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【書評】ウォルト・ホイットマンの詩と評論
彼は本を自前で作って売り歩いた。『草の葉』の刊行は増補改訂を重ねながら九度なされた。アメリカの精神風土を高らかに語ったその本は、時代の変化によって内容も変わった。
「おそれるな、おお、詩神よ!たしかに新しい習俗と日々があなたを迎え、取り巻く。正直に言うが、ここにいるのは新しくて奇妙な人種だ。しかし、それでもやはり昔と変わらぬ人間の種族、内側も外側も同じで、顔も心も、気持ちも同じ、憧れも同じ、愛も、美も実用も昔と変わらぬ人々なのだから」
ひとたびはそう書いた彼も、アメリカ精神の変容を認めないわけにはいかなかった。南北戦争があり産業革命があった。それらを経てアメリカはどう変わったか?一九七〇年に活字になった『民主主義的展望』という評論で彼はこう書いている。
「今日の合衆国にいる時ほど虚ろな気持ちになることはない。私たちは心の信仰を捨て去ってしまったようだ――私たちの国の実業界の腐敗は想像を絶するものだ。アメリカの国家であれ、州であれ、都市であれ、公的機関は汚職や贈賄や欺瞞や不手際に満ちている。司法部門でさえも汚染されている――新世界の民主主義は、それが絶望から大衆を救うことにおいて、また物質的発展や生産物の増産において、さらにはきわめて欺瞞的で表面的な通俗的治世を生み出すことにおいてどれほど優れていようとも、また実際に偉大な宗教的、道徳的、文学的、美学的な成果の点から見て、ほとんど失敗に等しいものだと言えよう」
かつてのアメリカの理想が、今日のアメリカの疲弊となっている。絶えざる自由の追求。だが、市場経済と消費文化の果てに来るものは心の荒野だ。
民主主義の展望 (講談社学術文庫 1024) | ウォールト ホイットマン, Whitman,Walt, 重信, 佐渡谷 |本 | 通販 | Amazon