価値の箱(Value Box)
3C分析の落とし穴
前号では、3C分析を取り上げ、
1)競合他社にはできない
2)自社ならできる
3)顧客は欲しがっている何か
を探すことから、価値提案(Value Proposition)は始まると申し上げました。
競合他社には無いけれど、自社ならできる、顧客が欲しがっている価値を開発するための成功要因分析 = 3Cアナリシスで、優位性(強み)を見つけようということです。優位性は価値になるからです。
それ(3C分析)を否定はしませんが、肯定もしません。なぜなら3C分析というと、
1)competitor(コンペジター/競合)と書いた大きな○を画き、
2)company(カンパニー/自社)と書いた大きな○を画き、
3)customer(カスタマー/顧客)と書いた大きな○を画き、
3つの○を重ね合わせ、○が交差する部分(優位性。提案すべき価値)は何か考えがちだからです。
考えて、それを見出せる人ならば、いいでしょう(だから否定はしません)
が、机の上に紙を広げて画いた円交差図を見つめていれば閃くでしょうか?
(だから肯定もしません)
マーケティングは現場で起こっていますから、机の上で3Cの分析に勤しむより、現場へ足を運んで、マーケティング・リサーチを徹底するほうが先でしょう。
以降の例示を女性読者は不快に思われるかも知れませんが、たとえば、AV(アダルトビデオ)とビデオデッキを例に挙げると、
家電販売店の店主は、
「当店では、ビデオデッキを販売している」
と思って店番しているでしょうけれども、VHSとベータのビデオ規格戦争をVHSが制したのは、AVがVHSでレンタルされ始めたからですし、
レンタルビデオ店の普及と共に、VHSビデオデッキは爆発的に売れ始めましたし、
今でもレンタルビデオ店の売上を安定させているのはAVだそうです。
つまり、買う側は、ビデオデッキが欲しいのではなく、AVを見るためにビデオデッキを買うわけですから(=インサイト)、それ(インサイト)さえ知ってしまえばコッチのもの。
ビデオデッキを売りたければ、チラシを配ったり、値引きする前に、レンタルビデオ店を併設するといいわけです(=バリュー・プロポジション)
店舗を構えるのが難しければ、メニュー表よろしく、注文式でもいいわけです。
テレビも売りたかったら、テレビゲームもレンタルすればいいわけです。
レンタルショップと家電販売でダブルインカムになるし(=売上up)いいこと
づくめ。
以上のように、リサーチさえ徹底すれば3C分析するまでもありません、ヒントは(時に正解そのものさえ)顧客が教えてくれます。
■ 本音の建前化
本音と建前の「本音」です。これが、価値の源になります。
人は、本音で動きます。あるいは、絶対に動きません。
体に悪いと知っていても高カロリーな食べ物を口にしてしまうのは、食べたいからですし、
動きたくない(楽したい)という本音がある故に文明は進歩してきました。
引き続きレンタルビデオ店を例に取ると、表向きは映画やアニメのレンタルを前面に押し出していますが、奥ではAVをレンタルしていて、そのAVで店の経営が安定している事実は既に書きました。
「だったら、全面的に、AVだけにすればイーじゃん」
と思われしところ、それでは風俗営業と同類の「いかがわしい」店舗になってしまいますし、
一般的な街区に、いかがわしい店舗は不似合いですし、
教育上よろしくないと住民から反対されるでしょう。
そうなると、商売に、差し障りが生じます。
それに、お客さんが(気恥ずかしくて)入りづらい。
映画やアニメといった建前があるから入りやすいのであって、AVが目的だからといって、いかがわしい店舗へ堂々と入れるのは歌舞伎町だけでしょう
以上のように、本音は、建前に隠さなければなりません。本音の建前化です。
まず、徹底したリサーチにより、本音(インサイト)を知ること。
本音(インサイト)を知ったら、建前にすること。
その方法は簡単です。邪まで醜く汚い浮世の鬼を、清く正しく美しい天使の姿へ変えるだけ。表裏一体化している裏の面を、表の面へ反転するだけです。
森羅万象、陰あらば陽あり。明あらば暗あり。闇あらば光あり。
本音を、どう建前にすればいいか、リサーチ(調査分析)が、ヒントを与えてくれるでしょう。
■ 価値の箱(Value Box)
価値提案(Value Proposition)にマーケティング・リサーチは必須。ここまではおわかりになったと思います。
リサーチ(調査分析)の真髄は、自社や自分達の主観ではなく、顧客の視点で客観的に見聞きし、知り得ることです。
たとえば、本は、本を読みたいだけで買うのでしょうか?(だとしたら、激安で読める電子書籍は巨大市場になっているはずです)
読みたいと思って買うのは、じつは少数(話題作だけ)で、
・本棚に飾りたいから買う
とか
・読み終わったら売るために買う
とか
・持っていると誇らしいから(来客に見せたいから)買う
とか
・ファンの作家だから全作品を揃えたい
という
インサイトがあるかも知れません。だとしたら、背表紙が売れ行きを左右するかも知れません。
その仮説が正しいかどうか再度リサーチし、正しければ、背表紙にフォーカスして商品企画(装丁)することです。
表紙のカバーを、異なるデザインのリバーシブルにするとか、背表紙に細かな(タイトルと著者名と出版社名のみならず)キャッチコピーを書き加えるとか、目的さえ理解してしまえば、アイデアフラッシュは幾らでも出てきます。
「アイデアは幾らでも出てくるって?それなら苦労しねーよ」
と思われるかも知れません。
では、付加価値マーケティングの価値戦略における価値の創り方として
「バリュー・ボックス」
をご紹介しましょう。オズボーンのチェクリスト等をご存知の方は、合わせ技として使うと効果的です。
文字で伝わるかどうか(ベネフィット等割愛しますので)心もとないのですが、コンサルティングで私が実際に使っている価値抽出法です。
では、サイコロのような、真四角で、真っ白い箱をイメージしてみて下さい。
箱は、六面体です(三角錐だと四面体ですし、面が多ければ球体に近づきますが、わかりやすいように、サイコロのような四角い箱を例に取りあげます)
その箱のフタを開け、中に、売りたい商品を入れて、フタを閉じて下さい。
箱の中身は見えません。何が入っているか、傍目には分りません。
では、中に入っている商品の売りを※一面に一つずつ、箱の6つの面に書いてください。
※アピールポイント、強み、長所、優れた点、良いところ、メリット、特長、肯定的側面、美点、武器、いい部分、プラス面、ベネフィット
書き入れるときに意識するのは、
「箱 そ の も の が欲しくなる売りであること」
たとえば、箱の中に、ビデオデッキを入れるとして、その売りを書き入れる時、
1)高画質19ミクロンヘッド搭載
2)360倍速高速巻き戻し
3)ワンプッシュダイヤル早送り機能
:
じゃないことは(前述のAVとビデオデッキの例の通り)お分かりになると思います。
6面に6つ書き入れなくても構いませんが、
「もう、これ以上のアイデアは、出てこない」
と悲鳴を上げるまで「6」にこだわって下さい(6つくらいカンタンに出てくる場合は、六面体ではなく、八面体なり十二面体の球をイメージして下さい)
なぜなら「6」というルール(しばり)が重要だからです。
しばりがなければ、考えませんが、しばりがあると、考えます。
そんなものです、アイデア・アウトって。
なので、6つ埋まるまで、あるいは、投了して悔いなしと諦めがつくギリギリまで考え抜いてみて下さい。
そこまで考え抜くには、リサーチ - 情報収集 - と時間が必要になるはずです。
結果、6つでなくても、1つでも、4つでも構いません。それが、あなたの商品の価値です。
次に、それらの売りは、一つの主題で首尾一貫しているかどうか、色を塗って下さい。
赤でも青でも、箱が一色に染まれば、終了。
反対に、それぞれの面の色がバラバラだと、箱の価値は一貫していないことになりますから、色の異なる売りを書き直すことになります。
その繰り返しで、箱は一色に染まります(価値が首尾一貫します)
仕上げに、この箱が欲しいかどうか、聞いてみて下さい。またしてもリサーチです。
欲しいという人が、多ければ多いほど、箱の中に入っている商品は、売れます。
その前に、その箱を持っているのは、貴社だけでしょうか?
それを検証すべく次回、もう一つのツールである「価値の山」をご紹介します。
よく、マーケティングには「差別化」という大事なキーワードが出てきますが、
「差別化って、ナニを差別化すればいいの?」
と、具体化しようとすると、そこ(差別化の定義)から先は曖昧で、きわめて抽象的であることは、ご存知の通り。
抽象的では、実戦で使えませんから、具体化する必要があります。
具体化するには、少なくとも一つの自社のレーダーチャートを作ります。
できれば、競合他社のレーダーチャートも作り、2つ以上のレーダーチャートを重ね合わせて、強みと弱みを比較します。
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