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たりてなくても生きていける -だが、情熱はあるの若林正恭に食らった話-

毎週の楽しみの一つが、ついに幕を閉じた。
おそらく私的ドラマ史に名を刻む一作となる、「だが、情熱はある」が最終話を迎えたのだ。
(13話目以降はこの現実世界で、サクセスストーリーになるまで物語が続くらしい。)

元々若林さんのエッセイ「社会人大学人見知り学部卒業見込」を読んだことがあり、その時は彼のことを芸人ではなく「生きづらい界のカリスマ」として崇拝したくなるほど、食らった。

日常の中の「あぁ…生きづれぇ…」という感覚を全て吸い取ったような一冊で、無条件で共感できる。
成功体験に基づく提言だらけの自己啓発本よりも、息苦しさや不快感から生み出された処世術が詰まった本書の方が私には何倍も響いたのだ。


なので「だが、情熱はある」にも自然と興味を持ち、なおかつ主演が髙橋海人と森本慎太郎…⁉︎という未知数な配役により一層興味をそそられ、見ないという選択肢はなかった。

もちろん、まんまとハマった。
どれだけ期待していたドラマでも途中で飽きてしまい、見るのをサボることも度々ある私だが、本作品は毎週欠かさずに見た。

1話の冒頭で、もう高揚感を覚える。
「このドラマはサクセスストーリではない」という言葉を聞き、若林さんのエッセイに共感しまくっていた私は「そう、それを待ってたんだ…!」と胸が弾んだ。

1話を見た直後の感想 (自分のTwitterから)
若林の「内向的人間で社会に違和感を感じつつも自分に対しては諦めきれないタイプ」という人格を、髙橋海人くんがインストールしたのか、もしくは既に彼が秘めているそういう部分を上手く引き出したのか、、、
エッセイを読んで想像した「かつての若林」像そのものだった…!
慎太郎くんが山ちゃんに似過ぎなのも相まって、ルックスだけでは海人くんそこまで若林っぽくはないな…と思ったが、動いたら若林だった(動いたら)
海人くん、演技の上手さと言うよりは、表現力や創造力の豊かさゆえに、適役だと思える。

現在の自分が見ても、文面から興奮が伝わる。


このドラマの構成として、メインテーマとしては山里亮太の半生/若林正恭の半生を並行して描き、その過程で、南海キャンディーズ/オードリーの歴史、個人の活動、若林&山里の「たりないふたり」結成や活動、という複数の軸がある。
そのため、様々な角度で楽しむことができる秀逸な作品だ。
ドラマを見進めていくうちに、それぞれの人物やコンビに魅力を感じながらも、やはり自分は「若林正恭」という一人の人間の生き様、彼の絶望や葛藤から生み出された言葉に惹かれていった。

よくテレビで芸人が語る下積み時代に、ロマンを感じることがある。
けれど、本作品を見て、そんなこと簡単には言っちゃダメだな、と反省した。

売れない自分が、恥ずかしくて、惨めで、辛い。
自分で目指した道だからこそ、自分で自分に課した課題だからこそ、もっと辛い。

そんな感情と戦い、もがき苦しむ様子を映像作品を通して見ることで、こっちまで辛くなった。
海人くんの繊細かつ大胆な演技によって、より一層現実味を感じさせる。

テレビに出るようになり、見える景色が変わっても、また新たな敵と葛藤する。
社会への違和感や過剰な自意識、、、

きっと彼のような人間は、どのフェーズにいても、悩み、深く考え、自分を探し、というループをやめることができないのだろう。
私もそのようなタイプである。

けれど、決してそれは悪い事ではない。
彼の紡ぐ言葉を読んで、耳で聴いて、思う。
彼は世界への解像度や感度がとても高い人なんだろうな。
なんか良いな、と。

(ちなみに、ドラマではエッセイの文章がそのまま読み上げられており、海人くんのアフレコ(若林ボイスサンプルver.)がとても良かった。)


斜に構えて世の中を眺め、器用に生きる「足りてる人」には到底及ばないちっぽけな人間だな…と思いつつ、それでも自己主張はやめれらない。
というか、結局気になるのは自分のことばかり。
それでも良いじゃないか!!
そんな「たりていない部分」にこそ魅力がたくさん詰まっているのだ。
絶望と希望が混在した、そんな不安定な部分を曝け出してくれるからこそ、救われる人もたくさんいるのだと思う。

ドラマ最終話において、「たりないふたり」のラストライブが再現されていた。


「たりてる側に行くぞ!」という若林と「そっちに行くな!」と止める山里。

あくまで「お笑いライブ」なのに、油断したら涙が出てきそうになる。

たりてない側にいるからこそ、考え抜いて身に着けた沢山の処世術は、紛れもなく武器であり財産だ。

そして、「弱さ」を吐き出すって、案外誰にもできることじゃない。
彼の内側で生み出された感情や言葉が、世に放たれることで、今度は誰かの「強さ」にもなり得る。

たりてないままでも成長できること。
弱さを曝け出すことは強いこと。

そんなことを教えてくれた、「だが、情熱はある」と若林正恭のエッセイに出会えてよかった。
作品たちが伝えるメッセージに心から共感できるなら、たりてない側の人間も悪くないよな。





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