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森博嗣「作家の収支」読書感想文
読み出すと止まらない読書となっている。
見当もつかなかった “ 相場 ” が、わかった気分になるのが心地いい。
原稿用紙1枚はいくらか?
雑誌の連載はいくらか?
文庫本の解説はいくらか?
帯などの推薦文はいくらか?
作家といえば印税だ。
それらも、がめついようにして書かれている。
書き下ろしの場合の印税は?
ライトノベルの場合の印税は?
絵本の場合の印税は?
漫画化されたら、いくらもらえるのか?
単発ドラマとなったら、いくらもらえるのか?
連続ドラマとなったら、いくらもらえるのか?
アニメ映画となったら、いくらになるのか?
翻訳されたら、儲かるのか?
入試問題に使われたら、使用料はいくらか?
原稿料や印税だけではない。
講演会、サイン会、後援、トークショー、座談会、インタビュー、ラジオやテレビの出演、関連グッズ、などなど。
すべてを網羅といってもいいのではないか。
題名に「収支」とある通りに、支出についても書かれる。
経費になるもの、ならないもの。
節税方法。
隠すことなく、あからさまに書いている。
森博嗣は工学博士
森博嗣は、本業は工学博士の大学助教授。
ミステリー小説となる「すべてがFになる」も読んだが、こっちの本のほうが驚かされる。
言いたい放題なのだ。
ぐっと森博嗣が好きになった。
以下、抜粋してみる。
金儲けのために小説を書いている。
小説など、ほとんど読まない。
子供のころから国語が嫌い。
小説家になりたいと思ったことがない。
小遣いを得るためにバイトで小説を書いてデビューした。
読者に対しては、さほど責任を感じてない。
本がつまらければ、ほかにいくらでも選択枝はある。
「本を買ってください」と言ったり、書いたりしたことなど一度もない。
デビューしたときに “ メフィスト賞 ” を受賞した。
この賞は、デビューのために新しく作られたようだ。
で、贈呈された小さなホームズ像は、ロンドンの土産物屋で10ポンドで売られているものだった。
・・・ あーあ、メフィスト賞。
森博嗣は、うれしくなさそう。
ホームズ像の写真も載っていて、思わず笑ってしまう。
痛快でもあるが「こんなこと書いて、大丈夫なのかな?」と心配にもなってくる。
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原稿料は1枚で4000円から
以外だったのは原稿料。
相場など、あってないようなものだと思っていた。
大御所だと高くて、新人だと安いと思っていた。
が、おおよそ一律らしい。
詳細は以下である。
小説雑誌の原稿料は、原稿用紙の枚数で決まる。
1枚で4000円から6000円。
新人でも大御所の作家でも、原稿料には大差はない。
どうしてかというと、作品の出来不出来や、売れるかなのかは誰も決められない部分があって、結局は出版してみないとわからないから。
印刷した時点で、印税は支払われる。
1冊1000円の本を1万部印刷すると、1000円×1万部で1000万円が売上になるから、印税が10%だったら100万が支払われる。
・・・ もうこれは “ 暴露 ” ではないのか?
だって、これよりも安い原稿料の作家だっているだろうし、原稿料は秘密にされると思われるから、この本の発刊でさぞかし現場は混乱したと思われる。
マイナー作家で1000万
推薦文も依頼される。
新人がデビューするときに、本の帯に書かれる『誰々が絶賛!』といったキャッチコピーのような1文だ。
これは2万から3万。
原稿料というよりも “ 謝礼 ” だろうか。
・・・ 森博嗣の暴露は止まらない。
引退したとあったから、不満をぶちまけているのかも。
ネットに掲載される文章もある。
「WEB ダ・ヴィンチ」というサイトでは、毎日1000文字くらいの文章で、3年3ヶ月の連載が続いた。
原稿料は300文字で5000円。
月に45万円。
3ヶ月ごとに文庫本となって出版されて、原稿料と10%の印税と合わせると、これだけで年収1000万。
・・・ ということらしい。
森博嗣は、自身ではマイナー作家だというが「ぜんぜんマイナーじゃない!」と開いた本に向かって突っこんでいる自分がいる。
作品のドラマ化はいくらか?
作品がドラマになった場合。
著作権使用料は、1時間の放映に対して50万。
テレビのクイズ番組で、再現フィルムとしてドラマ化されたこともある。
30分ほどの長さで、放映料として30万。
やはり、金額は時間に比例しているようである。
おそらく、業界でなにかしらの規定があるのだと思う。
少なくとも「いくらにしましょうか?」という話し合いはなかった。
ただ、金額がいくらであっても、宣伝になれば本は売れるので、普通は断らない。
・・・ 想像していたよりも安い。
ドラマ化してからの本の売れ行きは、以下である。
本の売れ行きは、連続ドラマと単発ドラマでは差がある。
連続ドラマだとテレビ局が力を入れて宣伝する、ということも多少は影響があるのかもしれない。
そして、番組によっては、放送の影響で本が売れるという現象は、ほぼ観察されないこともある。
・・・ 作品ごとに、細かく計算して金額を示している。
発行部数の推移を、表にして載せてもいる。
けっこうシビア。
サイン会は無駄
書店で行なわれるサイン会は、無料奉仕。
謝礼がでることがあるが、ぜいぜい10万くらい。
これらのサイン会は、出版社の広報部と書店が企画するのだが、いったい誰が得をするのかわからないイベント。
みんな仕事したつもりになっているが、宣伝効果はほとんどないといっていい。
だた、書店の店長が、作家を呼ぶ力があると誇示できる、というくらいがメリット。
トークショーも、たいていは、なにかのプロモーションで行なわれる宣伝活動の一環で、無料奉仕。
10万円程度の謝礼が出れば良い方である。
そんなプロモーションがどれくらい効果があるのか、という点は大変に疑わしい。
やってもやらなくても変わりがない、と確信している。
・・・ 森博嗣は、デビューして19年。
278冊出版。
稼いだ総額は、約15億円。
1冊あたり約5万部が売れて、約540万を稼いだ。
やってもやらなくても変わりがないというのは本当だろうな、という説得力はある。
インタビューは生産的ではない
雑誌からインタビューされることもあるが、誰が企画しているのがよくわからない。
注目されているからではなくて、出版社が広告料を雑誌社に支払い、作家に内緒で企画されることが多いからだ。
いずれにしても、インタビューは無料か、数万円の謝礼が出るだけだ。
消費する時間や、それに対する効果を考えると、仕事としては生産的だとは思えない。
また、著作権が質問者にあるのか、回答者にあるのか、という点も不明な点もある。
・・・ ここまで書いておいてなんだけど、直接に読んだほうが、早いし正確だしおもしろいかも。
3時間、いや、2時間もあれば読める。
新書の204ページで、大きめの文字。
ぼやかして書いている部分がないので、読み応えはある。
新聞社は上から目線
新聞社の記者が、取材を申し込んでくることもある。
が、顔写真が撮れないとなると、ほとんどがボツになる。
「ぜひ、お話をおうかがいしたい」などと言ってくる割には、その程度の動機だということだ。
インタビューのみ受けたとしても、謝礼として図書券くらいが出れば良い方だろう。
「宣伝してやる」という上から目線でくることが多く、「興味があって知りたい」などとは思ってない。
・・・ 森博嗣は、新聞記者で嫌な思いを何度もしているようである。
1度や2度ではないと思われる。
ラスト
最後の章で、森博嗣は述べる。
以下、おおよその抜粋である。
「好きだから」という理由で書いている人は、好きでなくなったときにスランプになる。
感情的な動機だけに支えられていると、感情によって書けなくなる。
仕事に徹していれば、スランプなどない。
仕事という行為は、例外なく守銭奴になることだ。
近頃は、仕事に「やり甲斐」を求めたりするが、実社会にはそんなものは存在しない。
幻想なのである。
小説家というのは「幻想的職業」の最たるもののひとつといってもいい。
職業としての立場を支える環境は、仕事をして得た報酬によって実現される。
本書では、その具体的な一例を示した。
他意はない。
どうか、自分の人生設計に有意義にこのデータを使っていただきたい。
・・・ 工学博士という感じがする。
博士になんて会ったこともないけど。
あくまで金額はデータ。
書くための環境を設計するために、このデータを使ってくれ、ということか。
そういえば。
この本には、書くことに対して “ 文学 ” とか “ 文化 ” など持ち出したりはしてない。
よくある、出版社へのお礼とか謝辞なども、書き立てたりするのも一切ない。
厳しい言い方にはなっているけど、森博嗣の目線は、しっかりと読者のみに向けられている。
あとがきは6ページある。
書くことへのアドバイスが繰り返されて「最適の健闘を!」で終わっている。