「痛かったら言ってください」と「困ったら聴いてください」は似ている。
歯科医でメンテナンスをしてもらうと、「痛かったら言ってください」と歯科衛生士さんがにこやかにおっしゃるのだが、この「痛かったら」が曲者である。
たとえば、30分のメンテの時間があったとして、キーンという器械による処理だのガリガリいうものだのをまな板の鯉状態で耐えるわけだが、そりゃ、時々、痛いとか嫌な感じというのはする。
鳥肌が立つような嫌な感じなんてしょっちゅうする。
この時、「痛かったら」の「痛い」の基準が分からない。
仮に、全部の「痛いな」を知らせていたら、治療もメンテも先に進まない。歯科衛生士さんも毎度恐縮することだろう。
子どもじゃないし、我慢できないか?と言われたら、できるわけで、ずっと鳥肌立てながらも耐え忍ぶ。
「我慢せずに言ってくださいね」
と言われても、「5秒ごと」に「痛いんですけど」と本当のことを言ったならば、『大人なんだから少しは我慢してくれよ』ときっと思われるだろうと思うから、やはり、言わずに耐える。
仕事場で、先輩とか上司が「困った時はすぐ聴いてね」と優しく言ってくれることがあるけれど、この「困った」も「歯科医における”痛かったら”」に近いモノがあって、「このくらいの”困った”は、まだ白旗あげる段階じゃないよな。このくらいなら、もっと調べてみろ、とか、工夫してみたら、とか言われるかもしれないよな」とぐるぐる考えて、相談が遅れる。
歯医者さんで言えば、全身鳥肌立っているくらいに気持ち悪いけど、でも、自分は大人だし、まだ他の方策が見つかるかもしれないから、自分でなんとかしようと耐える。
歯科医であれば、それでも、いずれ歯石除去も終わり、多少、血の味がするうがいでもしたら、終わるわけだけれど、仕事において「相談しないまま時が流れる」というのは、多方面に迷惑になることがある。
だからこそ、先輩たちは、「困ったら聴いてね」「困ったらいつでも言ってね」と言うわけなんだけれど、たぶん、「どのくらい困るのは白旗OKなのか」という基準がないのが分かりづらいのだろう。
じゃあ、規準を示せばよいか、というと、これも、人によって異なるはずなので、難しい。
「10分悩んでも分からなかったら来てね」
と時間で示す人もいるし、
「●●と××をやってもダメなら来てね」
と具体的なアクションで伝える人もいるかもしれない。
報連相がなっとらんのじゃ、若手社員は!という言葉を聴くにつれ、私はいつも、「歯科医における”痛かったら言ってくださいね”」問題と同じだなと思ってしまう。
そう、さっき、歯科医に行ってきて、全身、鳥肌立てながら、我慢しまくってきたのだった。どこまで鳥肌が立ったら言えばいいのかと思ったけれど、長そでだし、鳥肌、見えないし、最後まで我慢しようと何も言わずにメンテは終わったのだった。