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たなしゅう短編小説集

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短編小説を書いています。10分くらいで読めるかと思います。ほら、移動中とか待ち合わせとか寝る前とかに読むのに丁度良いよね。スキとか感想を貰えると嬉しいです。ちょっと不思議な話。
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#師走

短編小説|立っているだけで。

短編小説|立っているだけで。

【1】

「隊員番号C10559です。明日の勤務指示お願いします。」

昼の日課。支社に電話して明日の勤務指示を貰う。

「明日の現場は…件名…集合場所は…集合時間は8時。モータースポーツのイベントの警備です。」

警備員になって、1年が経った。

こんな時勢で失くならなくて、無くならない、止まらない。そんな仕事だから選んだ。

売れない芸人。

名もなき存在。

バイトすらままならないと生きるこ

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短編小説【師走マン・レディー、路地裏を疾走する】

【1】12月半ば、夕暮れ、私は自転車で師走マンを思いっきり轢いて吹っ飛ばした。
私、弟月遙佳《おとづきはるか》は自転車で坂道を下りながら、自宅に帰っていた。

今年も終わる。
私は今年も、何者にもなれずに、誰の役にも立てないまま、年を越そうとしている。
夢らしい夢も目的もないまま、何となく東京に来た。
東京に来て、何年になるだろう。
何か見つかると思って、東京の短大に進学して卒業して。何も見付から

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