる物だなあと感じる。

「死」についてを大半で扱っている映画であるはずだが、重苦しさは一切ない。観ている時に感じたのは

「こんなにほのぼのとした可愛らしい映画素敵、堪らない!!」

であった。

観るとなぜか自分の幼少期や家族を思い出したり、大切な人を思い浮かべほっこり優しい気持ちになる、そんな作品のように思う。観終えたあともじわじわと良い映画だと余韻が残っている。

(MacBook)

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