鼻毛
鼻毛が持つインパクトは、その物質自体の矮小さに比べて余りある。
どんなにあなたが容姿端麗でも、鼻毛が出ているという事実一つが性的魅力を多大に失わせる。
百年の恋も一時に冷めるという言葉があるが、その語源は好意を抱いていた異性の鼻毛が飛び出ているのを見た人に依るのではないかとさえ思う。
たった毛の一本他人に見せるだけでなぜこうも印象が変化するのだろう。本来、毛とは自然なものであり、見えるからと言って人に特別不快な印象を与えるものではない。(普通公衆の面前では公開しない、陰毛やその他の毛は含まないが)
では、鼻毛は陰毛や脇毛など、その部類の毛に属すために見ると不愉快さを覚えるのか。ちょっと違うかな、と思う。
要するに、鼻毛を人に見せないのはエチケットだ。人前で放屁を憚るように、ゲップを憚るように、他社の存在を意識していれば慎むような行為をあえてする人に、人としての魅力を(個人的には)感じない。その行為の下品さに加えて、「ああ、自分の前ではそれが許されると思っているんだな」という感じを受け、自身の存在があまり慮られていない印象を持つ。
鼻毛なんてものは、一日のうちに急激に伸びない限り、多少身嗜みを気にしていればすぐに気づくことができる。つまり、それをしていないことが、他者に対する無遠慮な態度の表れであり、特にそれが異性とあっては、その軽薄さが特別な関係に陥ることを防ぐストッパーになるのではないか。
こんなことを言ってはいるが、何かよくわからないタイミングで不意に自分の鼻毛が飛び出ているのに気づき、戦慄することが稀にある。そしてそれを認識できたとしてもすぐに対処するのは難しいことが、鼻毛の最も厄介なところである。
鼻毛が持つ負の威力は凄まじい。そして、陰毛や脇毛や髭などよりも遥かに実用的な側面を持っているがために、鼻毛脱毛なんてことは中々できないのも困りものだ。外から見えないかつ、生理的な役割はほとんど失われないような、効率的な鼻毛の配置を見つけてはもらえないだろうか。
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