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アメリカで車の免許取りに行ったら、魔女みたいな教官に当たった話

免許の更新に「免許センター」へ行った。
前回の免許更新から何度か警察に捕まったので、
今回も、しっかり「違反者講習」も受けた。

これまで、「違反者講習会」を受けなかったことはないくらい毎回出席しているが、「違反者講習会」で見せられるビデオは、毎回違う。
何年間も、惰性で同じものを流し続けないところに、
免許更新センターの意気込みを感じる。

僕が毎回、交通違反をして、違反者講習を受けなければいけないのは、
たぶん、僕が、自動車学校に通ったことがないからだ。
若い時、外国でちゃちゃっと免許をとったために、
運転における「基本のキ」「運転のウ」がなっていないのだと思われる。

僕が免許を取ったアメリカには、運転免許を取るために、
教習所に通うという習慣がない。
一人で免許センターに行き、筆記試験を受けた後、
親の車を借りて、公道などで練習し(親が隣に乗っておけば公道でもOK)、
実技試験を受けて合格すれば、ドライバーズライセンスがもらえる。
日本の自動車教習所の教官は、
鬼のように高圧的な態度で教えてくると聞いていた僕は、
ぜひ、アメリカで免許を取って帰ろうと考えた。

パソコンで受ける”ペーパー試験”をクリアし、
知り合いに車を借りて、公道で1,2回ほど運転した僕は、
一発実技試験を受けに、免許センターへ向かった。

人に車を借りて、公道を1,2回ほど走って分かったことは、
縦列駐車は難しいということと、
1,2回の練習で合格するのは難しいということで、
なんとか、担当の教官が優しい人であれば望みはつながると思ったのだが、
試験センターの建物から僕の車に近づいてきた教官は、
魔女みたいな顔をした女性だった。

僕が東洋人だからか、西洋人の一定数の女性は、
魔女みたいな顔に見える。
多分、ぼくが西洋人ほど、
西洋人の顔つきの見分けができていないためだと思われるが、
かぎ鼻っぽい鼻をした人を見ると、
皆、ひとくくりに「魔女みたいだ」と認識してしまい、
その認識から、魔女みたいな顔をしている人はきつい性格だと
思いこんでしまうふしがある。
英語の先生もそうだったし、ホールマークの店員もそうだった。
そして、その教官も例外ではなかった。

僕が運転席に座ると助手席に乗り込んでくる、その魔女みたいな教官は、
手元のチェックシートを見ながら、
僕にキンキンする声色で指示しながら、運転技術を細くチェックしていく。
左折。
右折。
一時停止。
坂道発進。
スクールバスへの対応。
縦列駐車。

氷のような視線でこちらの一挙手一投足をにらみつける魔女は、
僕のぎこちないハンドルさばきを見ながら、
手元のチェックシートに記入していく。
ちょっとしたミスも逃さないような、容赦ない採点。
ただでさえ初めての実技試験で緊張しているのに、
魔女の視線は、ハンドルを握る僕の手にじっとりと汗をかかせる。

「そこの路肩に停めな(言い方がきつい命令形)!」
そう、魔女の言うがままに、
後方車両と隣の魔女の顔色をチラチラ見ながら、路肩に車を停め、
ふぅとため息を一つつく。
ここまではなんとか強制終了もなく順調にきた。

チェックシートに評価を記入する魔女みたいな女性は、
手を動かしながら、ぶつぶつとなにやら呟いている。
記入を終え、顔を上げた魔女が、次の指示をだそうと、
顔を上げたその瞬間、
何か邪悪な悪魔の手先かなにかを僕の背後に見つけたかのように、
カッと目を開いた。
「おい、あんた!
 シートベルトはどうしたんだい!?」

一瞬、なんのことだかわからなかったが、
胸元を触ると、あるはずのシートベルトがない・・・ない。
なんてこった・・・。
これまでの運転試験中、
ずっとシートベルトをせずに運転していたのだ。
終わった・・・。

車に乗って最初にやること、自動車運転の「基本のキ」を忘れたまま、
試験を受けてしまった。
それまで、もしかしてうまくできてるかも、
もしかしたら合格できるかもと思っていた淡い期待が、一瞬で消え去った。
シートベルトもせずに運転免許の実技試験を受けるなんて、言語道断。
論外。
試験は終了した。

試験センターに戻り、車の外で魔女を待つ。
同僚とデスクで話し終わった魔女のような試験官は、
こちらにゆっくり歩いて戻ってくる。
試験にパスしていないことはわかっているのに、
なにをこんなに待たせることがあるのかと少々苛立っていた僕に、
魔女のような試験官は、手元の資料を雑に手渡し、
ニコリともせずに、「あんた、合格ね」と言った。

ん?合格?
なんでそんなことになるのかわからない僕は、
渡されたチェックシートを見て、愕然とした。
チェック項目に、「シートベルト」の欄がないのだ。
そりゃ、そうだ。
そんなの当たり前すぎて、チェックすべきだとはだれも思わない。
チェック項目にないから、シートベルトしてなくても合格。
それがアメリカの論理。
いじわるそうな魔女の顔をしていても、判断基準は、チェックシート。
85点。合格。

その、アメリカ的な、公正なチェック基準のおかげで助けられた僕は、
日本で、毎度毎度運転ミスを犯してしまい、
毎回、「違反者講習会」に参加して、毎回、違うビデオを見せられる。
薄暗い教室の中で、多くの「違反者」たちと新作ビデオを見るたびに、
「なにごとも最初が肝心」という言葉を思い出す。

あの時、あの魔女みたいな試験官が、見かけ通り、
「あんたみたいなシートベルトもできないような奴に免許はやれないね!
 そんな奴は国に帰れなくしてやろうか!
 それとも、蝋人形にしてやろうか!」
と言ってくれていたら、
今頃、もっとミスの少ない堅実な運転をしていたんじゃないか
と思う時がある。

でも、彼女は、ルール通り、チェックシートに則って判断したのだ。
だって彼女は魔女ではなく、ただのアメリカ人だから。
アメリカ人の、そういったフェアネスは徹底されている。
そういうところがあるから、アメリカはあなどれない。

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