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立花隆「ぼくはこんな本を読んできた」読書感想文
読書量がすごい。
前半は、インタビュー形式で読書遍歴を話していくのだけど、ポンポンと作家と本の題名が出てくる。
小学校のうちには、世界の名作は読みつくしている。
中学と高校で、古典や長編小説は、あらかた読んでいる。
東京大学仏文科に進学してからは、あらゆる哲学書を読んで、ときどきは原文で読んでいる。
どのくらいの作家名と本のタイトルが出てきたのだろう?
このあたりまでで、指で数えてみた。
すると、約230ある。
ほとんどが読んだことがない本だ。
見たことも聞いたこともない作家も多数いる。
ああ・・・。
読書人の端の端の端の端の端の端の端くれになろうと思っていたのに・・・。
たぶん、それすらムリだぁ・・・
そりゃ、檻の中にいる中卒の読書量など知れている。
が、象とミジンコほどの差を目の当たりにして、ぶちのめさた思いだ。
前半は読書遍歴、読書論、読書術、書斎論、となっている
とはいっても、時代がちがう。
立花隆は、1940年(昭和15)生まれ。
なんといってもネットがない時代だから、その分だけ知識を得るには読書するしかなかったのだろう。
立ち直りが早いのには自信がある。
すぐに気を取り直して読書を続けた。
で、立花隆は、大学を卒業してからは文芸春秋に就職。
それからノンフィクションを読むようになる。
で「本をもっと読みたい」という理由で早々に退社。
それだけ。
ただ、本を読みたいだけ。
当時に書いた『退社の弁』という文章が載せられているが、本を読むために文芸春秋を辞めている。
そして読書をしながら本を書く。
10をインプットして1か2をアウトプットする、と本人がいうくらいだから、1冊の本を書くのに何冊読んでいることか。
なんにしても、とにかく本を読んで書く。
本の保管場所に困るほどにもなって、3階建ての小さなビルを建てる。
本文中には、ビルの中がイラストで紹介されていた。
壁一面は本棚で真ん中に机がある、というレイアウトになっていた。
本に埋もれているような立花隆だ。
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立花式読書術
まず金をつかえ!そうすれば身につく!
読書術としては、まずは3万円持って本屋に走れという。
いや “ 走れ ” とは書いてない。
そのくらいの勢いで書いている。
この本の文章は、全体的に丁寧語ではない。
立花隆は、気を使うことなく話して書いている。
ともかく、この3万円というのは1975年のこと。
今には当てはまらないが、そこそこの大金を持って本屋にいけということだ。
人間、金をつかえばイヤでもやる気がでる。
語学を勉強したときも、金を払って家庭教師を雇ったら、すぐに覚えることができたと、立花隆はくどいくらいに説く。
本との出合いは自分でするしかない!
インタビューに答える立花隆は「読者に勧める立花隆のベスト5」といった本を挙げていただけませんか、というお願いを向けられる。
すると「それはいやだね」とあっさりと答えている。
独特の読書術がチラ見えする箇所だった。
以下、要約して抜粋する。
僕は、若いころから、人が推薦するような本を読んでよかった記憶がない。
つまらない引っ張れ方をしたな、という後悔しか残らなかった。
“ この1冊 ” という読む方は、するべきじゃない。
興味があったら、関連の本は10冊は読むべき。
その10冊の中には「ああ、なるほど」という本が必ずある。
本との出合いというのは、そういうものなんじゃないかな。
・・・ 1冊や2冊を読んで一喜一憂している自分は、ある意味、幸せな読書をしているのかもしれないと、これはこれで前向きに捉えれた。
すぐに本棚には入れるな!机に平積みにしろ!
立花隆は、神田の書店街をおすすめしている。
本屋の名前も記して、そこでの本の選び方なども、具体的に書いている。
途中で喫茶店にいって休むように、とアドバイスは細かくておもしろい。
立花隆が、神田をうろついている姿が目に浮かぶ。
で、家に持って帰ったら、本棚に入れてはいけない。
読んだ気になってしまうので、机の上に平積みしておく。
そうすると、せっかく買ったのだから読まなければいけない気になる、というのもおもしろい。
立花隆だって、いつでもすんなりと本を読めるのではないのだと、少しの安堵感すらある。
本にはどんどんと書き込みを入れろ!
「本には書き込みをしろ」というのは以外だった。
書き込むために買うのだった。
若い頃から持っている本は、書き込みでいっぱいらしい。
後年になって読み返すと、そのときには何を考えていたのかわかるという。
自分は今までは、本に書き込みをしたことがなかった。
今は官本なので無理だけど、ここを出たら本に書き込みをしようと思えた。
あとは「まず読め」ということだ。
ノートをとりながら読むと、5倍も10倍も時間がかかる。
これで、読書録の悩みがひとつ解消した。
読みながら書いてみたり、途中で書いてみたり、読んでから書いてみたり、どれがいいのか試行錯誤していたときだった。
読んでから書くように決めた。
書斎論
立花隆は、ビルを建てるまでは、何度か引っ越している。
で、まずは書斎となる場所を決める。
そのときは、いちばんに日当たりがわるい、いってみれば “ デッドスペース ” のような場所を書斎として机を置く。
そして、リンゴの木箱で3方を覆う。
この、リンゴの木箱がいかに使えるのか、熱く語っている。
もっと日当たりがよくて、場所も広くて、風通しのいい場所で書いているのかと思ったら、そうではなかったのだ。
この書斎術には勇気が出た。
コンクリートの独居房にいる受刑者にとっては。
読書日記について
週刊文春の「私の読書日記」に連載していたもの
後半の章は「読書日記」になる。
これは週刊文春の「私の読書日記」のコーナーに連載していたときのものになる。
現在でも続いているコーナーで、未決囚のときに読んでいたのでなじみがある。
これが読みたかった。
ここでも、立花隆は読者に遠慮しない。
まずは、書評が嫌いだという。
読むべきか、読まざるべきか、それだけを端的に示してくれればいいだけ。
読んでみた解釈や感想などはこっちでやる。
余計な先入観を与えないでくれ、と語気は荒い。
こんな感想文を書いている自分は、まるで立花隆に怒られているかのようだ。
なんにしても。
立花隆の「読書日記」の連載では、1回で3冊ほどから5冊ほどを端的に紹介していく形式になっている。
数えてみると254冊紹介されていた
5人で持ち回りする連載だから、5週に1回。
1回につき、3冊ほどから5冊ほど。
それが3年分。
指差して数えてみると、254冊が紹介されていた。
ほとんどが、ノンフィクションとなる。
いわゆる文芸作品は、確めたけど1冊もない。
“ 人気 ” とか “ 大ヒット ” とされている見知ったタイトルの本も1冊もない。
定番とされている名作は1冊もない。
必読とされている古典なども1冊もない。
すでに読んでいるからだと思われる。
ジャンルが幅広くて性についてが以外に多い
政治、経済、社会問題、歴史、宇宙、医学、芸術、サブカルまでジャンルが幅広いノンフィクションが紹介される。
以外なことは、性に関しての本が多数紹介されること。
もっと潔癖な人だと勝手に思っていた。
たとえば “ ○ンコ ” なんて、書いてもいけない、文字にしてもいけない、目に触れてもいけない、制限をかけなければいけない、18禁の断りをいれなければいけない、恥ずかしいものである、隠さないといけないものである、考えてもいけない、存在してもいけない、くらいの潔癖な人かと思っていた。
が、普通にク○トリスの大きさを調べた本を紹介して、こっちの本ではこうあったと比較している。
ヌードについて、ヘアーについて、エロ玩具について、といった本もサラリと紹介している。
それらが、まったく下卑てないのがいい。
巻末の年譜を見ると「アメリカ性革命」という本も書いているから、性については重要なテーマのひとつになってるだろうと思われた。
著者に気を使わない感想が爽快
1冊の書評は短くて「面白い」が連発される。
「興味深い」「はじめて知った」「考えさせられる」「驚いた」「貴重だ」といった簡単な感想もつく。
基準はよくわからない。
「怪しげだが読む価値あり」「低水準だが面白い」「面白くはないが見逃せない1冊」「バカバカしいが楽しい」という感想もたくさんある。
半々くらいで辛口が多い。
「文章がひどい」「読みにくい」「考え違いしている」「低劣である」「飛ばし読みしたほうがいい」と、けっこう厳しい。
もっとひどい辛口もある。
「怒りがわく」「読むに耐えれない」「ここはいらない」「ごっそり削除してほしい」「翻訳がひどい」「大口を叩ける水準ではない」と遠慮しない。
著者に気を使う様子はなくビシッと書いている。
なんていうか、自由。
本の造りにこだわる
ほかの書評と大きくちがう点は、本の造りにも大分こだわっているところ。
好き嫌いがハッキリしている。
造りが好みだと「これで5800円は高くない」「これで4900円は安い」「この出版社は頑張ってほしい」と喜んでいる様子が伝わる。
手に取った感じがよくなくて、内容もそれほどでもないと「これで1000円は高い」「あきれた本造りである」と切り捨てている。
お薦めしているのは7冊ほどしかない
3年間の連載で約254冊。
その中で “ お薦め ” している本はないのか?
確めてみると、見事にない。
手放しで「この本はおすすめです」という紹介は1冊もない。
だた、限定しておすすめしている本は8冊ほどはあった。
以下のようにおすすめしている。
本屋で立ち読みしてみるのをおすすめする。
国際ビジネスマンには必読の書。
生命倫理に関心がある人は、読んでおくべき本。
出版界に関心がある人には、一読をおすすめしたい。
ヨーロッパ文化を理解しようと思ったら必ず読まなければならない、という薦め具合だ。
読書論のインタビューで言っていたように、本の出合いとは、人に薦められたからではなく自身でやるべき、という考えを貫いているのは伝わった。
ネコ好きと読書好きの関係
“ 知の巨人 ” といわれているもう1人に佐藤優がいる。
佐藤優も読書量がすごいらしい。
そして、佐藤優はネコ大好きで「ズルさのすすめ」では、人はネコを見習うべきと1章を費やして書いている。
すると、立花隆もネコ大好きだった。
あれだけ本については持論を貫くのに「ネコの本があるとつい買ってしまう」と何冊か紹介している。
そこだけ “ つい ” で済ませているのがおもしろい。
そして、建てた小さなビルには、壁面いっぱいにネコのイラストが描かれている。
近所からは “ ネコビル ” と呼ばれているとのこと。
ネコ好きと読書は、なにか関係があるのか・・・。