谷郁雄の詩のノート57
たまたま高円寺で働くようになってはや4年。でも、高円寺には縁があり、若い頃にも少しの間暮らしたことがありました。デタラメな生き方をしていた頃の話です。いまもかなりデタラメですが。そのときから変わらず名曲喫茶「ネルケン」はこの場所でひっそり営業しています。でも、若かった店主はいまや白髪のおばあさん。静かな人生にも時は確実に流れていたのです。高円寺に行くことがあれば、寄ってみてください。上品なおばあさんが美味しいコーヒーでもてなしてくれるはず。インスタも投稿したのでハシゴしてみてください。
「恋バナ」
高円寺の
片隅で
営業している
一軒の古いカフェ
若い僕らが
ドアをあけた
あのときと
何も変わらず
そこにある
変わったのは
コーヒーを作って
持ってきてくれる女性が
白髪の
おばあさんに
なってしまったことくらい
店の名前も
変わらずに
ネルケン
賑やかな商店街から
一本外れた
静かな裏通り
片足は
土の中ですと
目で笑った
おばあさん
ネルケンは
ドイツ語で
カーネーションの複数形
恋人に捧げる
カーネーションの花束だろうか
いつか
おばあさんの
恋バナを
聞いてみたい
まだ
お店が
あるうちに
「光線」
生きていて
よかったと
思えることが
あと何回かあるだろう
やさしい人に
出会ったり
きれいな空を
見つけたり
詩集読んで
やっぱり生きることにしました
という女の子からの手紙を
もらったり
電車は
君が
飛び込むために
走ってるんじゃなく
君を
笑顔にする街へと
連れていくために
走ってるんだよと
伝えたくて
尖った
えんぴつの先から
詩の
光線を放つ
©️Ikuo Tani 2024