エロからエロでないものまで、手広く揃えられた"沼"【感想】日向坂46・金村美玖1st写真集『羅針盤』
これは、日向坂46・金村美玖1st写真集『羅針盤』の感想だ。その前に少々、アイドルオタクでもなんでもないわたしがどうしてこの写真集を手に取ることになったのか、記しておきたい。
わたしの妻は、筋金入りのアイドルオタクである。今度、日向坂46の大きなライブがあるらしく、紆余曲折あり、一緒に行くことになった。
一方、わたしは坂道系のアイドルのことはよく知らない。日本のアイドルは2018~2020年くらいまで事件がいくつか起こっており、それを知って遠ざかってしまった。
ひるがえって、文芸の世界では、この頃(2020年)に『持続可能な魂の利用』という名作が出ている。明らかに元欅坂46・平手友梨奈さんがモデルであるキャラクターが登場する話だ。それだけ坂道系のアイドルが強い時代でもあった。
妻は、欅坂46の仲間グループ・日向坂46のとある人が「推し」だ。若い自分のしんどいときを救ってくれた人なのだという。「秋元康にどんだけお金をつぎ込むつもりなのだ……」という逡巡はかなりあったものの、最終的にはライブに行く気になった。
せっかく行くのであれば、筋金入りのオタクの妻に恥じない楽しみ方をしたい。「ライブの予習」というやつだ。
しかし、何から入ろう? ここが、本当に難しかった。
これが『羅針盤』を買った理由でもあるから、もう少しお付き合いいただきたい。
これは自論であるが、新しいジャンルを勉強するとき、主要な方法がいくつかある。
ひとつが「公式発表の情報をとにかくたくさん見ること」。もうひとつが「すでにそのジャンルを好きな人たち(オタク)から教えてもらうこと」だ。
まず「公式発表の情報をとにかくたくさん見ること」をやっていこうとした。歌って踊ることを生業にする人たちだから、公式から出ているミュージックビデオが良いのではないかと考えた。日向坂46は公式YouTubeチャンネルの動画だけでも大量にある。これを見て、YouTubeの動画を全部見るのは、そうそうに諦めた。
というわけで、次の「すでにそのジャンルを好きな人たち(オタク)から教えてもらうこと」をやろうとした。もちろん妻の情報はありがたく受け取っているが、ジャンルを効率よく勉強していくのであれば、いろんなファンと複数人やりとりをし、自分にとって心地の良い情報から吸収していくのが望ましい。しかし、妻以外のオタクから教えてもらうのも、難しそうだった。
日向坂46は、10代~20代の女性たちで構成されている。彼女たちとコミュニティが近い人たち、年齢層が近い人たちが応援するのが自然なのではないか、と思うのだが、軽く調べた感じだと、今はそうでもないらしい。「長く推している人」が多い印象とのこと。(これはネットの不確かな情報がソースのため、話半分で読んでほしい)新参者のわたしには、ハードルが高く思えたのである。
それならこうだ、でもそうか、そうならこうか……。「少女性」を強く売り出しているグループにおいて、擬似制服を着せられた女子たちを「可愛い~」と素直に眺めることはどうしても難しく、しかし、妻と共にライブを楽しみたい。だから、日向坂46のことをよく知りたい。わたしは、そんな思いから、これまでに試したことのないところから取っ掛かりを見出そうとした。
………………………………エロだ!
そういうわけで、わたしは己の「欲」を信じて、『日向坂46 金村美玖1st写真集 羅針盤』を買った。金村さんのことは何も知らない。「日向坂46 写真集」と調べたときにトップページにあったからである。
のちに知ったのだが、いわゆる坂道系のアイドルたちは、テレビや雑誌などでの仕事の際は、肌の露出を控えているらしい。確かに首元までボタンが閉められたワンピースや、膝丈くらいのスカートの衣装を着ていることが多いようだ。パンツスタイルで踊っている曲もある。つまり、ド直球のセクシーショットを見られるのは、写真集という媒体が主である。
満を持して、『羅針盤』の感想である。
撮影はデート仕立てで、いくつか場面転換がある。日本国内の様々な場所で撮影をしており、地方のファンにも嬉しい内容だろう。昼間ご飯を美味しく食べている金村さん、そして夜はホテルで共に過ごす金村さん。想像を掻き立てられる写真が多数載っている。
率直に言うと、煽情的だ。出し惜しみしているだけある。
先ほど「テレビや雑誌などでは、肌の露出を控えているらしい」と書いたが、写真集では、表紙からも分かるように、存分に肌が露出されている。金村さんは、やや特徴的な位置にホクロがある。これは普段の衣装だと見えない。ホクロを強調するショットもいくつかあり、これは写真集を買ったファンは文字どおり「垂涎」だろう。
「19歳」の時に撮ったというのも、上手い。18歳であれば、夜のシチュエーションは少々憚られるだろう。かといって、20歳になってしまうと「大人」のイメージが付きまとう。
高校生風の衣装を着ていても違和感が少ない「10代」で、夜のシチュエーションもこなせる。そのタイミングでこれを発売したのは、商才のなす技だと思う。
蛇足だが、妻は筋金入りのアイドルオタクではあるものの、写真集はほとんど買わないという。なぜなら「男目線で作られたエロが気持ち悪いから」。むべなるかな。
わたしは「日向坂46のメンバーを一人でも多く覚えたい」「日向坂46に興味を持ちたい」という動機でこの写真集を買った。振り返ると、それは大成功だった。すっかり興味を持つようになり、毎日1本ずつミュージックビデオを観ている。まだ顔は覚えきれていないが、金村さんの気配は分かるようになってきた。これは写真集を手に取らなければ分からなかったことだ。
アイドル文化の楽しみ方は実に多岐にわたるものなのだと、この写真集を買って学んだ。
わたしのようなエロが好きな人は、写真集を買えばよい。アイドルとコミュニケーションを取りたいファンは、ファンミーティングに参加することで満たされる。グッズで部屋を埋めたい人は、買えばよい。メイクを参考にしたいファンは、雑誌モデルを兼任しているアイドルを参考にする。楽曲を楽しみたければ、配信メディアやミュージックビデオを観る。ライブが好きな人はライブに行けばいいし、テレビ露出があるから、お金が少ない学生でも楽しめる。
マルチメディア戦略が、すごい。すべての情報を追えないくらいの多いアイドルと多いメディアを与えることで、ファンは「見たくないものは見ない」を自発的に選択しているかのように錯覚する。結局、そうすることにより、売る側は多くの客を獲得することができるというわけだ。
エロからエロでないものまで、手広く揃えられた"沼"に来たのだ――
写真集を読み終わり、俯瞰して考えてみると、そんな風に思った。
その"沼"の中に入るかは分からないが…… ライブが楽しみだ。
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