「映画かよ。」の解説かよ。 Ep39 ハプニング|そんな中で、ミノル、最強説
2023.2.11 update
(写真は全て駒谷揚さんから提供)
3シーズン目に入っているYouTubeドラマシリーズ、「映画かよ。」。Ep39「ハプニング」が配信されている。
Ep39 ハプニング
ミノル(伊藤武雄)は、映画プロデューサーの鶴野(宮村アキラ)から、取引現場の撮影を依頼される。ブリジット(樹月麗奈)という映像作家が作った「Last Night in Seoul」という短編作品をNFT(非代替性トークン)として買うのに、本人から購入した証拠となる映像が欲しいというのだ。デジタル資産としての価値にしか興味がなく内容も観てない鶴野だが、準備不足の企画会議で、ミノルから聞きかじった「Last Night in Seoul」のあらすじをプレゼンしてしまい、内容を気に入った社長からリメイク権を取ってくるように命じられる。アミ(森衣里)の特殊技能で、ブリジットの行く先を突き止めたミノルと鶴野は、映画好きが集まるBar Markasで待ち伏せをするのだった。
バイプレーヤーたちの華麗なる競演
シーズン3の名物ともなっている、バイプレーヤーたちの華麗なる競演が今回も楽しい。Ep35で登場した、基本何でも人任せにして文句を言うだけのプロデューサー鶴野を、宮村アキラがケレン味たっぷりに演じている。また、ブリジット・リンが演じる「恋する惑星」のドラッグディーラーの女を彷彿とさせる、役名もそのままだが、ブリジット役の樹月麗奈は、ミステリアスな佇まいで、危険な雰囲気をぷんぷん匂わせる。さらに、ちらりと登場するだけなのに、強烈なビフ感を漂わせ、その場をかっさらうインパクトを残す石山将隆。また、これまでの積み重ねも相まって、もう出てきただけで笑いが取れる駒谷揚監督役のしんごと、今回もバイプレーヤーたちが作品の魅力を爆上げしている。
ちなみに、ネタバレになるが、今回は劇中劇として、「映画かよ。」誕生秘話のような話になっている。そして、そのネタとして使われる「Last Night in Seoul」は、先日、本作クリエイターの駒谷揚監督が、韓国で行われた映画祭に出席した際に撮影した、「映画かよ。」Ep37とは別に、1日で脚本を書き上げ、現地で知り合った俳優たちと撮った作品だそう。最後にちょっとだけトレーラーが流れるので、それもお楽しみいただきたい。
そんな中で、ミノル、最強説
そんな中、今回ようやく、われらが主人公、ミノルが物語を引っ張っていく役割を久々に与えられている。シーズン3に入ってから、妙な知り合いが次々と登場し、その交友関係の広さはさすがと感心させられることはあったが、基本彼らに振り回され、ちらかされた後始末をさせられているばかりで、「ミノル、なかなか活躍しないなー」と思っていたので、個人的にはワクワクする回になった。それにしても、これだけ多くの強烈なバイプレーヤーたちに囲まれながら、埋没しないミノルというキャラクター、それを演じる伊藤武雄、やはり最強だろう。
キャラクターは多かれ少なかれ、クリエーターの駒谷監督を投影したものだ。ただ、先日のユーチューブライブでの舞台裏の話によると、脚本は数日前に渡され、現場でもゲリラが基本なので、撮影はほぼぶっつけ本番。演技の要望、ダメ出しも監督から出されるといっても、人物を印象付ける衣装も含め、かなりの部分、役者に任されている。そんな状況では、キャラクターを作りこむ時間も限られるので、自身が積み重ねてきたものを瞬発的に出すしかないし、そこでは多くの素の部分が出てくるはずだ。
駒谷監督が計算し尽くした上で、そこからケミストリーのようなものが生まれることを狙っているのかどうかは分からないが、観ている側としては、それこそが面白いし、だからこそ、それぞれのキャラクターの強いきらめきとか、爆発力みたいなものが出ているのを感じる。一方で、シリーズが長くなってきて、登場機会が多い役では、そうした瞬発力には頼らず、それぞれの持ち味を加わえ、成長というか、きちんとこの「映画かよ。」の世界の中で、時間と経験を経ている様子を見せなくてはならないので、役者としてはなかなか大変だろうと思う。
主人公であるミノルを演じる伊藤には、キャラクターを輝かせ続けるために、かなりの負荷がかかっているはずだ。登場人物の中でも、ミノルという人物は、振り幅が大きいながら、本気と遊びのバランスをうまくとっているキャラクターだと思っているが、それが成り立っているのも伊藤の確かな演技力がベースにあるからだと思う。
日常生活をどうしても映画作品の何かに当てはめてしまうミノルは、ただの映画オタクというには、あまりにも極端だが、仲間思いで人間味もあって、多くの人から共感を得られるように作られている。ただそうやって共感させておきながら、実は普通の人ならば、日常が本気で、映画が遊びであるべきところ、ミノルの場合、それを逆転させているところに面白さがある。そうしたツイストが効きながらも、「こんなやついねーよ」と、一言で片付けられることをうまく回避しているのも伊藤の手柄だ。「映画かよ。」がこれまで世界各国の映画祭に出品され、さまざまな賞を受賞している中で、伊藤に男優賞が数々贈られているのも、その演技力の確かさが評価されている証だろう。
以前、伊藤がどこかで、ミノルならばこういうことをやるのではないかと提案し、駒谷監督に採用されることも、却下されることもあると語っていた。つまり強烈な映画オタクである監督と、映画好きであるがオタクではなさそうな伊藤が、たがいに押したり引いたりすることで、ミノルの「本気」と「遊び」のバランスをうまく作り出しているのではないだろうか。さらにその二人の共犯関係が最高潮に達して、今回の「時計仕掛けのオレンジ」のような、これを撮りたくて仕方がない監督と、面白がってアレックスに成り切る役者の息がぴったり合っているからこそ生まれるシーンを見ると、最強かよ!とつっこみたくなる。そして、監督と主演俳優のせめぎ合いが続く限り、ミノルには伸び代が見えるので、ワクワクするのだ。
「映画かよ。」のリファレンス
駒谷監督はこんな人↓
「映画かよ。」に関するレビュー↓
トリッチさんによる
「カナリアクロニクル」でのレビュー
Hasecchoさんによる
「映画かよ。批評家Hasecchoが斬る。」
YouTube「映画かよ。」のコミュニティーページで展開
おりょうSNKさんによる
ポッドキャスト「旦那さんとお前さん」
*別の知り合い映画とは、ニューヨークを拠点に活動する映画監督、堀江貴さんの「最後の乗客」のこと。宮城出身の堀江監督が、東日本大震災から10年を経た被災地を舞台にした物語。僕も、舞台の中で使われるプロップを作るという、ものすごく小さな部分でお手伝いをしました。
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