空が広い
窓から外を眺めれば、パンツ一丁のおじさんがいる。アパート1階の僕の部屋は、なぜか線香の匂いがした。ベランダ前を通り過ぎる3人の小学生。彼らの噂話し声に耳を傾けると、匂いの理由はそこにあった。すこし家賃が安かったが、そういうことである。
僕は短期転勤族だ。今の事業所は10ヶ所目。通勤手段は自転車。途中には大きな神社も存在している。かなり古いようだ。通り過ぎるだけで気持ちがいい。
雨の日は電車を利用する。短い区間だが乗り換えもある。自宅から駅までと、駅から職場までは徒歩だから、通勤時間は長くなる。自転車の1.5倍ほどだ。たまにすべてを徒歩にしてみる。すると通勤時間は3倍だ。
けれども、それが一番気持ちいい。古い神社の境内を歩く時間も多いからだ。傘をさして歩くのも好き。時間は掛かるが、考え事も捗るので、あっという間だ。
職場は男ばかりの9人だった。歳も同じくらいの者で揃っている。僕は下っ端だが、なぜか昇進した。会社都合というものだ。いろいろあるのだろう。僕からしてみればどうでもいいことだ。形だけの役職で一喜一憂していたら精神も持たない。といいつつ、もらえるものはもらっておいた。
仕事はお掃除系だ。特に高い技術もいらない。廊下掃除だってやる。掃き掃除と拭き掃除だ。トイレ掃除も含まれている。久しぶりだが慣れたもの。正直に言うと好きな作業に入る。なんだか落ち着くのだ。家でのそれは嫌いだが、仕事のそれは嫌いではないのである。
仕事場での雑談は増えたと思う。余裕のある仕事量のためだろう。だがそれだけではない。やはり同年代の同性が集まっていることが大きい。思い返せば女性ばかりと仕事をしていた。これだけの同性と仕事をするのははじめてである。
週末はドライブをしている。もちろんカメラも荷物のひとつ。ここは寺社仏閣が多い。僕は早々に決めておいた。『拝観料はケチらない』。この地に移り住んだ当初は、拝観料に抵抗があった。単発なら抵抗もないが、毎週となると考えてしまう。貧乏性なのだ。だから決めておいた。おかげでこの地を満喫できている。
今回の引越は長距離であった。場所が変われば文化も変わる。街の雰囲気も違う感じがした。『地に足ついている』。その感覚が強いのかもしれない。方言も独特だ。車の運転マナーも微調整が必要だった。
スーパーの品揃えは相当違う。納豆巻きが少ない。やたらと鯖が多い気がする。商品の別棚放置が多いのは、たまたまであろうか。他は特段変わりない。おかげで料理も絶好調だ。この地の特産品が何かはまだ分からないが、これから知っていくのであろう。
時間の進み具合が遅い気がする。いい意味でだ。夕方の雰囲気がいい。自然と上を向きたくなる。ここは空が広い。北海道のそれとは違う広さだ。上にも下にも被写体が溢れている。片っ端から撮るつもりだ。僕の写真は止まらないのである。