「ついやってしまう」体験のつくりかた、を読んで色々と考えてみた。
開発チームで、読書感想をやってみよう。
ということになり、玉樹 真一郎氏( インタビュー:Wii開発が自分を変えた。地元に帰って気づいた豊かさ)の新書を取り上げることになりました。玉樹氏のことは、任天堂 Wiiの開発エピソード( インタビュー :Wiiプロジェクト〜Wiiが誕生したいくつかの理由 )で知っていました。また、Twitterでも話題になっていて、気になってた書籍がテーマです。
ユーザーが「つい」行動に起こしてしまうことは、「つい」行動に起こすように設計する解説書のような内容かな?
さっそく、読んでみました。
■ハードウェアとソフトを作る任天堂
新しく流通するハード機を作るということは、世代や文化認識・慣習など 膨大な検証を経た大きなプロジェクトでしょう。
そういったキャリアを背景に持つ著書の本だけあって、本の構成・ページめくり体験までもが、楽しい作りだったことも特筆すべき点!ちょっとした仕掛け絵本のように 読み進めることができます。
■本の中で、面白かったところ
読んでいく中で面白かったところは、まず、実在するゲーム(マリオ、ドラゴンクエストシリーズ、風ノ旅人、ラストオブアス)など具体的なあるシーンのねらい、ユーザーに決めさせる、選ばせる意味の説明部分です。
なぜ、ドラクエシリーズでは 大変な戦いのあとに「ぱふぱふ」という 攻撃力や経験値に関係ないイベントが大切にされているのか、魔王は「世界の半分をやろう」と主人公に問うのか。一緒に旅するパートナーに苛立たせられるのか。タブーとされるイベントが、プレイ上「休息」を担っていたとことを知ります。
エピソード記憶と物語についての章は、特に興味深かったです。
◆第3章:物語のデザイン
収集している間、プレイヤーは同じような体験を繰り返し、自然と成長する
◆終章:私たちを突き動かす「体験→感情→記憶」
「体験→感情→記憶」という流れが、常に私たちの人生を突き動かしている
最後の章では、こういった考えを、普段の仕事や思考に応用するための、心構えや取り組み方が書かれています。
◆巻末:「体験のつくりかた」の使いかた(実践編)
考えること・プレゼンすることのヒントは、じつに具体的に体系化されて描かれます。
1考える、2話し合う、3伝える、4設計する、5育てるの企画を考える上での心構え・具体的な解決方法が指南されます。チーム全体がこの意識を認識できたら企画会議も楽しそうです。
■なぜ「つい」泣いちゃうのか?
ゲームの世界では、記憶を強く印象付けるるために、「名前をつける」「結婚相手を選ばせる」といったプレイヤーのプライベートを引きずり出す手法も語られます。
映像のストーリーが、続けて見ることができるものだとすると、ゲームプレイには<< 操作 >> が含まれます。つまり、次に操作するタイミングが5分後だったり、3日後だったり、3週間後だったりする。
だから、 <<操作>> によって感情が引き起こされていかなければならない。
映画を見ている中で、「つい」涙がこぼれる(最近は映画「トイストーリー4」の後半で、止めどなくぽろぽろと…)のと、ゲームで「つい」涙が出る・・・は体験の構造がまったく違うものなんですねぇ。
プレイヤーは自分だけの物語を作って、成長を感じて次の行動を起こします。本の中の表現をお借りすると それが、「体験→感情→記憶」が引き起こされる体験というのです。
■私とゲーム体験の歴史
ここからは個人的なゲームの話です。
子どもの頃プレイしたものは、ドラクエシリーズ・ストリートファイター2・星のカービー・ポケモン・スペースチャンネル5 がお気に入りでしたが、大人になってからはノベル系が気に入っています。
ノベル系はこれら「体験→感情→記憶」が分かりやすく散りばめられています。
例えば、スマホゲームの『Lifeline』(記事:「Lifeline」これはデジタル版ADVゲームブックだ!)や、冒険ゲーム『Avo!(アボ)』(記事:ARゲーム『アボ』はかわいいだけじゃない 細部まで工夫されたインタラクティブ性に注目)
去年は特に クアンティック・ドリーム社のアクションアドベンチャーゲーム『Detroit: Become Human』にハマっていました。
このゲームは、今から19年後の未来 2038年のデトロイトが舞台のPlayStation4作品。技術が進歩し、いたるところで人間そっくりのアンドロイドの姿を目にすることができる世界が描かれています。近い未来、やってきそうな未来の中で生活するゲームです。何人にも感情移入し、何千もの選択肢と何十のエンディングが待っています。
この作品はゲームプレイに必要な << 操作 >> と、<< 映画のような映像体験 >> が混ざった ゲームとして、オープンシナリオ・アドベンチャーというジャンルというようです。
もし、この本の著者がオンラインゲームやPCゲームを作るなら、どんな世界観を作るでしょう。個人的に興味があります。
■日常風景に、ゲームルールを作った日
昔、大学1年生の夏休みの短期バイト「英会話学校のティッシュ配り」はゲームのように感じました。
色々とひとりで試行錯誤した結果、
・踏切前にある "たい焼き屋" の前にスタンバイする(学生の視界に入る)
・人の流れの右手側に立つ(タイミング次第で通行人の右手前に差し出す)
・良いボリュームで「おはようございます」と発話する(アテンション)
という方法がもっともティッシュを捌けて、バイト先でこの方法が流行ったことがありました。
時間の都合がよく、旅行代を貯金するためのだけの体験だけど、仮説を作って、実行して、結果が出して少し満足したことは <ゲームルールを作ったかのような記憶> になっています。
ひょっとしたら、このような個人的体験の積み上げが、新たなゲームルールの創造に繋がるのかも、、、しれません。(本書の中の 応用編1:考える に書いてあった、「個人的なプライベートなことを伝える」をやってみました)
■ ゲームを設計の凄さは
ゲーム設計って、なんとすごい仕事でしょう!
ゲームデザインを作る方々は、ヒトの感情を揺さぶることを構造的に理解・デザインし、プレイヤーの選択に未来を選ぶステップを踏ませること。
プレイヤーの心の機微を考察した上で、それらを大胆に削ぎ落として記号化する世界、そりゃ〜 現実生活にも影響が出るよ。
本の最後には参考文献やサイトがまとめてあり、気になるサイトはチェックすることができます。
思い出のゲームを久しぶりにやりたくなる本でした。