短編小説【師走マン・レディー、路地裏を疾走する】

【1】

12月半ば、夕暮れ、私は自転車で師走マンを思いっきり轢いて吹っ飛ばした。

私、弟月遙佳《おとづきはるか》は自転車で坂道を下りながら、自宅に帰っていた。

今年も終わる。
私は今年も、何者にもなれずに、誰の役にも立てないまま、年を越そうとしている。
夢らしい夢も目的もないまま、何となく東京に来た。
東京に来て、何年になるだろう。
何か見つかると思って、東京の短大に進学して卒業して。何も見付からず何も続けられず、地元に帰る勇気もないし、お金もない。

何処にでもいる二十代半ばのどうしようもないフリーター。  

何か誰かのためになる事をする力もないし、自分のために何かをやる勇気もない。

誰かの役に立ちたい。

私は役立たずじゃないって思いたい。

何か変化があれば良いなと、この都心から少し離れた町に春の頃に引っ越して来たけれど、変化は何もなかった。私が変わってないんだから町が変わっても仕方がないよね…そんなことをボッーと考えて、坂道をシュイーンとくだっていると…

キキキキキキイィイイィイイィー!!!!!!!!!

どぉおおおおーーーーぅおおおん!!!

坂の終わり、交差点を飛び出してきた人を思いっきり…轢いた。

自転車を通して感じた人の重さはイメージよりは軽く、目で見て吹っ飛んでいる彼はイメージよりもさらに軽くて、ふわりと宙を舞っている。

現実味のない重さを感じてゾッとしている、そんな永遠の様な刹那、

ドタッ!

という重い音を耳が拾い、これは紛れもなく現実なんだと思い出させてくれた。

「だ、だ、大丈夫ですか!?」

自転車を放り出して、彼に駆け寄った。

彼は電柱に頭をぶつけたのか、反応がない。

彼は覆面をしていて、そのど真ん中に『師走』と書いている。大きなマントをしている。そして両手に大きな魚を持っている。なんか昔呼んだラッキーマンって漫画に出てきそうなキャラクターだなぁと呑気に思った。

「あ。ん。くぅぅぅ。」

頭を手でおさえながら、声にもならない声で彼は返事をしてくれた。

「あ!大丈夫ですか?起きれますか?」

意識はある。とりあえず、少しホッとした。

「あ、…はい。…すみません。」と師走マンが言った。

自転車と歩行者の衝突。私が確実に悪いはずなのだけれど、師走マンは何故か謝ってくれた。どうやらヤバい人ではないのかもしれない。知らぬ間に私の中でこの人は師走マンと呼んでいた。

「えっと!救急車、呼びましょうか?」と私が言うと大丈夫、でも足を捻挫したかもしれない、胸も強く打ってしまったかもしれないと師走マンが言う。彼がそこにある神社まで連れてって欲しい、其処で休ませて貰おうと言うので肩を貸して一緒に向かった。

神社の入り口にバス停があり、そのベンチになんとか彼を座らせた。

持っていたお水を渡すと、一口飲んで、「お急ぎだったようで、付き合わせて申し訳ないです。」と彼は言った。こちらこそすみませんと私は言った。そして、急いでいたのではなく、ただ、ボッーと考え事をして坂を降っていたなんて言えない。

「いてて。立てないですね。困った。これでは。この新巻鮭を届けられない。私は師走マン失格だ。」

状況が掴みきれない。

新巻鮭を悲しそうに抱えている師走マン。

師走マン。

師走マン失格って何?

師走マン??

あ。

やっぱり師走マンなんだ、当たってた。

私のせいで失格だなんて、ごめんなさい。

え。やっぱり、師走マンじゃん、いつから、私はこの人を師走マンって呼んでいたっけ?あれ??

えぇ!?


私の頭の中は、ハッキリと混乱している。非現実的な彼を受け入れようとしつつも拒絶している自分がいる。

「あの。ごめんなさい。その魚、なんだっけ。」

「あ。この新巻鮭ですか?」

「あ、はい。それを届ける所だったんですね。」

「えぇ。すぐ其処のお宅になんですがね。足が不自由なお婆さんのおうちにね。はい。」

「えっと。その格好で?」

「あぁ。はい。師走マンなので。」

「…師走マンですもんね。」

「師走のお悩み解決!シュワッチ!お見知りおきを。」

ポーズを決められても、聞いたことも見たこともない。

「ごめんなさい。勉強不足で存じ上げなくて。」

「あぁ。はは。この町の御当地ヒーローみたいなもんなんで。」

「私は今年、この町に引っ越して来たから、知らなくて。ごめんなさい。」

「知ってる方が不思議ですよー。」と彼は笑ってくれた。

お年寄りも多いこの町の人を師走の忙しさから守るために、いつからか生まれたボランティアヒーローが師走マンだと教えてくれた。歴代何人もの師走マンがいるらしい。

「この新巻鮭をもう少し行った所のお宅に届けなくてはならないんだけどねぇ。新巻鮭はね、縁起物でね。災いを避ける(鮭る、さける)と言われてるんだ。」

え、思いっきり、私に跳ねられたよね。え。私、このままじゃ災いじゃん。それはちょっとやだ。仕方ない。

「あ!あの!その鮭!新巻鮭!私が届けてきます!何処に届けたら良いか教えてください!」

「え?いや、でも。」

「でも、歩けないでしょ!早く届けないと!」

「あぁ。はい。でも、新巻鮭は塩漬けだから、そこまで焦らなくても。」

私は新巻鮭を受け取り、自転車の、さっき凹んだ前カゴに入れた。斜めに入れたら新巻鮭が安定した。よし。

「よし!届けてきますね!ここで待ってて!」

「あ、んー。じゃあ。これを。」

師走マンが【師走】と書かれた覆面とマントを私に渡してきた。師走マンの中身は白髪の50歳ぐらいの男性。おじさんだった。とても優しそうな顔立ちだが疲れていて肌荒れもひどい。

「届けさせるのに申し訳ない。師走マンとして、届けてあげて欲しいんだ。皆、喜ぶから。これを。恥ずかしいかな。」

少し笑った彼が、真剣な目をしたから、つい私も何となく師走覆面を被ってしまった。

マントを付けるのは人生で初だった。

なんだろう。凄い恥ずかしいけれど、凄い力が湧いてくる様な気持ちになった。

何だか覆面を被って見える景色は全然違って見えて、マントを羽織った身体はパワーが漲って来るように感じて本当にヒーローになったかの様に感じて、不思議な感覚だった。

「二つ目を曲がって路地裏に入って抜けた所の赤い屋根の家だからね。」とおじさんが言った。

そして続けて…


「行け!師走マン!
いや!
師走マン・レディー!!」


おじさんがベンチに腰掛けながら叫ぶと同時に自転車を私は自然に漕ぎ出していた。

12月半ば、茜さす夕暮れ時。午後五時のサイレンが鳴っている。

路地裏で、前カゴの新巻鮭とマントと、マスクからはみ出した黒髪が揺れていた。



【2】

芳一葉のIDOLチャンプ

私は芳一葉という名前でアイドル活動をしている。今はもうアイドルというか、タレント。

売れない三十路アイドルだった私は、ひょんな出来事から【怪談『耳なし芳一』の様に身体に言葉を沢山書くグラビアアイドル・芳一葉】としてバズって売れた。

具体的に何をしたかというと、ファンの方の書きたい言葉を身体に書いてもらってチェキをしたり、企業さんのPRを身体に書いてグラビアや動画を撮ったり。
怪談界隈のイベントにも呼んで貰える様にもなった。
我ながら訳がわからないけれど、寺社仏閣での仕事も貰える様になった。

イメージしていた売れ方ではないけれど、タワーマンションに住める程になった私は芸能界でのポジションも獲得出来てきた。訳のわからないアイドルになっちゃったけど、1発屋にならずに、今年もなんとか年を越せた。

売れて悲しい事もある。私のせいで【変なコンセプトを持ったアイドル】が沢山増えた。

売れるためにキャラクターが欲しいから。認められたい。見てもらいたい。私はここにいるのを知って欲しいから。

私の様に運良く売れたらいいけれど、売れなかったコンセプトアイドルは黒歴史以外の何物でもないモノになってしまう。私達は知って貰ってナンボだ。頑張っても頑張っても、知っても貰えない、見て貰えないSNSの投稿はインターネットの闇に堕ちていく。

だから、恩返しも兼ねて、YouTubeで番組を始めた。

【芳一葉のIDOLチャンプ】という番組。私の様な何かしらのコンセプトを持ったアイドルに来てもらってトークをする番組。ここから人気が出たり、その子のSNSに視聴者が行く導線になれば良いなぁと始めた。

一人でも多くのコンセプトアイドルや色んな人の活動が多くの人に知って貰えるように。そして、皆がニコニコと出来る時間が少しでも増えれば良いなぁって。

予想外だったのはアイドルだけではなく、色んな変わった女の子についての情報が私のところに集まる様になったこと。今はコンセプトがとか、アイドルがとかでなくても一億総発信者社会だから、アイドルでもない人気者が本人の意図とも違うところから現れる。

皆がアイドルやヒーローを求めている。こんな時代を乗り越えるために。

《師走マン・レディー》もその一人だった。

お正月、三が日の仕事も無事に終わり、少し遅いお正月休みを頂けた。沢山来て溜まっていたDMやYouTube番組のコメント欄を読んでみると

「師走マン・レディーが今ヤバいです。」
「番組に師走マン・レディーを呼んでください!」
「一葉さん!師走マンを知らないのに師走マン・レディーがいます!」
「師走マン・レディーって!デビルマン・レディーかよ!」

と言う、【師走マン・レディー】に関するコメントが溢れていた。

コメント読んでいくと、どうやら、とある町に師走マン・レディーが現れて【師走のお悩み解決!シュワッチ!】という適当なキメ台詞と共に師走の悩みを解決してくれるという噂というかSNSのツイートや動画が流行っていた。

新巻鮭?をカゴにいれて自転車で走る覆面をした女の子。何こいつ的な感じでバズっている。

覆面、マントにスカートで全速力で疾走する姿は仮面ライダーの様な雰囲気の格好良さまで感じる。

マスクをしているが、美人でスタイルが良さそうな印象を動画からでも受ける。マスクからこぼれてしまっている黒い長い髪も、とても綺麗。


ハッシュタグ【師走マン・レディー】で幾つかの動画が出てくるTikTokの動画を見て、思わず笑ってしまった。

師走と書かれた覆面に赤いマントをした、女の子が草むしりをしていたり、お婆さんが御茶だよと言って二人で縁側で休憩していたり、お爺さんの倉庫を片付けてあげていたり。年越し蕎麦の炊き出しまでしている。

スマホをスライドする度に師走マン・レディーがお年寄りの師走の悩みを解決してあげている。

何だろう。

この子。

可愛い。

覆面やマントをしていても伝わってくる品の良さ、スタイルの良さもだけれど。

何が可愛いって。

師走はとっくに過ぎて、お正月すらも終わろうとしてるのに師走マン・レディーをしている。阿呆さと健気さ。

お年寄りを変な格好で助けている彼女の動画を幾つか観ている内に何だか、私が【芳一葉】に少しずつ成っていった時の様な雰囲気を感じて。

他人に思えなくなってきた。

少しずつ、彼女のファンになっている自分がいる。

「師走マン・レディーをIDOLチャンプに呼んで話してみたい!」とマネージャーにLINEをした。

マネージャーから彼女自身はタレント等ではなく、SNSをしていないこと、目撃した人がSNSで拡散して、この年末年始でネット上で変な感じに人気になっている人物であると教えてくれた。

なにそれ、本当に人気者になる地方アイドルの見つかり方みたい。

これは。

この子は。

会いに行くしかない。

興味が湧いた私はコートを羽織って師走マン・レディーがいるという町に向かった。



【3】 

正しく優しく在るために。

私が七草粥と年越し蕎麦の材料をスーパーで買い、自転車のカゴに入れていると、「貴女が師走マン・レディー?」と後ろから声を掛けられた。

そこにはコートを羽織り、サングラスをした女性が立っていた。

「あ、はい!師走マン・レディー!参上です!シュワッチ!」と答えた。

師走マン・レディーと呼ばれるのも流石に慣れてきた。

「私は芳一葉!アイドルとかタレントをしています!貴女は何をしているの?」と聞かれた。

「ヒーローさせて貰ってます!今は三丁目のお婆ちゃんが体調が悪くて大晦日に食べれなかった年越し蕎麦を食べたい、七草粥も毎年食べているんだと言うから一緒に作って食べようとなったので、スーパーに買い出しをしに来たんです!」

咄嗟に答えてしまった。何で私はこの人にちゃんと全部伝えてしまったのだろう。

「年越し蕎麦と七草粥を同時に!やばっ!とても良いねぇ!」と芳一葉さんは言った。

「あ、えっと、ごめんなさい。何でしょうか?」

三丁目のお婆ちゃんが待っているから、早く行きたいのだけれど。

「急にごめんね!単刀直入に言うね。あの、私、タレント活動とかYouTubeもやってて、色んなアイドルさんの活動を紹介する番組やってるの。」

「すみません。テレビは観るんですけど。YouTubeとかは観ないです。」

「うん。師走マン・レディーは。師走で困ってる人を助けるヒーローをやってるんだよね?」

「あ、はい。それも諸事情ありまして、年末から代理というかでやってて。」

「短期バイトみたいなこと??」

「あ、いや、お金は別に貰ってないです。」

「あ、そうなんだ。あのね、SNSで貴女、めっちゃバズってるよ!知ってる?」

「え!?」

「全速力で裏路地走ってるやつとか、草むしりしてるやつとか。」

「知らなかったです。本当だ。うわ。えぇ。」

こんな格好で町中にいたら、目立つとは思っていたけれど。こんなことになってたのか。

「私のやってるYouTubeの番組にね、出てほしいの。なんか、勝手にシンパシーというか、親近感を感じちゃった。単純に貴女に興味があって。お話を聞きたくて。」

「あ、お断りします。」

「断るのはや!どうして?」

「私は別に有名になりたいとかはないですし。」

「うん。町の人が困ってるのを助けたいんだよね。」

「はい。私、誰にも必要とされた事がなくて。東京に来てからも何処にでもいるフリーターをしてて。」

「そっか。」

「この年末年始だけだけど、この町のお爺ちゃんやお婆ちゃんに必要として貰えて嬉しかったんです。」

「うん。すごくいいじゃん。」

「他人を助けるって、勇気がいるんです。私なんかが良いのかな…とか。お節介だったらどうしようって思っちゃう。でも何故か、師走マン・レディーに変身してなら、ヒーローとしてならお手伝いしやすくて。」

「別人になれるんだね。わかるよ。私も身体中に言葉書いてさ、【芳一葉】に変身しているからやれるってこと、沢山あるもん。」

「はい!でも、私は一葉さんみたいに自信もないですし、タレントになりたいとかもないんで、番組には出たくないです。」

「私も別に自信なんて無いよ。あと、別にスカウトに来たとかじゃないよ。勘違いさせてごめんね。貴女が魅力的だから話してみたくて。」

「ありがとうございます。」

「そっかぁ。んー。でもヒーロー活動はこれからも続けるの?」

「…。つ、続けていけたら良いなって思ってます。何だか、楽しいし、居場所みたいな感覚にもなってきてるから。でも、もう師走じゃないから。辞めなきゃとも思ってて。師走中にやれなかった頼まれ事を今は宿題としてやらせて貰ってて。」

「名前はいいんだよ!夏じゃなくてもさま~ずじゃん!やりたいかだよ!師走過ぎてて、まだやってるんだからやりたいんじゃない?」

「…はい。やりたいです。」

「お金は貰えてるの?」

「ヒーローは仕事じゃないんで。…お金は今まで通り、アルバイトもします。」

「ずっとアルバイトしながらやるの?大変だよ。ちゃんとさ、ヒーローを仕事にしなきゃ!良い活動なんだからさ!お金を貰うことは悪いことじゃない!」

「でも!困ってる人からお金貰うのは違います!」

「何かして!お金を貰うことは!!!
違うわけがない!!」

「えええ!!」

お。大人が。綺麗な女の人が街中で大声で叫ぶことでは無さすぎて、気押された。

「で、でも、正義のヒーローはお金なんて貰っちゃ…!駄目です!!!!!!」

「正しく!優しく!在り続けるために!

夢を追うにも、
人を助けるにも、
ましてや、正しく在ろうとするなら!!

お金は!!!

要る!!!!!!!」

「はい!!!!!」

あまりにも当たり前のことを大声で仁王立ちで言われた私は、そんな当たり前すら見てみぬフリをしていたことを、あまりにもシンプルな返事をしている自分の言葉で気がついた。

「真のヒーローは!バイトしない!」

「はい!」

「真のヒーローは!お金に困らない!」

「はい!確かに!」

「私が師走マン・レディー2号になってあげる!」

「ええええええええ!?」

2号になる!?って、何?!

「参謀よ!」

「参謀なんですか!?」

オウム返ししか、できない。

一葉さんは少し、落ち着いたトーンで話し出した。

「私にはね。師走マンって存在は、この町の呪いにしか思えない。」

「呪い?」

「本当は【この町の誰か】が助けなきゃいけない弱い人達を非現実的な存在、例えばヒーローが助けてくれたらなぁ、って言う町の皆の弱さやズルさが産み出した呪いが師走マンなんだと思う。」

「そんな。」

「皆が師走マンに押し付けたの。年老いていく町が臭いものを師走マンなんて、訳のワカラナイ幻想に押し付けたの。」

「そんな言い方。」

私は何故か。

私が思いっきり自転車で吹っ飛ばした、前・師走マンが疲れた顔をしていたことを思い出した。

彼は町のために闘う程に、エネルギーを奪われていたあんなに体重も軽くなってしまっていたんだとしたら。

彼は。

私は。

何と闘っていると言うのだろう。

「師走マン・レディー?いい?貴女は素晴らしいの!その呪いを、ファンタジーなんかでごまかさずにね、ちゃんと現実として皆で受け止められたら、もしかしたら、本当のヒーローに貴女はなれるかもよ?」

「どうすれば、呪いは解けますか?」

「私がレディー2号になって、レディー1号の仕事を手伝いつつ、取材させて!それを動画にして、素晴らしい活動を世界に伝えるのはいいでしょ?マネタイズもしてあげる!そしたら、もっと活動の幅も拡がって助けられる人も増えるかもしれないよ!」

「…。2号!参謀もマネタイズも、カッコいいです!」

「よし!じゃあ、1号!まずは一緒に年越し蕎麦と七草粥作るわよ!!あと、全体的に可愛い変身セットにしましょうね!」

「はい!シュワッチ!」


【4】

師走マン・レディー、路地裏を疾走する。

YouTube番組《IDOLチャンプ 師走マン・レディー~レディー誕生から七草粥編》の放送から半年程が経った。

五月半ば。

師走マン・レディーはとても人気が出て、日本中のヒーローになっていた。 

彼女を説得して、師走マン・レディーの活動報告のためのYouTube『師走マン・レディーVlog』を開設し、ネット通販サイトで『師走マン変身セット』を販売する流れを一緒に作った。

彼女の師匠である前の師走マンがOKならと言う事になり、許可も貰っての活動。いや、歴史あるんかいというのも人気が出た一因かと思われる。  

彼女がフリーターではなく、少しでもヒーローとして活躍する時間を増やすためにマネタイズをした。お金儲けとして、ではなく、資金を稼ぐのもヒーローとして必要なことなんだよと伝えた。

必要以上にYouTubeやグッズが儲かったら全て恵まれない人達に寄付したいと彼女が言うので、その流れも作り、それもまた動画で公表した。

直接、助ける人からお金を貰わなくて良い。

それでいて、ヒーローもちゃんと対価を何らかの形で貰って暮らせる様に、皆で互いを支えていける世界。

そうしないとヒーローにばかり闇が当たる。

優しい彼女の様な人が誰かのために生きられる可能性を創り、それを発信する。


YouTubeで放送後、YouTuberを初めとする新たな師走マンが日本中から彼女の町に現れて、彼女の活動を手伝ってくれる様になった。メディアでも取り上げられて、それから、日本各地に帰っていった師走マンや師走マン・レディー達が自分の町でも活動を始めたと聞いて捨てたもんじゃないなと思う。

新しいヒーロー像を彼女は見せてくれている。

弟月遙佳からLINEが来た。

「一葉さん!2号!今度、畑仕事を手伝う事になりました!お手伝いに来てくれませんか?農家の方が足を悪くしちゃって。どうしてもこの人は助けたいんです!」

と。

「お、何?豆?行く行く!」

「芋です!種まきです!」

「わあ!じゃあ収穫は秋か!師走マン・レディー二号!秋もいっちゃう!」

「わ!よろしくお願いします!」

「今日は何するの?」

「今日は三丁目のお婆ちゃんに琴の手入れの仕方、教えて貰ってきます!美しい音色が出るように頑張ります!」

彼女は、弟月遙佳は年がら年中、あの町の人達を助けている。彼女を人は師走マン・レディーと呼ぶ。

今日も師走マン・レディーは路地裏を疾走する。

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