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広島旅行(24) last day

生口橋までで僕らがこの島でやり残したことの一つを思い出した。「地殻」。回収し忘れた伏線。レット・イット・ビー。僕らは車内でどうしたら「地殻」を見つけられるかを話していた。海岸沿いは工場が続いていた。目印は「青」だった。この島のアートは突然現れる。昨日は見逃したのだから、それなりにわかりにくい場所にあるはずだった。海側ではない道路にある。ちょっと、曲がった小道にある。とか、見つからなくても仕方がないなと思っていた。「あっ、あった!」と彼女は突然言った。僕は後ろからくる車だったり、左右を気にしながら走っていた。後ろから煽るような車があったら、先に行ってもらい、ゆっくり走りながら「地殻」を探したかったのだ。僕は一瞬何が起きたのかわからなかった。目の前にあったのだ。

「地殻」。それは明かに「地殻」だった。

一目見ただけでそれは「地殻」とわかるものだった。どうして、僕たちは昨日はそれを見逃すことができたのだろう。二人して同時に一瞬だけ”あっちむいてほい”をさせられて「地殻」が視野にまるで入らないくらいまで、別の方を凝視していたのだろうか。…わからない。だが、そこに明らかなアート作品があった。僕たちは車を降りて、興奮しながらその再会(初対面だけど、正確には2回はすれ違っていた)を喜んだ。何枚か写真を撮った。アルバムには入れたい一枚。伏線の回収を終えて、最後にセブンイレブンに行った。僕はカフェラテのノンシュガーを買った。彼女は何だったけ…。その時、彼女には話さなかったことがある。レジの女性店員のことだ。彼女は買った商品をスキャナーでスキャンしながら「袋入りますか」と言った。ちょっとしたタイミングだったが、僕がスイカでお願いしますと重なった。なので僕は「袋入りません」と何かの流れで言ってしまった。よく考えないで言った。レジに金額が表示されたタイミングで僕は思い直して「やっぱり袋お願いします。」と言った。その時だ、彼女は”むっ”とした顔をしたのだ。きっと、レジに表示された金額に袋代を加えねばならないから、会計を一度キャンセルするために何かの本来押さなくてよかったボタンを押さなけばならないのだろう。一手間かかる。それにわざわざ、「袋入りますか」と聞いて、僕は「入りません」と言う会話をしているのに、その会話自体もなかったことにして覆すことになる。僕の「やっぱり袋”お願いします”」と言うくらいの丁寧さでは、その手間をイーブンにすることができなかったのだろう。それまでの雰囲気と明かに違う態度で彼女は僕のカフェラテのノンシュガーと彼女の飲み物を袋詰めしていた。そんなに店内は混んでいなかったけれど、袋詰めも面倒だったのだろうか。客の接客を、ドラゴンクエストのモンスター退治と掛けるなら、一匹の雑魚の退治をしようとして、素手で済むレベルなのに、呪文(メラ)まで使わせられたような感じか。それにも関わらずに、僕が袋を手にして店を出るときに「ありがとうございました」とそのショートカットで片耳ピアスの女性店員は言っていた。彼女にこの話をしようと思ったが、僕は”ここでする話”でもないだろうと思いとどまった。こんな話望んでいないだろう。誰がこんなどうでもいい話を聞きたいだろう。僕は「やっぱりこの話やめます。」と言う前に…話をする気持ちを抑えることができた。コンビニを出て、車に向かうまでの時間は、レジでの刹那のやりとりよりも熟考できた。意外に気づかないけれど、コンビニのレジでのやりとりは一瞬の判断の連続なのだ。

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