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子が親を選べないのは残酷なことだ『あんのこと』
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香川杏、21歳。シャブ中でウリの常習犯。ホステスの母親と足の悪い祖母と、3人で暮らしている。子どもの頃から、酔った母親に殴られて育った。小4から不登校。初めて体を売ったのは12歳で、相手は母親の紹介だった。希望はおろか絶望すら知らず、ただ繰り返される毎日。そんな薄暗闇の世界が、ある出会いをきっかけに少しずつ変わり始める。だが、やっと繋がった細い糸も突然のコロナ禍に断ち切られてしまい――。
感想
いやぁ、悲しすぎるしキッツい物語だった。物語冒頭に映し出される“事実を元に描かれている”の文字。予告編の時点で劣悪な家庭環境での物語である事は理解していたが、上映後に実際にこんな事が起こっていたのかと思うと、とても悲しく辛い気持ちになった。
しかもそれが単にヒロインが悲劇的な人生を送ったというものだけではないのが非常に良くできていると思った。
河合優美をはじめ佐藤二郎、稲垣吾郎その他キャストの演技も素晴らしく引き込まれた。間違いなく今年を代表する邦画の一本になることは間違いないだろう。
これが見たかった
予告編の時点でかなり期待していたのが佐藤二郎の鬼気迫る演技である。普段はコメディ調の役が多い佐藤二郎だが、2022年の「さがす」を見たとき、今までのイメージを覆す演技で度肝を抜かれたのを覚えている。今作ではその演技が再び見ることができてとても嬉しい。
河合優美もかなり体を張った演技で素晴らしかった。売春にリストカット、薬物とかなり攻めた演技でマイナスからのスタート役を見事に演じた。
まとめ
子は親を選べないとはよく言うが、今作程この言葉が重くのしかかる作品は久しぶりだ。
薬物依存から抜け出そうと日々積み重ねたものも自分の手で崩してしまうやるせなさだけでなく、最悪の結末が自分の責任だと感じる後悔の念がこの作品に深みを与えていると感じた。
去年の『市子』同様に女優の体を張った演技と激重なテーマで観賞後はどっと疲れたが、作品に引き込ませるパワーも持った素晴らしい作品だったと感じた。